- 著者
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山口 菜穂子
- 出版者
- お茶の水女子大学21世紀COEプログラムジェンダー研究のフロンティア
- 雑誌
- F-GENSジャーナル
- 巻号頁・発行日
- no.8, pp.47-57, 2007-07
ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(1950年)は、ハリウッド映画製作の歴史を批判的に描いたフィルム・ノワール作品である。20 世紀前半、ハリウッドは「フォーディズム」(効率的な大量生産様式)に基づいた「スタジオ・システム」を発明し、米国における文化表象を覇権的に生産し始めた。この文化生産装置が完成するにつれて、ハリウッド映画は固定化されたジェンダー・イメージを産出し、またそれに裏打ちされた規範的異性愛の欲望を〈正しい〉ものとしてコード化し、表象するに至った。『サンセット大通り』はフィルム・ノワールという批判的形式を用いつつ、第二次大戦後のハリウッド産業の内側で、撹乱的な欲望/ジェンダー表象の生産を企てる映画人たちの姿を描き出している。本稿は、この作品をクイア批評および文化史的観点から分析し、50 年代のハリウッドにおいて〈表象不可能〉な欲望を表出しようと試みた物語として解読する。