著者
山名 達郎
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.68-75, 2009-12-03

能楽は演劇学,国文学,音楽学,美学,芸術学といった面から研究されてきたが,本論文では室町時代の能楽をメディア論,特にハロルド・イニスのメディアの時間・空間の偏向という考察をモチーフに,室町時代における能楽がどういった特徴や社会的機能・効果があったのかを分析する。能楽の源流は室町時代以前からも存在したが,観阿弥・世阿弥以降ストーリー性を持った歌劇となり,室町幕府の政治や経済と密接な関係をもった文化戦略として全国に広まっていった。能楽というメディアの特性は身体による知識輸送である。身体パフォーマンスは,識字層,非識字層の双方に共通して認識できるメディアである。能楽というメディアは、能楽が行われる場所である能舞台というメディアプレーヤーにおいて、芸能集団がパフォーマンスを行うことで情報が伝達される。どの地方にも知識輸送できる能楽は,集合体としての室町幕府に対応しているのである。