著者
尾崎(和賀) 萌子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.181-196, 2023-09-30 (Released:2023-10-31)
参考文献数
51

本稿では,日本人の親が0–4歳の子どもに対して絵本の読み聞かせを行う際に,どのように登場人物になりきった発話をするのかを量的,及び質的に検討した.親子間の絵本の読み聞かせ場面において,親が絵本の登場人物になりきって発話することは日本の家庭において一般的に行われることであるにもかかわらず,それがどのような時期にどのような目的でなされるのかについてこれまでの研究において十分に検討されていない.そこで日本人親子(子どもの年齢:0;2–4;11, n=105)を対象に,親が子どもに日本語で『はらぺこあおむし』を読んでいる様子をビデオ録画し,書き起こした後に探索的コード付けを行った.その結果,なりきり発話は行為・感覚・会話という3つに分類することが可能であり,それぞれが子どもの年齢に応じて使い分けがされていることがわかった.さらに日本人の親は子どもの乳幼児期から「なりきり発話」を豊富に用いる一方で,子どもが成長するにつれて徐々にその使用頻度を減らしていくことが明らかとなった.定量的な結果と合わせて個別のデータの質的分析を行うことで,絵本の読み聞かせ場面における「なりきり発話」の使用は,乳児期から4歳頃までの共感形成と社会的ルーチンの習得のための足場である可能性が示唆された.