著者
時本 清己 北村 俊英 有吉 智一 高野 絵美 赤江 由之 竹下 美紀 山地 悦子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1570-G3P1570, 2009

【はじめに】当院の臨床実習においてこれまで系統立てたリスク管理教育を行ってきたとは言い難い経過があった.実習生は経験が乏しい故に、患者が有しているさまざまな問題点から起こりえるリスクを自ら予測した行動をとれないことが多い.臨床実習の現場において、患者と実習生の双方のためにも事故はあってはならないことである.しかし、すべてにおいて未熟な学生にさまざまな経験を積ませていかなければならない現状がある.臨床実習指導者(以下、指導者)として事故が起こらないよう患者と実習生双方の能力を的確に把握し、指導者としてもリスク管理を行わなければならない.<BR>実習生に経験を積ませる過程で指導者の関わり方は、ひとつひとつのリスクを解説して理解の程度を確認しながら進めていくという作業であった.<BR>今回、実習生が現場に潜んでいるリスクを察知して、未然に事故防止のための行動が自らとれるように準備するためのトレーニング方法として危険予知トレーニング(以下、KYT)を実践したので報告する.<BR>【KYTとは】KYTは、労働災害防止対策として高度成長期の建設業界で開発された短時間危険予知訓練である.職場内の小グループで短時間での問題解決能力もしくは危険予想能力の向上を目的に実施されてきたものである.基本的には、「自分を守ること」を想定している.近年、このKYTが「医療従事者である自分を守るため」と「対象者である患者を守るため」にリスクマネジメント教育として医療用に応用され、徐々に導入されつつある.<BR>【目的】リスクに対する感受性を高め、さらに集中力や問題解決能力を高めつつ実践への意欲をも高めるKYTという手法を用いて、実習生自身が事故の可能性を察知し事前に防止するための手だてを講じる能力を身につけさせることを目指す.<BR>【方法】医療現場のさまざまなイラスト等を使い、実習生がその場面に相対する当事者となって、その状況の中に潜んでいるリスク要因とそれが引き起こす事態を想起する.実習生が取り上げたリスク要因を指導者は決して否定することなく、そのリスク要因を取り上げた根拠をともに確認しあう.そして、そこに起こりえる事態に対してどのような対策をとるのかを話し合い、理解を深めるという作業を行う.<BR>【考察】実際に用いたイラスト等から経験の乏しい実習生でも予見し、リスク要因を挙げることができた.目の前で見えているレベルのリスク要因から陰に潜んでいるレベルのリスク要因までさまざまなことに気付き、回数を重ねることで取り上げることのできるリスク要因は増した.ただ、このKYTの効果を判定するツールが不充分なため、この整備が今後の課題になると考えている.しかしながら、実習生が患者という対象者の行動を予測し、自らリスク要因を排除する行動がとれるようにするトレーニング方法として今後も工夫を重ねていきたい.