著者
高松 哲郎 山岡 禎久
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ヒトの組織や臓器を生きたまま見る方法として、エックス線断層撮影法、磁気共鳴画像(MRI)法、超音波断層撮影法など様々な方法があり、実際に医療の現場で頻繁に使われ威力を発揮している。しかしながら、それらの方法の空間分解能はたかだか数ミリメートルであり、様々な創意工夫により年々その分解能は向上されているが、原理的測定限界がある。一方、光を使った生体計測が、近年注目されており、光コヒーレンス断層映像法(OCT)に代表される医療への応用が発展してきている。光を使うと非常に高い空間分解能で測定が可能であるが、反面、光は生体により散乱、吸収されやすいという性質を持つため、生体への浸透深度が短いという欠点があり、OCTの応用は血管内膜のように厚さが薄いもの、あるいは眼など比較的透明なものに限られてしまう。例えば、末梢血管のような10μmから100μmの大きさのものを生体深部で捉える方法がこれまでになかった。本研究では、光の高空間分解性と、超音波の生体内長距離伝播特性の両方を利用した、全く新しいイメージング技術である多光子励起光音響イメージング(multiphoton excitation-assisted photoacoustic tomography(MEAPAT))を提案した。この方法では、近赤外域の高ピークパワーを持つ光パルスを利用する。生体内に光パルスを集光して入射させると、焦点での高光密度により、焦点部でのみ非線形な吸収効果が誘発される。その非線形な吸収による光音響波を測定することにより、生体深部を高空間分解能で観測できる。様々な実験や考察(MEAPATと従来型光音響イメージングとの比較、MEAPATの深さ分解能の見積り、MEAPAT信号を増強する工夫)を行い、提案している方法によるイメージングシステムを構築し、その有効性を示した。結果は、MEAPATが生体深部を10μm以下の空間分解能で計測するのに極めて有効な方法であることを示している。