- 著者
-
山下 優希
- 出版者
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会
- 雑誌
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
- 巻号頁・発行日
- pp.220, 2016 (Released:2016-11-22)
【目的】音楽にはリラクセーション効果があり,最近では様々な分野に治療の一貫として注目を集めている.スタティックストレッチング(以下ストレッチ)は運動後に行うことにより傷害予防や疲労回復の促進,疼痛の軽減の効果があるとされている.そこで運動後,ストレッチを実施している最中に音楽のリラクセーション効果を同時に取り入れることによりさらなる効果が得られるのではないかと考えた.【対象と研究方法】被験者は運動疾患のない健常な29名(男性13名 女性16名 年齢32±22歳 身長164±15cm 体重60±40kg),測定場所は静寂空間で実施した.曲はモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ二長調(ケッヘル四四八番) 第一楽章」を選定.ストレッチはハムストリングスに対して実施し,痛みを感じない最大伸展位を至適強度とした.運動機器はコンパス コンパクト レッグプレス(以下レッグプレス)を使用した.立位体前屈指床間距離(以下FFD)の測定は距離が遠い方とした.測定の順序は, 膝伸展位股関節屈曲角度(以下SLR),FFDを測定後,レッグプレス 負荷30㎏ 10分を実施.運動後SLR・FFDを測定.運動後に①音楽聴取(2分間)群(以下A) ②ストレッチ(30秒間)群(以下B) ③音楽聴取とストレッチの同時群(以下C)の実施後にSLR・FFDを再測定.効果の影響を考慮して各群の間隔は1週間とした.検定方法は一元配置分散分析と多重比較を使用し,有位水準は5%未満とした.【結果】SLR右下肢はAとC間のSLRが優位に上昇した.(P=0.037263)SLR左下肢はAとC間,BとC間のSLRが優位に上昇した.(P=0.000102)FFDは,各群の平均値は上昇したが,優位な差はみられなかった.【考察】今回の研究においてSLRがAとC間において左右の下肢ともに優位な上昇がみられた.左下肢ではBとC間においてSLRの優位な上昇がみられたが,右下肢ではBとC間においてSLRの優位な上昇はみられなかったものの数値的にはSLRが向上している.このことから音楽聴取とストレッチを同時に実施することで,それらを単独で行った場合に比べてハムストリングスの柔軟性が向上することが示唆された.これは音楽聴取により交感神経の活動が抑制され,副交感神経の活動が活発になりα波が優位になったことで筋緊張の緩和がみられたことが要因と考える.またトマティス理論により周波数が延髄に作用し,副交感神経優位となったことも柔軟性の向上に繋がった要因の一つと考える.FFDにおいて今回優位な差はみられなかった.これは松永らによるストレッチングの長期介入による腰椎骨盤リズムへの作用が今回の即時的な効果では結果に反映されなかった事が原因の一つと考える.しかし,平均値でみるとCが他のA,Bよりも改善はみられており,音楽の効果も影響していると考える.【まとめ】今回の研究では音楽を聴きながらストレッチを実施することで,音楽聴取とストレッチを単独で行った場合に比べて柔軟性が向上することが示唆された.今後もリハビリテーションの中に運動後の疲労回復,障害予防としてストレッチを取り入れていくことは重要であり,そこに音楽を同時に取り入れることでさらなる効果の増大に繋がることが示唆される.本研究の制約としては聴取音楽の統一や,健常者への実施が挙げられる.今後,音楽の種類や疾患等を考慮した更なる研究が必要である.【倫理的配慮,説明と同意】実施に関しては当該施設の倫理委員会に承認を得るとともに,対象者へ目的の説明を行い協力の同意を得た.