著者
山口 隆太郎
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.259-281, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
57

現代の日本において,自己決定権を失った地方行財政制度は地方自治の阻害をもたらしている。なぜ今日このような制度を持つにいたったのかについて,本稿では財政調整制度の形成過程の分析を通じて明らかにする端緒として,財政調整制度の「萌芽」とされてきた義務教育費国庫負担制度の1918年における成立と1923年の改正の過程を分析した。1908年の義務教育年限の延長により重くなっていた町村の教育費負担は,義務教育費国庫負担の要求をもたらしたが,1918年の制度成立は「教育の改善」が,1923年の改正は「軍縮」が,それぞれ主な要因となった。それは制度形成に関わった各政治的主体が,「官治的」な地主制地方支配の維持のために,中央と地方の行財政制度の再編を意図したものではなかった。また自己決定権の喪失をもたらすような,人々の「平等志向」が存在したわけでもなかった。