著者
白石 浩介
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.119-146, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
29

2014年4月における消費増税に伴う価格転嫁について検討した。税制は増税分の価格への転嫁を予定しているが,企業は税抜き価格を操作することにより,転嫁不足や過剰転嫁ができる。従来の分析では消費者物価指数(Consumer-Price-Index:CPI)が対象とされたが,CPIは価格が7日間以上持続した定価データである。実勢価格に近いとされるPoint-of-Sale(POS)データを用いた分析を試みた。 POS価格の推移をみると,多くの品目において消費税は転嫁されている。しかし,品目別の価格変化率にはばらつきがあり,転嫁不足,過剰転嫁となった品目の存在が示唆される。POS価格とCPIを比較したところ,POS価格はCPIを上回る価格変動を示しており,販売者は定価では税制どおりの価格転嫁を実施しつつ,特売価格では品目ごとに異なる価格設定を実施した可能性がある。POS価格を被説明変数とし,価格変化に影響する要因群を説明変数とする回帰推計の結果から,市場が寡占状況にあると転嫁されやすいが,企業や販売店は付加価値を圧縮することにより転嫁を抑制していることがわかった。
著者
佐藤 一光
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.152-171, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
50

現代的貨幣論(MMT)の基本構造を確認し,租税論と予算論から考察を行った。MMTはポスト・ケインズ派が発展させてきた内生的貨幣供給論を,政府・中銀の発行する垂直的貨幣である現金・準備・公債に拡張するものであるが,その理論構造の複雑性が理解の妨げになっている。本稿はMMTを「貨幣は負債である」という定義から派生する「水平的貨幣創造」とそれに付随する「アコモデーション」,「垂直的貨幣創造」とそれに付随する「貨幣主権性」「租税貨幣論」,さらに水平的貨幣と垂直的貨幣を一体的に把握する「債務ヒエラルキー」「Stock-Flow Consistent」という系統に分類して説明した。そこに「資金運用者資本主義」という認識と「ミンスキーの半世紀」という要素を加えることで「財政赤字の必要性」を導出し,「機能的財政論」と合わせて「雇用保証プログラム」(JGP)という政策提案に至る構造を解説した。さらにMMTの租税論・予算論を詳細に検討することで,既存の財政学との視点の違いについて整理した。
著者
髙橋 涼太朗
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.213-236, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
50

巨額の財政赤字の発生を受けて,財政規律を維持する大蔵省による統制は1970年代には崩壊したと見なされてきた。本稿は1970年代後半の15か月予算の編成過程を分析し,大蔵省統制が機能していたにもかかわらず財政赤字が発生したことを明らかにする。15か月予算を構成する1977年度第2次補正予算まで,公債依存度を30%以内に抑えるルール下で予算編成がなされていた。一方,日本政府は円高に直面し,内需拡大政策をとる必要があった。このジレンマに対処するため,福田赳夫はアメリカへ秘密書簡を送る。これを根拠にアメリカ政府の強硬派が外交政策の主導権を握り,日本に対して「外圧」をかけた。その結果,福田は大蔵省統制を突破した予算編成を行うことができた。一方で大蔵省は後退した統制を強化するために「原状回復性」に着目して,公共事業の拡充と折半ルールの導入を行う。しかし,「原状回復性」を持つ政策は残存し,後年の財政赤字の要因となったのである。
著者
佐藤 滋
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.226-247, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
46

1976年に起きたIMF危機は,イギリスの経済史・政治史に決定的な痕跡を残したできごととして注目されてきた。それは,この時期に大幅な財政支出削減や通貨目標値の導入が決定されたことで,このできごとが戦後イギリスにおける財政金融政策上の一大転換点とみなされてきたからである。それゆえ,IMF危機につづく時期を「ケインズ主義」の失敗が決定づけられ,「マネタリズム」の論理が浸透ないし全面化し始めた時期であると捉える先行研究が散見される。しかし,IMF危機が何らかの転機であったと認めたとしても,それはマネタリズムに基づくものであったとはいえない。本稿では,この時期に形成された政策体系の実態とはいったいいかなるものであったのかを原史料の考証から明らかにし,IMF危機の歴史的意義を明らかにしたい。
著者
石田 三成
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.191-211, 2015 (Released:2021-10-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿では,2013年に行われた国による地方公務員給与の削減要請に焦点を当て,国が要請するに至った経緯や地方財政計画の変化を簡単に整理し,それに対する市町村の対応の違いを定量的に分析した。その結果,以下が明らかとなった。第1に,今回の給与削減要請は,基準財政需要額のうち給与費分の一部が減額される仕組みになっていることから,これに反応して普通交付税の交付団体は給与削減の実施確率を上昇させた。第2に,国は過去に行革に取り組んできた市町村ほど国からの恩恵(基準財政需要額の増加)が増える仕組みを地方財政計画に盛り込み,これまでの地方公共団体の行革努力に報いようとしたが,過去に行革を取り組んできた交付団体に強い所得効果が働き,結果として,ラスパイレス指数の引き下げを抑制した。第3に,国の給与減額要請に対応した市町村は,ラスパイレス指数を約3ポイント引き下げただけでなく,国公準拠の原則に従い,ラスパイレス指数が100を超過した分の約6割を圧縮した。第4に,財政状況の悪化は,ラスパイレス指数の圧縮の程度にはあまり影響を与えないが,給与削減を実施する確率を高めた。第5に,地方公務員の労働基本権は制約されているとはいえども,職員組合の存在はラスパイレス指数の抑制を緩和させる方向に働いていた。
著者
髙橋 涼太朗
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.194-217, 2019 (Released:2021-07-28)
参考文献数
64
被引用文献数
1

本稿は,「福祉元年」政策である老人医療無料化と年金制度改正の政策形成過程の分析を通じ,「高福祉高負担」路線が部分的にしか達成されなかったことを明らかにするものである。「福祉元年」は日本型福祉国家の黎明期として位置づけられ,「福祉元年」に内包される政策は国民一般を支える制度とみなされる一方で,財政収支バランスを毀損する枠組みであると指摘されてきた。本稿は経常収支不均衡問題下の大蔵省に着目することで上述の評価に新たな視点を提供する。ニクソン・ショックによって租税負担率引き上げが棚上げされ,スミソニアン合意による円切り上げにより大蔵省は老人医療無料化を許容した。また,経常収支不均衡問題対策の調整インフレ政策は労使協調を生み,年金水準は引き上げられたものの,大蔵省は国庫負担を回避する制度を導入した。「高福祉」は実現したが,「高負担」は社会保障負担の増徴という形でしか実現しなかったのである。
著者
栗田 広暁
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.156-176, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
13

本稿では,所得税および住民税において2011年以降実施された年少扶養控除廃止・特定扶養控除縮減による実質的な増税が,家計の消費行動に与えた影響について,「日本家計パネル調査(Japan Household Panel Survey:JHPS)」の個票パネルデータを用いて検証する。分析では,JHPSで調査している1月の非耐久消費財の支出額(食料費,外食・給食費,光熱・水道代,交通費の4項目,それらの合計額)と1月分の増税額の関係を検証した。その結果,すべての分析結果において増税によって家計の消費は変化しないことを支持する結果が得られた。これは,家計が恒常所得仮説に従い,増税に対して消費の平準化を行って消費水準を変えなかったことを示唆するものである。
著者
島村 玲雄
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.191-210, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
25

オランダにおける2001年税制改革では,3つの所得分類に課税するボックス課税と社会保険料から減免可能な給付付き税額控除を導入した。ボックス3にみなし課税が導入されたことで資本所得の分離課税化が改革の中心として捉えられてきた。しかし,この改革が成立過程においてどのように正当化され成立したのかについては,論じられてこなかった。本稿では,同改革がどのように議論されたのかを政治過程分析から明らかにし,どのような租税制度として結実したのかを制度分析から明らかにすることを試みた。その結果,同改革は労働者に対する租税負担の軽減策こそが改革の主要な課題であり,所得階層ごとへの配慮だけでなく,同時に租税制度の内在的な問題をも克服しようとしたものであることを明らかにする。
著者
小林 庸平 中田 大悟
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.147-169, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
24

社会保険料負担の増加は,日本国内の投資を阻害し,空洞化を促進しているのではないかとの指摘があるが,それを実証的に分析した研究は,国内外を問わず非常に乏しい。本稿では,健康保険料データと企業データをマッチングさせた個票データを用いて,企業の健康保険料負担が,設備・研究開発・対外直接投資にどのような影響を与えているかを実証的に分析した。分析の結果,健康保険料負担の増加は,⑴企業の国内投資を一定程度抑制させた可能性がある,⑵研究開発投資には大きな影響は与えていない,⑶海外進出を行うかどうかの意思決定には影響を与えていないものの,既に海外進出を行っている企業の対外直接投資を増加させた可能性がある,といった結果が得られた。
著者
村田 治 森澤 龍也
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.227-244, 2005 (Released:2022-07-15)
参考文献数
31

本稿では,日本における財政赤字の持続可能性について理論的および実証的に考察する。本稿の分析結果によると,日本の財政赤字は持続可能ではなく,その結果,財政破綻を避けるためには,必然的にマネタリーベースの増加をともなう可能性が高い。さらに,マネタリーベースとインフレ率の関係を示した本稿のモデルからは,基礎的財政赤字や国債残高,あるいは貨幣乗数の増加はインフレやハイパーインフレをもたらす。このことは,景気の長期停滞のため,現時点ではマネタリーベースの増加がマネーサプライの増加に結びつかずインフレの発生には繋がっていないが,近い将来,景気の回復が生じる場合,財政赤字によるマネタリーベースの増加はインフレや場合によってはハイパーインフレの原因となる可能性が明らかにされたと考えられる。したがって,インフレを回避するためには,早急に基礎的財政赤字の削減が必要であると判断される。
著者
岩本 康志
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.99-115, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
7

本稿では,政府債務が累増した後に再建を果たすか,デフォルトあるいは高インフレによって破綻の道をたどるのか,について歴史的にどのような経験が蓄積されてきたのかを検討する。Reinhart(2010)のデータベースを利用して,政府債務残高が高水準に達した事例を抽出し,その後の帰結を「破綻」と「再建」に分類する。先進国では破綻に至る事例の割合は32%,新興国では96%となり,その帰結は大きく異なっている。先進国では第2次世界大戦以降の事例の多くが再建を果たしている。しかし,大恐慌時やそれ以前の時期には財政破綻の比率は14事例中9例と,64%に及んでいる。先進国の最近時の状況は過去とは異なるものだという解釈のモデルによると,現状のわが国のような状況から今後破綻に至る確率は35%程度であると予測される。一方,現在の先進国にも過去の経験が当てはまるという解釈では,今後破綻に至る確率は80%程度であると予測される。
著者
近藤 春生
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.216-233, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
27

本稿では,わが国における都道府県レベルのパネル・データを用いて,公的支出が地域の経済成長に対して有益な効果を与えているかということについて,Barro(1991)による成長回帰をベースに動学パネルの手法を用いて明らかにした。実証分析から得られた主な結論は,以下のとおりである。①地域間経済収束(β-convergence)が成立していること,②社会資本ストックは地域経済成長にプラスの影響を与え,スピルオーバー効果が認められること,③公共投資は必ずしも地域経済成長には有意な影響を与えていない可能性があること,④政府消費は地域経済成長に負の影響を与えていることである。したがって,わが国の公的支出(公共投資や政府消費)は必ずしも長期的な地域の経済成長に対しては有益なものにはなっていない可能性があることを指摘できる。
著者
竹本 亨 赤井 伸郎 沓澤 隆司
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.163-180, 2019 (Released:2021-07-28)
参考文献数
13

コンパクトな都市の方が1人当たり歳出は低いが,コンパクトな都市へ再構築することは簡単ではない。しかし,何もせずに手をこまねいていたらならば,今後予想される人口減少によって,今以上にコンパクトでない都市へと変貌(非コンパクト化)してしまう可能性がある。本稿では「基準化された標準距離」を都市のコンパクト化の度合いを示す指標として用いて,人口減少に伴って進む非コンパクト化が財政に与える影響をシミュレーションした。その結果,非コンパクト化による歳出増加額は,全体で2030年度は2867億円,2045年度は5549億円となった。特に,人口規模が小さい市町村において,非コンパクト化の影響が大きく出ることも明らかとなった。さらに,「基準化された標準距離」を現在よりも10%および20%縮小するという政策を実施すると,最大で10%の場合に4568億円,20%の場合に8640億円の削減効果が示された。
著者
吉野 直行 羽方 康恵
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.184-205, 2007 (Released:2022-07-15)
参考文献数
30

本稿は,戦後からの租税政策や租税体系の変化を踏まえ,税の所得弾力性の変化とそのマクロ経済への影響について実証分析を行う。まず第1節で,所得税・法人税改革を概観する。第2節で,本稿で用いる分析手法を説明する。そして第3.1節で,税の所得弾力性を構造方程式により計測する。その結果,ほとんどの税目において前期(1955~1979年)と比較し後期(1980~2004年)は所得弾力性の値が小さくなり,近年の税制改革を考慮すると,さらにその値は低下していることが明らかになる。第3.2・3節で,税収とマクロ変数との相互関係を,構造型VAR(SVAR)を用いて分析する。これにより変数間の時間的な効果のラグ関係を考慮することができる。税目により経済に与える影響や経路が異なるため,税収を主要税目(所得税・法人税・消費税)に分けて分析を行う。最後に第4節で,税の所得弾力性計測の結果をもとに,将来の税収のシミュレーション分析を行う。
著者
安永 雅
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.196-222, 2022 (Released:2023-10-17)
参考文献数
86

本稿は,ミード報告の改革案の検討を通して,支出税理論の再検討を行い,税制改革案と租税理論との関係について考察する。ミード報告を理論書としてのみ扱うのではなく,その実践的側面に注目し,かつミードの財政思想を踏まえることで,この報告書の改革案が3つの要素のコンビネーションであったこと,支出税の根拠は公平性などの租税原則に基づいたものではなく,経済停滞打破という具体的なものであったことを明らかにする。一方で日本の支出税論においてはミード報告が頻繁に言及され,税制改革案として支出税の研究も進んだが,原則論に基づいた評価がおもであり,公平性の観点からミード報告は評価されてきた。このような,改革案の形成やその後の解釈における支出税像の相違は,支出税の理論的優位性が一義的に定まるものではなく歴史的状況に大きく依存していることを示唆している。
著者
島村 玲雄
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.163-180, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
25

オランダにおける1990年税制改革では,社会保険料と所得税の制度的「統合」が行われた。本稿は,この税と保険料が統合された背景を明らかにし,統合の意義について考察することを目的としている。この統合は保険料と税の一元徴収というだけでなく,課税ベースや税率構造といった点までをも統合したことが特徴として挙げられる。税改正は狭い課税ベースの是正が課題であった。さらに,パートタイム労働を積極的に推進した労働政策によって稼得世帯モデルが変化してきたことで,従来の税制と社会保険料制度に不満が出てきていた。この統合に加えて,社会保険料の事業主負担分が被用者負担となった。そのため「調整加給金」という新たな制度が導入され,使用者はそれまでの負担分に相当する額を被用者に対して賃金に上乗せする形で補償しなければならなくなった。
著者
川口 真一
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.131-147, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
8

現在,企業財務の健全化という観点から,同族会社の留保金課税は減税の方向に向かっている。このような留保金課税改革の流れに対して,本稿は節税目的による内部留保の蓄積を抑制することが重要であり,留保金課税のさらなる縮小や廃止を推し進めるべきではないことを,租税の公平性の観点から主張するものである。 本分析では,同族的な企業ほど節税を目的として内部留保する傾向が強いことを明らかにするため,「内部留保率は,財務状況が悪い企業だけではなく,同族色の強い企業ほど高い」という仮説を立て検証することにした。その結果,同族色の強い企業ほど内部留保率が高いという仮説が支持された。これにより,留保金課税が適用される同族会社であっても留保控除額が大きいことから,留保金課税が十分に機能していないことが指摘できるとともに,同族会社とそれ以外の会社との間で,租税の公平性が保たれていないことが明らかとなった。
著者
宮下 量久 中澤 克佳
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.242-258, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
13

合併特例債は「平成の大合併」を推進した財政支援策の1つであり,元利償還のうち70%を基準財政需要額に算入できるため,新自治体の負担や地方債残高の累増,財政規律の弛緩といった問題が生じる可能性が指摘されている。そこで本稿では,合併自治体における特例債と一般地方債の発行を,非合併自治体との対比から定量的に検証した。データの整理と推定を行った結果,以下の点が明らかとなった。合併自治体の9割以上が特例債を合併翌年度より毎年発行しており,一般地方債の代替的財源として活用していた。合併自治体は非合併自治体よりも1人当たり一般地方債残高を減少させており,特例債発行に伴う減少(代替)効果が確認された。また,全体的な一般地方債残高の減少を加味すると,特例債増加の影響はほぼ相殺されている。しかしながら,合併自治体の地方債残高は,特例債発行の影響から,非合併自治体と比較して増加傾向にあった。
著者
林 正義
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.121-143, 2019 (Released:2021-07-28)
参考文献数
7

大学の学部専門課程で利用される財政学や公共経済学の教科書では,課税が市場に与える効果の一例として,完全競争市場における部分均衡の枠組みを用いた「物品税の効果」が取り上げられている。その典型的な解説は,納税義務が供給者にある場合,物品税によって供給曲線が税率分だけ上方に「シフト」し,シフト後の「供給曲線」と需要曲線との交点が物品税下での新しい市場均衡になるというものである。本稿では,この物品税の効果に関して,1990年以降に出版された財政学や公共経済学の教科書111点がいかなる解説を行っているかを検証する。そして,多くが必ずしも正確に解説しているわけではなく,場合によっては読者(学生)を誤った理解へと誘導しているおそれがあることを指摘する。
著者
小林 庸平 佐藤 主光 鈴木 将覚
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.172-189, 2020 (Released:2022-01-19)
参考文献数
18

地方財政のテキストにおいて固定資産税は「望ましい地方税」の代表例としてあげられる。ただし,その前提は土地に対する課税であることだ。しかし実際のところ,日本の固定資産税は土地に加えて,家屋や機械設備等,償却資産をその対象に含む。とくに償却資産に対する課税は,固定資産税に法人税とは異なる形での資本課税の性格を与えてきた。そこで本稿では資本税としての固定資産税の経済効果を検証する。具体的には工業統計調査および経済センサス活動調査(経済産業省・総務省)の事業所別パネルデータを用いて,固定資産税の償却資産課税が設備投資(有形固定資産の形成)に及ぼす影響について実証した。推定結果からは,固定資産税が設備投資を損なっている(マイナス効果が有意になっている)こと,とくに流動性制約に直面している(キャッシュフローが負の)企業に対するマイナス効果が高いことが明らかになった。