著者
松田 美津子 山寺 幸雄
出版者
一般社団法人 日本超音波検査学会
雑誌
超音波検査技術 (ISSN:18814506)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.271-277, 2017-06-01 (Released:2017-08-24)
参考文献数
8

Carotidynia(頸動脈痛)は頸動脈部分の圧痛を生じる原因不明の症候群である.今回超音波検査にてCarotidyniaによる頸動脈壁の肥厚と回復の経過を観察し得たので報告する.症例は43歳女性.右頸部痛を訴え3日目に当院を受診した.超音波検査にて疼痛部直下の右頸動脈球部から内頸動脈にかけて限局性の壁肥厚を認め壁厚は3.3 mmであった.肥厚部には動脈内腔から外膜方向に向かう細い拍動性の血流シグナルを認めた.経過観察において壁厚は11日目;2.4 mm,28日目;2.1 mm,6か月目;1.6 mmと縮小し,経過とともに肥厚部の血流シグナルも不明瞭化したことから,炎症に伴う一過性の腫大と血管拡張があったものと推測された.Carotidyniaを疑い疼痛部に限局性の壁肥厚がみられた場合は,偽腔血栓化を伴う頸動脈解離,早期の高安動脈炎やプラークとの鑑別が必要であり,2週間~1か月後に超音波検査を再検し,必要に応じて数か月の経過観察により肥厚部を評価する必要があった.Carotidyniaはしばしば誤診されたり見落とされたりすると報告されているが,頸部痛の超音波検査では,頸部リンパ節や甲状腺だけでなく頸動脈まで幅広く観察することによりCarotidyniaの診断率が向上するものと思われた.