著者
岡部 大介 伊藤 瑞子
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.28-36, 2008-08-01
参考文献数
28
被引用文献数
1

本稿では,人々が日常的に持ち歩くポータブルデバイス(「モバイルキット」)がいかに都市空間において利用されているかを検討する。22人の調査協力者を対象に,携帯電話,音楽プレーヤー,クレジットカード,ラップトップ,PDA,IDカードといったようなモバイルキットの日常的利用について,インタビューと同行調査,そしてモブログによりデータ収集した。その上で,人々の都市空間における行動が,いかにモバイルキットを介してなされているかを分析したい。例えば人々は,音楽プレーヤーや携帯電話を用いて電車内などの空間を私的空間として再構築しようとするし,ポイントカードやメンバーシップカードで消費行動の「足跡」を蓄積する。このようにモバイルキットは,都市空間の持つ特徴を再構築し,私的な空間を形成する。従来の携帯電話の利用に関する研究では,主に対人コミュニケーションに関して焦点があてられてきた。本稿ではその視点を拡張し,場所やインフラと人との関係を媒介する存在としてのポータブルデバイスの存在に注力した。
著者
石川 幹人
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.11-20, 2000-11-18
参考文献数
13
被引用文献数
1

本論文は, メディアがもたらす環境変容に関する意識調査の一例を報告し, それを通して, メディア環境の設計における意識調査の役割の重要性を指摘する。本研究では, 電車内の携帯電話使用は控えるべきというマナーに注目し, 大学生の意識を調査した。いくつかの社会学の文献では共同体仮説(マナーは携帯電話が電車内の一時的な共同性を破壊することに由来する)が提唱されているが, 本調査では音仮説(マナーは単に音がうるさいことに由来する)のほうが有力であるといった結果が得られた。しかし, 共同体仮説を支持する少数意見も得られた。また, 心理的な不安傾向との相関も調査したが, 顕著な相関傾向は得られなかった。情報メディアの発展に伴って我々の生活様式に急速な変化が及んでいるので, こうした意識調査を機動的に行って, その結果がメディア環境の良好な設計に反映されることが望まれる。
著者
稲垣 耕作 嶋 正利
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-10, 2000-11-18

アトムからビットへの革命という視点から, 情報パラダイムに幾つか検討すべき側面を付け加える。本論文の立場は, アトムとビットは単に対立概念でも無関係概念でもなく, その間の密接な関係を見出すことが情報パラダイムに大きな重要性を付け加えるとのものである。われわれの理論研究は, 物質保存則と計算万能性が自己増殖性によって橋渡しされるとのもので, 物質パラダイムと情報パラダイムにおける根本概念が生命科学でつながれるとの物質・情報・生命の三角形を構成する。このような理論は自然科学パラダイムの情報・生命シフトを予感させるとともに, 従来の物質の物理学で体系化しきれない自然の学を示唆する。ただ情報パラダイムは物質パラダイムの測度でとらえきれない問題を含み, そのような数理が経済や著作権問題を含めた今後の広範な社会の諸問題に影響していくものと思われる。
著者
大井 奈美
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.32-38, 2009-09-15

本稿は,基礎情報学を理論的枠組とする,俳句分析のためのオートポイエティック・システム論的アプローチを提案する。基礎情報学では,言語ではなく「情報」,個人ではなく「オートポイエティック・システム」にもとづき,意味形成やコミュニケーションが考察される。具体的には,身体的体験に根差し,論理的な思考過程を超えて生成する各人に固有の意味を「生命情報」,心をオートポイエティック・システムである「心的システム」として捉え,分析の土台にするのである。俳句の重要な特徴の一つは,その簡潔な定型が,必ずしも理性的個人による推論や言語操作のみに還元されない意味形成をひきおこす点にある。したがって俳句の分析には,基礎情報学の理論的枠組が有用と考えられる。従来,俳句はおもに(A)文献学的アプローチや(B)テクスト論的アプローチによって研究されてきた。さらに,両者に対して批判的視座をあたえる,(C)認知心理学的アプローチも登場した。しかしこれらの研究では,論理的思考を超えた意味形成について考慮することは難しい。提案する(D)基礎情報学的アプローチによって,無意識的・直観的な側面をふくむ俳句の創作と解釈について考察することが可能となる。
著者
添野 勉
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.56-59, 2015-08-17
著者
嵯峨 景子
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.27-34, 2011-12-13

本稿は明治・大正期に活躍した流行作家内藤千代子に焦点を当て,明治末期における女性表現と文学活動に新たな可能性を示すことを目的とする。明治期に作家となるためには,文壇とのコネクションを形成するというプロセスが必要であった。内藤千代子は明治末期に雑誌『女学世界』における投稿という手段で頭角を現している。若い読者に支持をされ,文壇とは異なった場で受容された人気作家であった。内藤は当時尖鋭的なトピックであった男子学生を相手とした男女交際を描き,さらには一高帝大の男子学生文化もモチーフとして作品に取り入れ,男女学生から支持を集め,著作がベストセラーとなった。同時代における人気の高さにも関わらす,現在内藤千代子は忘れられた作家である。本稿では内藤千代子という作家の特徴をまとめ,女性作家の系譜のなかへの位置づけを試みる。さらに内藤千代子の受容のされ方や文学研究における周縁化か,文壇との繋がりのなさやユースカルチャーのなかでの受容に起因するものであることを示す。
著者
平澤 洋一 松永 公廣 鄭 淑源
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.52-59, 2011-07-31
参考文献数
18

日本の言語地理学は音韻・文法・語彙・人間行動などさまざまな特徴を手がかりにして調査語の分布を地図に描くことで,新旧・優劣・変化過程・伝播方向・方言区画などを明らかにしてきた。また,文化言語学は「言語は文化を映している」として,日本文化に関するさまざまな調査結果を提示してきたが,日本全域の文化圏の深層を地図上に描いた文献は管見に入らない。本研究は日本文化圏の深層,および現在にいたる歴史的変化過程をいくぶんなりとも明らかにすることを目的とする。本稿はその第一段階をなす。
著者
中村 隆志
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.60-65, 2011-07-31

公共空間において「ケータイのディスプレイを見る行為」が目立ち始めた時期,ならびにその増加傾向を探るための調査を行った。今回の調査対象として,恋愛ドラマを活用することの意義を検討し,その上で恋愛ドラマ内に登場するエキストラに注目して調査を行った。1996年から2010年までに放映された恋愛ドラマを調査した結果,「ケータイのディスプレイを見る行為」を行うエキストラは,2000-2001年の間に目立って増え始めたことと,2008-2010年の間に顕著に増加することの2点の確認できた。この2つの増加傾向を引き起こすための条件として,当時の通信環境,ケータイ端末,サービスなどの変化があったことを考察した。
著者
曽我 千亜紀 井上 寛雄 清水 高志 米山 優
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.25-31, 2008-11-30

現在の情報化社会,とりわけサイバースペースは,その越境性ゆえに従来の枠組みでは捉えきれない諸問題を浮き彫りにする。このヴァーチャルな空間上で他者とどのように情報をやりとりし,関わっていくべきかという問いは,そのうちの一つである。本論では,まず,これまでの倫理学において論じられてきた他者概念を再検討する。他者概念の捉えられ方によって,コミュニケーションの意義も異なってくるのである。そのうえで,サイバースペース上における他者との共生の可能性を見出すために,他者をどのように承認することが私たちにとって可能であるかを,情報倫理学の視点から探求する。
著者
遠山 茂樹
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.43-50, 2013-12-15

本稿では地域コミュニケーション実態の解明をめざし,その予備的考察のために地方大学へ通う18〜26歳までの大学生「住民」への質問票調査を通して,彼らの日常的なメディア接触,居住地域への関心度,地域情報収集におけるメディア利用等の実態およびその傾向を明らかにしようとした。分析の結果,デジタル・ネイティブとなる現在の大学生は,インターネットサービスを積極的に利用している現状が判明したが,地域情報収集においてはロコミと地元マスメディア情報に依存している傾向が読み取れた。高知県出身者と県外出身者との比較では,居住地域への関心が高い層では積極的に地域情報収集が行われ,多様なメディアを活用している傾向も読み取れた。しかしながら,地域情報収集行動における差異については,出身県に起因するものよりも地域関心度による差のほうが大きい結果となった。
著者
山名 達郎
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.68-75, 2009-12-03

能楽は演劇学,国文学,音楽学,美学,芸術学といった面から研究されてきたが,本論文では室町時代の能楽をメディア論,特にハロルド・イニスのメディアの時間・空間の偏向という考察をモチーフに,室町時代における能楽がどういった特徴や社会的機能・効果があったのかを分析する。能楽の源流は室町時代以前からも存在したが,観阿弥・世阿弥以降ストーリー性を持った歌劇となり,室町幕府の政治や経済と密接な関係をもった文化戦略として全国に広まっていった。能楽というメディアの特性は身体による知識輸送である。身体パフォーマンスは,識字層,非識字層の双方に共通して認識できるメディアである。能楽というメディアは、能楽が行われる場所である能舞台というメディアプレーヤーにおいて、芸能集団がパフォーマンスを行うことで情報が伝達される。どの地方にも知識輸送できる能楽は,集合体としての室町幕府に対応しているのである。
著者
木村 めぐみ
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.45-53, 2008-08-01
被引用文献数
1

1982年に放送を開始したイギリス第四番目の地上波放送Channel 4は,組織設立当初から映画(テレビ映画,劇場公開用映画を含む)事業を主要な事業と位置づけ,1981年から現在に至るまで25年以上の間,年間数本の映画に出資などの方法で映画製作を行なっている。Channel 4による映画製作は,1970年代から1980年代にかけて疲弊していたイギリス映画産業だけでなく,英国国営放送(BBC)やインディペンデントテレビジョン(ITV)を含む放送産業に革命的な影響を与えた。長い低迷期間を経て1990年代にイギリス映画産業は再び活力を取り戻し,Channel4製作映画『トレインスポッティング』(1996)など,イギリス映画を代表する作品を多数生みだし,現往,放送産業はイギリス映画産業に欠かすことのできない重要な映画プロダクションとなっている。本稿はイギリス映画産業の歴史を製作本数の推移を中心に考察したうえで,Channel 4の独自の映画製作方法や1990年代の産業の再生の背景及びChannel 4の映画事業が映画産業に与えた影響,またその設立意義を追究する。
著者
益本 仁雄 宇都宮 由佳
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.97-111, 1999-10
被引用文献数
3

筆者らは, 1992年から北タイで情報化と商品経済化が住民に与える影響や共同体の変容について調査研究に取組んでいる。調査対象の村では, 未電化時では外部情報をほとんど得ることができず, そのため稼得機会に恵まれなかった。電化後, テレビを通じて生活情報や商品情報が大量流入し, 口コミによる情報交換活動も活発化した。小論では, 急激な情報化が村人の意識・行動や生活価値観にどのように影響を与えたかについて情報文化の視点から分析する。村人は, 商品構買意欲を増進させた一方で農業情報に強い関心を示すようになり, 情報源や販売方法を多様化させ, 情報戦略をとるようになった。また, 電灯下での労働, 出稼ぎの増加, 内職など, 労働態様を変え所得上昇を図っている。生活価値観では, 他村への羨望の減少, 情報キーパーソン信頼度の低下, 子供が贅沢になることへの危惧の増加など大きな変化が見られる一方, 国王への尊敬や村の習慣・決まりに関して変化は見られない。急激な情報化は, 意識・行動と生活価値観が同時・並行的に変化し, 相互に影響しあっていることが認められた。
著者
小山 昌宏
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.19-27, 2010-09-07

はじめに,サイバースペースの二つの型,すなわち「疑似型現実」空間と「拡張型現実」空間の概念について考察をおこなう。次に「疑似型現実」空間を構成するインターネットに対する相反する二つの見解,その理論的対立の要因について検討を加える。この考察を踏まえて,人間と自然の対立に代表される認識上の二項対立の限界,すなわち主体と客体の新しい関係性について基礎付けをおこなう。それは,情報化社会における近代理性主体が,「情報的主体」,「情報間主体」に転換する際に発生する新しい「知の枠組み」の可能性について検討するものとなる。
著者
村舘 靖之 須藤 修
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.3-9, 2013-08-31

本稿は貨幣と情報文化という観点からの試論である。貨幣の本質は,情報であり,文化である。我々は貨幣の4次元性という概念を提示する。貨幣は,時間と空間を越えて移動が可能な存在である。情報概念も時間と空間を越えて容易に移動する存在である。貨幣と情報は,4つの次元を容易に移動ができるという共通点を持つ。貨幣は自然界ではなく,人間によって生み出された文化である。今,ここで情報貨幣論について論じるのは,貨幣の存在,その情報・文化的性質が,貨幣経済に内在する本質的な不安定性,つまり貨幣的不均衡を生み出すからである。経済危機に代表される貨幣経済の不安定性や不均衡のあらわれは,標準的な動学的一般均衡理論に貨幣に関する新しい理論を加え,補完する必要性を示唆している。
著者
大井 奈美 Nami OHI 東京大学大学院学際情報学府 Graduate School of Interdisciplinary Information Studies The University of Tokyo
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.7-15, 2012-08-31
参考文献数
20

本稿は,俳人,俳句結社などの俳句共同体,俳句メディアという多様な存在の相互関係から生じるコミュニケーションの観点から,俳句現象を包括的に理解しようと試みるものである。このように個々の自律的な存在のはたらきに留意しながら,同時にそれら個々の存在のはたらきのみには還元しきれない現象の全体(「システム」)にも目を向けようとする分析視角は,従来,「セカンド・オーダー・サイバネティクス」と総称されてきた研究分野に含まれる。本稿ではそのうち,とくに「基礎情報学」にもとづいて,新傾向・無季自由律俳句と伝統派俳句とをとりあげ,俳人,俳句共同体,俳句メディアなどによる複合的な影響を考慮しながら通時的分析をおこなうことで,豊穣な近現代俳文学史の一端を多層的観点から再考した。その結果,俳文学史は,俳句コミュニケーション創出機構の変遷,すなわち「俳句システムの進化」として理解された。その核心にあったのは,俳句批評の創出や俳句理論の変容などとしてあらわれた,俳句コミュニケーション創出機構の自覚化(俳句システムによる「二次観察」)であり,それには,作家のみならす,メディアや結社制度もまた大きな役割を果たしていたことが明らかになった。This study aims to understand haiku phenomena inclusively, from the viewpoint of communication, which emerges from reciprocal relationships among haiku poets, haiku societies, media on haiku, and other establishments relating to haiku. Such an analytic point of view, which tries to consider both operation of each autonomous agent and that of a whole system consisted by the agents, is included in the realm of second order cybernetics. The operation of a system cannot totally be reduced to that of a system's components and that is why such a viewpoint is required. Fundamental informatics, which in the same study field is employed as a theoretical framework and two haiku movements, which include Shin-keiko-haiku (the new trend haiku) and Dento-ha-haiku (the Hototogisu school haiku) forming an important part of modern haiku history, are focused in this study. As a result, modern haiku history is considered to be the evolution of a haiku system, whose main incentive is awareness of production mechanism of haiku communication, which is occurred through second order observations by a haiku system. This study also illuminates how haiku poets, haiku societies and media on haiku take part in the evolution of a haiku system.
著者
平澤 洋一 松永 公博
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.24-31, 2015-08-17

どの授業においても,同一教場内には学力・意欲・理解力の異なる学習者が混在する。一方で,学ぶべき学習内容も多い。小さな領域から大きな領域までを首尾一貫して説明できる理論があれば理想である。言語学でいえば,音韻論,文法論,語彙論,意味論,語源論,言語生活論,コミュニケーション論,言語史,比較言語学,言語地理学,文化言語学,言語心理学,計量言語学などの領域を結びつける理論の確立が待たれる。本稿では,言語情報の構造化・体系化を行うことで(1)教場内における学習者の理解と教育コミュニケーションを高め, (2)その構造化・体系化の方法論を磨くことで情報文化の構造化・体系化に近づけるための問題点とその打開策を検討する。
著者
西尾 祥子
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.41-46, 2013-08-31

本研究では2006年のサッカーワールドカップドイツ大会における「パブリック・ビューイング」のドイツ人参加者への聞き取り調査を通じ,パブリック・ビューイングの役割を語る上で重要な争点を提示する。これまでテレビ放送の介在するメディア・イベント研究において,テレビ番組の集団的視聴により視聴者の集合的アイデンティティが形成されることが指摘されてきたが,本調査では,集合的アイデンティティと同時に視聴者の自己アイデンティティの形成がなされることが明らかになった。
著者
西尾 祥子
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.86-92, 2009-09-15
被引用文献数
1

本論文は,巨大なイベントへの新しい関与形態として近年登場したパブリック・ビューイングについて,ドイツを中心に行われている先行研究の検討と,日本における映像メディア史のマクロ的な観点からの考察を通して,その構成要素を解明することを目的としている。パブリック・ビューイングはこれからますます注目される視聴形態の一つである。映像メディアを「イベント再イベント化」する装置として捉えた上で,筆者は,パブリック・ビューイングを,コンテンツの予測不可能性の高さ,場所の脱個人性の高さ,オーディエンスの匿名性の高さという三要素から成り立つと考える。
著者
山本 圭
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.37-44, 2008-08-01

本稿が目指すのは,今日「ヴァーチャル・コミュニティ」と名指されるオンライン上での人々の集まりを政治理論的観点から分析することである。そもそも人々の共生のあり方である「コミュニティ」はこれまで,政治学や社会科学の領野で議論されできたものであるが,そこで論じられてきたコミュニティは果たして,今日の「ヴァーチャル・コミュニティ」とどのような関連性を持つのであろうか。ヴァーチャル・コミュニティをそのような連関のなかで分析するとき,われわれはそれをめぐる言説の変化に気付かざるを得ない。すなわち,ヴァーチャル・コミュニティの登場ははじめ,理想のコミュニティを実現するものとして歓迎されたが,次第にそれが抱える限界が明らかになるにつれて,その期待は萎みつつあるということである。このようにヴァーチャル・コミュニティが変容するなかで,コミュニティとしてのどのような特質が失われたのかを政治哲学,特にハンナ・アーレントの権力概念に依拠しながら明らかにしたい。ヴァーチャル・コミュニティへの政治哲学からの眼差しは,これまで十分には検討されてこなかった問題を浮き彫りに出来ると考える。