著者
山口 晃志
出版者
埼玉県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

催眠薬の尿中代謝物をスクリーニングする簡便な方法としてイムノアッセイを利用した「トライエージ」がある。しかし、「トライエージ」で検出されない催眠薬もある。特に、ゾルピデム及びゾピクロンは広く普及している催眠薬であるにもかかわらず、これらの代謝物は「トライエージ」では検出できない。そこで本研究では、ゾルピデム及びゾピクロンの尿中代謝物の分析を目指した。ゾピクロン代謝物(デスメチルゾピクロン)は文献に従い本研究で合成し、ゾルピデム代謝物はサノフィアベンティス社からの譲渡品を用いた。代謝物を添加した尿を固相抽出カートリッジ(OASIS MCX)で固相抽出し、LC/MS/MS(SRMモード)分析したところ、濃度1ng/mlでも検出可能であることが分かった。本研究で確立した分析方法を用いて実際に起こった強姦事件の被害者の尿を分析し、ゾルピデム代謝物を検出した。催眠薬の多くは、体内で水酸化されグルクロン酸抱合体の形で尿中に排泄される。そのため、尿中催眠薬代謝物を微量分析するにはこれらグルクロン酸抱合体の性質を明らかにすることが重要である。そこで、代表的な催眠薬であるトリアゾラムの尿中主代謝物であるヒドロキシトリアゾラムのグルクロン酸抱合体の合成を目指した。文献に従いヒドロキシトリアゾラムを合成した後、水酸基をアセチル基で保護したグルクロン酸との反応を試みた。反応生成物のマススペクトル(ESI)を分析したところ、ヒドロキシトリアゾラムにグルクロン酸部分が導入された化合物と思われるm/z値を与えた。しかし、NMR分析をしたところ、複数の生成物の混合物であることを示唆する結果を得た。今後、合成条件を変え、収率の向上を目指す予定である。