- 著者
-
山中 智行
- 出版者
- 独立行政法人理化学研究所
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
ハンチントン病等のポリグルタミン病は、優性遺伝性の神経変性疾患であり、原因遺伝子内の翻訳領域のCAGリピートが正常型に比べ約2〜3倍に異常に伸長することによって生じる。結果、遺伝子産物のポリグルタミン鎖が伸長され、この伸長ポリグルタミン含有タンパク質が毒性を獲得することにより、神経細胞の機能障害、変性をきたすと考えられている。病態機序としては、伸長ポリグルタミン含有タンパク質が核内に凝集体(核内封入体)を形成すること、また、核移行を人為的に阻害すると神経変性効果が劇的に減少することから、核内が主要な作用部位であると考えられている。さらに、モデルマウス等を用いた遺伝子プロファイル解析から、特定の遺伝子の発現異常が作用点の1つであると考えられている。私は、ハンチントン病モデル細胞から精製した核内凝集体の網羅的質量分析より、変異ハンチンチン(伸長ポリグルタミン含有ハンチンチン)に相互作用する新規タンパク質として、転写因子であるNF-Yを同定した。さらに、ハンチントン病モデルマウス脳において、変異ハンチンチンの凝集体はNF-Yを取り込むことにより、NF-Yを介したHSP70シャペロンタンパク質の転写活性を低下させることを見出した。このHSP70は変異ハンチンチンによる神経変性に抑制的に働いていることがすでに報告されている。よって、本研究より見出された変異ハンチンチンによるHSP70の発現抑制機構は、ハンチントン病の病態進行に深く関わっていることが示唆される。