著者
山北 竜一
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.276-285, 2016-01-31 (Released:2017-12-28)

精神科領域の現代医療では,治療の必要性はないが入院を余儀なくされている社会的入院といわれる患者が存在し,医療費の圧迫や患者の尊厳が脅かされている問題が引き起こされている。厚生労働省は2003年には,今後10年間で7万2千人の社会的入院を解消すると発表し,入院型から地域医療への転換が図られている。しかし現状では,様々な理由から退院が困難なまま入院生活を過ごしている者も少なくない。患者のなかには,病状が安定しないという理由の他に,ホスピタリズムや陰性症状が目立ち主体的に考える習慣が欠如している者が見受けられる。退院に対して消極的な姿勢や,退院意欲はあるが,対人能力や金銭管理など社会生活技術の不足が原因で退院できない患者が存在している。退院困難者のなかには,病院の環境に慣れ過ぎて目標が見えにくい患者がいる。目標がないため意欲が湧かず,単調な生活を漫然と過ごし,対人交流が減少し生活の質が低下している。本研究では,どのような社会生活技術の不足とその不安が退院を困難としているのかを調査すると共に,退院に近づけることを目的として8名の患者を対象としてSST(Social Skills Training)を行った。池淵はSSTについて「広くなんらかの社会生活の困難を持っている者に対し,社会生活技能(social skills,対人スキル,社会的スキルなどとも呼ばれる)の不十分さをその原因と想定して,学習理論を基盤にその(再)獲得を目標とする介入である。したがって対象は,統合失調症をはじめとするさまざまな精神障害や発達障害,知的障害などであり,さらに今日では,子どもの学校での適応支援や触法者の矯正教育などに広く普及してきている」と述べている。先行研究では,山口らが長期入院患者への集団退院支援について取り組み,SSTを通してのチーム介入の効果について述べている。しかしSSTを取り組む生活環境を含めてSSTの効果を検討したものは現在のところ見当たらない。長崎県にあるX病院の環境は山間部に位置し,交通機関は少なく,金銭は病院が管理している状況である。このような患者管理環境で退院困難者に対してSSTを行うことでの効果を明らかにし,最終的には病院環境に即したSSTのプログラムを提案することを目的とした。その結果,病院の特徴を配慮したプログラムは有効であり,X病院のような患者管理環境のある病院のプログラムとして提案できた。SSTの効果として退院に直接つながりにくいが,スキルを獲得することで社会生活での人間関係のストレスが軽減できると共に,ソーシャルスキルの向上は退院を促進する1つの要因であると考えられた。