著者
田村 笙 岩本 南美 東森 碧月 田島 晴香 中野 勝太 中野 美玖 尾藤 美樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

2011年に土砂災害が発生した兵庫県加古川市の大藤山や、2014年に土砂災害が発生した広島市安佐北区には花崗岩が分布している。このことから、花崗岩体では土砂災害が発生しやすいと考え、文献調査で確認しようとしたが、花崗岩と土砂災害の関係について確証できる実験データを伴うものはなかった。そこで、全国で2012年~2014年に土砂災害が発生した地域の地質を調査した。その結果、花崗岩の分布面積は全国で12%程であるにも関わらず、地質別の土砂災害発生件数は花崗岩体が最も多くなっていた(図1)。このことから、2015年度は花崗岩の風化が土砂災害に及ぼす影響について研究を行い、花崗岩特有の風化過程によって土砂災害発生の危険性が高まるという結論を得た。ところが、兵庫県の土砂災害ハザードマップには地質的条件が十分考慮されていない。そこで、花崗岩体における土砂災害発生危険度(以下、危険度とする)を新たに設定し、それをハザードマップに反映させることを目的として、昨年度から研究を進めている。危険度の設定には、鉱物の割合と透水係数を用いる。岩体の崩れやすさを鉱物の割合から、土砂層の崩れやすさを透水係数から、それぞれ[1]~[5]の5段階で定める。そして、岩体の崩れやすさと土砂層の崩れやすさの分布表を作成し、[A]~[E]の5段階で危険度を設定する(図2)。 崩れやすさを定めるにあたって大藤山で現地調査を行い、土石流跡付近の土砂を採取した。この地点の岩体・土砂層の崩れやすさを、最大である[5]と定義する。そして、土砂の鉱物の割合と透水係数を測定した。鉱物の割合は、採取した土砂を樹脂で固めて薄片を作成し、偏光顕微鏡で黒雲母・緑泥石・粘土鉱物の観察を行った。そして、3つの鉱物の合計面積に対する、それぞれの鉱物の面積の割合を算出した。黒雲母は風化によって緑泥石、粘土鉱物へと変質していくことから、粘土鉱物の割合が大きいほど風化は進行し、岩体は崩れやすくなると考えている。鉱物の面積は、偏光顕微鏡に設置したカメラで薄片を撮影し、画像加工ツールを用いて対象の鉱物を着色し、「PixelCounter」というソフトを使用して測定した。画像を分析した結果、土石流跡付近の土砂は粘土鉱物が91.5%、黒雲母が8.5%で、緑泥石は見られなかった。この結果から、土石流跡付近では風化が著しく進行していることが分かる。この土石流跡付近の土砂の岩体の崩れやすさを、前述で示した最大の[5]とした。また最小の[1]として、風化していない花崗岩の薄片観察の結果を用いた。次に、土砂層の崩れやすさを求めるために、ユールストローム図を用いた。ユールストローム図とは、土砂の粒径と、土砂が侵食・堆積され始める水の流速の関係を表したグラフである(図3)。流速が小さいほど、土砂が動き始める際に必要なエネルギーは小さい、即ち土砂層は崩れやすいと考えられる。この図を用い、土砂の粒径を測定することで土砂層の崩れやすさを求めようと考えていたが、ユールストローム図における土砂の粒径は均一であることが前提である。しかし、実際に堆積している土砂の粒径は不均一である。そのため、粒径と透水係数の関係を表す表であるクレーガ―表(図4)を用いることで、透水係数から土砂層の崩れやすさを求めることができると考えた。ここでユールストローム図とクレーガ―表から、図3の赤線と図4の赤枠が示すように、土砂層の崩れやすさが最大である[5]となる透水係数は3.80×10-3cm/sとなる。そこで、土石流跡の透水係数を測定し、最も土砂層の崩壊しやすい値(3.80×10-3cm/s)と比較することにした。測定実験は土石流跡の土砂の構造を壊さないように採取したものを持ち帰り、自作した装置(図5)に詰めておこなう、室内変水位透水試験を実施した。実験により得られた土石流跡の透水係数は5.18×10-3cm/sとなり、最も土砂層の崩れやすい値である3.80×10-3cm/s付近となることから、ユールストローム図とクレーガ―表を用いることで透水係数から土砂層の崩れやすさを求めることができるといえる。岩体と土砂層、それぞれの崩れやすさから設定した危険度の分布表をより正確なものにしていくために、土石流跡周辺の崩壊していない土砂層が見られる露頭でも同様の実験をおこない、そのデータを分析中である。今後は大藤山と同様に花崗岩体であり、既に予備調査を終えている六甲山(兵庫県神戸市)の試料も採取するなどさらに多くのデータを得て、危険度の分布表をより正確なものにしていきたいと考えている。