著者
大井 逸輝 河﨑 亮一 田中 健太郎 御影 雅幸
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.305-312, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
8

漢方生薬「附子」は強毒性のブシジエステルアルカロイド(BDA)を含むが,生薬原料には BDA 含量の高いものがよいと考えられてきた。一方,第十六改正日本薬局方では減毒処理方法および BDA 含量の上限値が規定された。本研究では,古文献の附子の良品に関する記載内容を検討し,附子の形状と BDA 含量の関係について調査した。その結果,大型で角(細根基部肥大部)がある附子が尊ばれていたこと,また使用時は,原材料(子根)から細根基部肥大部(節・角)および根頭部(臍)を切り取る修治が行われていたことが明らかとなった。大型の附子は BDA 含量が低値に安定し,根頭部(臍)および細根基部肥大部(角)は子根本体に比べて BDA 含量が高いことが明らかになったことから,選品においても修治法においても BDA 含量を低くする目的があった可能性が示唆された。したがって,古来の良質品附子は毒性が低くかつ安定したものであったと考証した。
著者
御影 雅幸 小野 直美
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.419-428, 2009 (Released:2010-01-13)
参考文献数
40
被引用文献数
4 5

漢方生薬「芍薬」は,日本ではシャクヤクPaeonia lactiflora Pallas(ボタン科)の栽培根を乾燥したものを使用しているが,中国では「赤芍」と「白芍」に区別して用いている。中国では5世紀には芍薬に赤と白の別があることを認識し,原植物も複数種あった。芍薬の赤・白の区別点については古来,根の色,花の色や花弁の形態,野生品と栽培品の相違などの説があった。本研究で古文献の内容を検討した結果,野生品か栽培品かに関係なく,根の外皮をつけたまま乾燥したものを赤芍,外皮を去って蒸乾したものを白芍としていたと考証した。また明代の湖北,安徽,浙江周辺では,野生品で赤花のP. veitchiiやP. obovata Maxim. の根を赤芍とし,栽培品で白花のP. lactifloraの根を加工して白芍薬として使用していたと考察した。このことは芍薬の赤白がたまたま花色と一致したため,赤芍は赤花,白芍は白花とされ,同様に赤芍は野生品,白芍は栽培品として区別する習慣ができたものと考察した。
著者
毛利 千香 御影 雅幸
出版者
日本薬史学会
雑誌
薬史学雑誌 (ISSN:02852314)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.78-83, 2015 (Released:2020-12-03)

The original formulation for Tusujiu, which Japanese people still consume on the morning of January 1st, was created by Hua Tuo, but has not been studied in detail. The book Huatuo Shenyi Bizhuan, found in 1918, describes a concoction, Biyijiu, that shows great similarity to the current Tusujiu; the ingredients for Biyijiu being rhubarb, atractylodes rhizome, cinnamon bark, platycodon root, zanthoxylum fruit, processed aconite root and smilax rhizome. The procedures for preparing and drinking it are to pound the ingredients and then put them into a silk bag dyed with madder. During the daytime of the last day of the year, hang the bag in a well to soften the powder. Take the bag out early in the morning of the next day, the first day of the year. Heat the bag in fermented liquor until simmering. Drink the liquid with all family members, doing so while facing east. If one person drinks it, there will be no disease in the family. If the whole family drinks it, there will be no disease in their neighborhood in an area of one square li. In this study, to determine the original formulation for Tusujiu, we examined a number of ancient medical texts from the 3rd to the 13th century that discuss Biyijiu and Tusujiu. As a result, we concluded that Biyijiu is likely to be the original formulation developed by Hua Tuo. PMID: 26427101 [Indexed for MEDLINE]
著者
御影 雅幸 李 奉柱 朴 鐘喜 難波 恒雄
出版者
日本生薬学会
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.336-341, 1991-12-20

「Jad Na Mu Ip」は韓国で淋疾や梅毒の治療薬として用いられる民間薬である. Jad は海松子, Na Mu は木, Ip は葉の意味であるから, その基源は一般にマツ科のPinus koraiensis SIEB. et ZUCC. チョウセンゴヨウの葉であるとされている2)がいまだ確証はない. Pinus 属植物は韓国にはチョウセンゴヨウのほか P. parviflora ヒメコマツ, P. pumila ハイマツ, P. bungeana シロマツ, P. densiflora アカマツ, P. thunbergii クロマツなど形態の類似するものが分布しているので3), 今回「Jad Na Mu Ip」の原植物を知る目的で市場調査を行い, 入手した商品および Pinus 属植物7種の葉を比較組織学的に検討した. その結果, 現在市販されている「Jad Na Mu Ip」はチョウセンゴヨウの葉であることを確証した. なおP. armandi タカネゴヨウは中国に産する種であるが, 形状がチョウセンゴヨウに似ているので参考のため検討した. Pinus 属植物の葉の組織分類学的研究に関しては, 土井ら4)が基本的形態を詳細に報告するとともに変種や雑種を含めた80数種について検索表を提出し, また早田ら5)がチョウセンゴヨウやヒメコマツの組織図を示しているので, 本論文では記載を最小限に止めた. The Korean folk medicine "Jad Na Mu Ip" has been used to cure gonorrhea, syphilis, etc. Though the crude drug has generally been said to be the leaves of Pinus koraiensis SIEB. et ZUCC. of the Pinaceae family, the scientific confirmation has not been made yet. Recent commercial "Jad Na Mu Ip" certainly seems to be the leaves of a Pinus plant. Therefore, to identify the botanical origin of this crude drug, the leaves of seven species of the genus Pinus growing in Korea, Japan and China, including P. koraiensis, were examined anatomically. The result shows the botanical origin of "Jad Na Mu Ip" is P. koraiensis.
著者
難波 恒雄 菊池 徹 御影 雅幸 門田 重利 小松 かつ子 清水 岑夫 富森 毅
出版者
日本生薬学会
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.35-42, 1987-03-20

Cinnamomum verum J. S. PRESL of family Lauraceae is one of the important cultivated medicinal plants in Democratic Socialist Republic of Sri-Lanka. The bark of the tree, "CINNAMOMI VERI CORTEX," KURUNDUPOTU in Singhalese, is known to be a famous spice under the name of Cinnamon. Besides, KURUNDUPOTU is also an Ayurvedic drug used for dyspepsia, flatulence, diarrhoea, dysentery, vomiting, etc. Nowadays, as a spice, Cinnamon is divided commercially into thirteen grades on the bases of differences of the diameter and quantity of Foxing of the Quillings. Among these, we got nine popular grades from the Bureau of Ceylon Standard.To know the qualitical differences of each grade, anatomical and chemical studies of all these were made. Our results showed that higher graded Cinnamon had less mechanical tissues anatomically and contained more essential oils chemically. Moreover, in essential oils, the percentage of cinnamyl acetate was found higher and that of cinnamaldehyde was lower in higher graded ones.スリランカ(Democratic Socialist Republic of Sri-Lanka)における民族医療はアーユルヴェーダ(インド医学)が主流である. スリランカにおいて栽培される代表的なアーユルヴェーダ薬物の一つにKURUNDUPOTU(cinnamon bark の意味のシンハリ名)があり, このものはLauraceaeのCinnamomum verum J. S. PRESL(=C zeylanicum NEES セイロンニッケイ)のコルク層を剥いだ樹皮である. アーユルヴェーダではKURUNDUPOTU は強壮, 健胃, 駆風薬などとして用いられ, また民間的にも頭痛や感冒, 鼻汁, 呼吸器疾患, 下痢などに利用されている2). その産出量は年々増加しており, 大半は香辛料として輸出され, 一部が薬用あるいは料理用に国内で消費されている2). セイロン桂皮についてはすでに太田らにより日本市場品の内部形態3), コロンボおよびスイス市場品とコロンボ近郊などでの栽培品との内部形態による比較研究4)がなされているが, 品質についてはいっさい触れられていない. 現在, セイロン桂皮には商取引上13の等級があり, それらの等級はBureau of Ceylon Standardで規格されている. 等級はAlba, Continental 5 special, Continenta1 5, 同4, 同3, 同2, 同1, Mexican5 special, 同5, 同4, Hamburg 1, 同2, 同3の名称で呼ばれ, これらはQuimng5)の大さやFoxing6)の量で規定されている2). Albaが最高級品とされ, Continentalグループ, Mexicanグループ, Hamburgグループと続くが, Continentalグループの低級品よりはMexicanグループの高級品の方が品質がよいといわれている. これらのグループ名はそれぞれ輸出先国の違いを示しており, Hamburgグループ以外は番号の大きいものが高級品とされている. 今回, 栽培地を調査するとともにこれらの13等級のうち, とくに流通量の多い9等級を入手し, 各等級間の内部形態および精油成分の差異を検討したので報告する. また生薬市場および製薬工場において入手したKURUNDUPOTU等級についても検討した.
著者
御影 雅幸 達川 早苗
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.1077-1085, 2001-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
34

漢方生薬「木通」は, 現行の『日本薬局方』ではアケビ科のアケビまたはミツバアケビの茎であると規定されている。一方, 中国では木通の原植物はかなり混乱し, 複数の科にわたる多くの異なった植物が木通や通草として使用されている。本草学的研究の結果, 唐代の医家がウコギ科のカミヤツデのやわらかな茎髄に由来する偽品の通草から区別するために原名の「通草」を「木の通草」の意味で「木通」に名称変化したと考証し, また正品「木通」はアケビ属植物であったことを考証した。現在中国では「通草」としてカミヤツデの髄を使用しているが,『傷寒論』などに記された古方にはアケビの茎を使用すべきである。
著者
難波 恒雄 久保 道徳 谿 忠人 御影 雅幸
出版者
日本生薬学会 = The Japanese Society of Pharmacognosy
雑誌
生薬学雑誌 = The Japanese journal of pharmacognosy (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.111-121, 1970-12-20

The foliar crude drug so called "Urajirogashi" has been used in Tokushima Pref. as the folk remedy for nephrolithiasis, cholelithiasis and urethral calculi. The effect to dissolve each calculus has been proved pharmacologically and clinically, and the crude drug and their preparations are generally on the present market. The original plant of "Urajirogashi" was considered to be Quercus salicina BLUME. The results of the anatomical studies, however, confirmed that the original plants are Q. myrsinaefolia BLUME and the mixture of both species of Q. salicina and Q. myrsinaefolia besides Q. salicina BLUME. The points to discriminate each species are as follows: A) Q. salicina: Upper epidermis is 1.5〜3 times as thick as lower epidermis, and no idioblast in the part of mesophyll. Palisade ratio is 2.3〜3.7〜5.8. B) Q. myrsinaefolia: Upper epidermis is 3〜5 times as thick as lower epidermis, and idioblast are observed in the part of mesophyll. Palisade ratio is 3.5〜6.7〜10. 5. Further, the key for identification on the anatomical characteres of the leaves from Q. salicina, Q. myrsinaefolia, Q. glauca, Q. acuta, Q. hondae, Q. sessilifolia, Q. gilva, Q. phillyraeoides, Q. mongolia var. grosseserrata, Q. serrata, Q. aliena, Q. dentata, Q. variabilis and Q. acutissima was indicated as Table 4.「序言」ブナ科FagaceaeのウラジロガシQuercus salicina BLUME(=Q. stenophylla MAKINO)は, 本州, 四国, 九州の暖地に自生する常緑高木で, 徳島県地方で「しらかし」および「うらじろがし」と称され, 民間的にその葉や小枝を, 1日30~50g煎剤およびエキス剤として, 胆石症, 腎石症, 尿路結石症など内臓諸結石症の治療薬とされ, 最近では肝臓, 胃腸病, 便秘などにも応用されている日本特有の民間薬である3)4). 近年ウラジロガシの結石溶解作用は薬理学的には, 小国3a), 幸田5)により, 臨床的には近藤ら6), 橋本7)および稲田ら8)により検討され, その有効性が実証された. その後市場に「うらじろがし」, 「裏白柏」と称して出回り, エキス製剤も市販されるようになった. 今回徳島県下で民間的に使用されている「うらじろがし(しらかし)」, および徳島, 香川, 和歌山, 群馬県産の徳島, 大阪, 東京市場品「うらじろがし」の中に同一基源からなるものとは思われない商品が発見されたので, それらの基源を確定する目的でQuercus属植物14種9)の葉との比較組織学的研究を行った.
著者
高橋 京子 高橋 幸一 植田 直見 御影 雅幸 雨森 久晃 松永 和浩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本薬物文化の意義を明確にするため、自国の医療・社会環境に則して成熟してきた近世医療文化財(緒方洪庵使用薬箱他)の普遍的価値をマテリアルサイエンス導入による文理融合型手法で立証した。本草考証と非侵襲/微量分析法の構築が、医療文化財遺物分析を可能にし、実体物から生薬品質の暗黙知が解明できることを示唆した。人工ミュオンビームを初めて医療文化財分析に適用し、同一測定法で外部の容器と内部の薬物双方の元素組成分析に成功したことで、新規非破壊分析法としての人工ミュオンビームの有用性を明らかにした。
著者
松村 光重 御影 雅幸
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.493-499, 2002-01-20
被引用文献数
1

マメ科のクズの根に由来する漢薬"葛根"は, 昨今は日・中共に冬期に採集されている。しかし, 中国古代の本草書には採集時期は旧暦5月すなわち初夏であると記されている。本草学的研究の結果, 葛根の採集時期は元あるいは明代に変化し, 主な原因は冬に採集される食用葛根との混乱であったと考察した。『傷寒論』や『金置要略』のごとき古代の医方書に記された処方には初夏に採集した葛根を調剤すべきである。
著者
御影 雅幸 達川 早苗
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.1077-1085, 2001-03-20
参考文献数
36
被引用文献数
2

漢方生薬「木通」は, 現行の『日本薬局方』ではアケビ科のアケビまたはミツバアケビの茎であると規定されている。一方, 中国では木通の原植物はかなり混乱し, 複数の科にわたる多くの異なった植物が木通や通草として使用されている。本草学的研究の結果, 唐代の医家がウコギ科のカミヤツデのやわらかな茎髄に由来する偽品の通草から区別するために原名の「通草」を「木の通草」の意味で「木通」に名称変化したと考証し, また正品「木通」はアケビ属植物であったことを考証した。現在中国では「通草」としてカミヤツデの髄を使用しているが,『傷寒論』などに記された古方にはアケビの茎を使用すべきである。
著者
難波 恒雄 久保 道徳 御影 雅幸
出版者
日本生薬学会 = The Japanese Society of Pharmacognosy
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.p171-182, 1976-12

"Xia-ku-cao (夏枯草)" is one of the Chinese crude drugs used mainly as a diuretic. While in Japan, the same drug called "Ka-go-so" has been used as a folk remedy for gonorrhea, bruises and etc. Regarding the origin of "Xia-ka-cao," it was reported by Su et al. (1958) that those from continental China was originated in the fruited spica of Prunella vulgaris L. of Labiatae. It was, however, stipulated for the spica of Prunella vulgaris L. subsp. asiatica HARA in J. P. IX (1976). According to our survey of respective markets in Taiwan, Japan and Korea, most of the materials collected in the markets were seemed to be originated in Prunella plants, while some from Korea, were seemed to be Thesium plant of Santalaceae as reported by Ishidoya (1934). Furthermore from many descriptions and figures in various herbals (Ben-cdo-shil "Xia-ka-cao" is regarded to be originated in Prunella plants as shown Plate 1. To clarify the respective origin of five kinds of "Xia-ku-cad' from continental China, Taiwan, Japan and Korea, pharmacognostical studies were made in comparing them with Prunella vulgaris L. distributed mainly in Europe, P. vulgaris L. subsp. asiatica HARA in East Asia, P. prunelliformis MAKINO in Japan and Thesium chinense TURCZ. in Asia. By the present studies, it was clarified that all of "Xia-ka-cao" originated in Prunella plants were P. vulgaris subsp. asiatica, and the materials from continental China were consisted of spica only, while those from other countries were whole plants body of that plant, and some from Korea originated in Thesium chinense.
著者
御影 雅幸 吉田 あい
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.411-418, 1996-11-20 (Released:2010-11-22)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

漢薬「大黄」は近年ではもっぱら瀉下薬として著名であるが, 古くから駆淤血薬としても利用され, 大黄の古来の薬効が駆淤血であるのか瀉下であるのかについては未だ明確な結論が得られていない。また, 近年薬用部位に混乱が見られる。本研究ではこれらの問題点を解決するために古文献をひもといて史的考察を行い, 次のような結果を得た。大黄の古来の薬効は駆淤血であったが, 瀉下その他の薬効でも使用されていた。清代までは Rheum palmatum を始めとする大型ダイオウ属植物の根茎が良質品大黄として使用されていた。近年, 根も使用されるようになったのは, 大黄が瀉下薬として評価された結果であると考える。大黄の薬効は多様であり, 今後は根茎と根の薬効の相違, 潟下活性以外の効能などについて詳細に検討する必要があろう。
著者
御影 雅幸 遠藤 寛子
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.25-34, 2008-01-20

日本薬局方では釣藤鉤としてUncaria rhynchophylla (Miq.) Miq.,U. sinensis (Oliv.) Havil.,U. macrophylla Wall.のとげが規定されているが,中国の局方ではこれら3種以外にU. hirsuta Havil.とU. sessilifructus Roxb.を加えた5種の鉤をつけた茎枝が規定されている。本草考証の結果,当初の原植物はUncaria rhynchophyllaであり,薬用部位は明代前半までは藤皮で,その後現在のような鉤つきの茎枝に変化したことを明らかにした。一方,日本では暖地に自生しているカギカズラの主として鉤が薬用に採集されてきた。このことは明代に李時珍が「鉤の薬効が鋭い」と記したことに影響を受けたものと考察した。釣藤散など明代前半以前に考案された処方には藤皮由来の釣藤鉤を使用するのが望ましい。
著者
御影 雅幸 遠藤 寛子
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.25-34, 2008 (Released:2008-07-23)
参考文献数
65

日本薬局方では釣藤鉤としてUncaria rhynchophylla (Miq.) Miq., U. sinensis (Oliv.) Havil., U. macrophylla Wall.のとげが規定されているが,中国の局方ではこれら3種以外にU. hirsuta Havil.とU. sessilifructus Roxb.を加えた5種の鉤をつけた茎枝が規定されている。本草考証の結果,当初の原植物はUncaria rhynchophyllaであり,薬用部位は明代前半までは藤皮で,その後現在のような鉤つきの茎枝に変化したことを明らかにした。一方,日本では暖地に自生しているカギカズラの主として鉤が薬用に採集されてきた。このことは明代に李時珍が「鉤の薬効が鋭い」と記したことに影響を受けたものと考察した。釣藤散など明代前半以前に考案された処方には藤皮由来の釣藤鉤を使用するのが望ましい。