著者
秋月 千典 山口 和人 荒井 智康 金井 欣秀 大橋 ゆかり
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1698, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】理学療法の臨床場面では介入前と介入後に関節可動域を測定し,その変化量により介入の効果判定を行うことが日常的に行われている。しかし,関節可動域測定に含まれる測定誤差についての検討が乏しいことから,万能ゴニオメーターを用いた関節可動域測定が介入前後で生じる関節可動域の変化をどの程度捉えることができているのかは明らかにされていない。また,年齢,性別,body mass indexなど関節可動域に影響を与える因子は検討されているものの,関節可動域測定の測定誤差に影響を与える因子の検討は少なく,特に測定に対する習熟度は測定誤差に影響を与える重要な因子であると考えられるにもかかわらず,これまでに検討されていない。そこで,本研究では,万能ゴニオメーターを用いた関節可動域測定に含まれる測定誤差の種類とその程度をBland-Altman methodにより定量的に明らかにするとともに,その測定誤差に習熟度が与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】本研究では,関節可動域測定を習得した大学生45名(2年次から4年次まで各15名)と臨床経験3年目までの理学療法士21名(1年目7名,2年目8名,3年目6名)を測定者とした。測定者には,右膝関節に電気角度計が貼付されている被測定者の右膝関節屈曲の関節可動域を万能ゴニオメーターにより測定することを求めた。被測定者はこれまでに右膝関節に整形外科的疾患の既往がない健常若年男性1名とし,研究を通して同一の人物とした。本研究では,電気角度計による測定値を基準値,その基準値と万能ゴニオメーターによる測定値の乖離を誤差とし,誤差の種類とその程度をBland-Altman methodにより検討した。その際,関節可動域測定法に関する講義あるいは実習を受講してからの年数を習熟度として操作的に定義し,習熟度が測定誤差に与える影響を検討した。【結果】絶対測定誤差は習熟度が上がるにつれて減少し,習熟度の有意な主効果が認められた(p<0.001)。また,Bland-Altman methodによる検討の結果,万能ゴニオメーターによる測定値には系統誤差は含まれていなかった。さらに,測定値に含まれる偶然誤差の程度は習熟度が上がるにつれて減少し,手技を習得した直後の学生が14.7°,臨床経験3年目の理学療法士が4.1°であった。【結論】万能ゴニオメーターによる関節可動域の測定には偶然誤差のみが含まれており,偶然誤差の程度は習熟度に影響を受けることが明らかとなった。偶然誤差は複数回の測定値を平均することで減少させることが可能であるため,習熟度が低いうちは複数回の測定を行うことが測定誤差を小さくするために有効であることが示唆された。また,習熟度は間接的に練習量を反映するため,関節可動域測定の正確さを向上させるためには練習量を増やすことが有効であると考えられる。今後は,より効果的に習熟度を上げるための練習方法の開発について検討する必要がある。