著者
山崎 寛恵
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.15-24, 2008-05-10

一名の乳児の日常場面における伏臥位でのリーチングを約5〜8ケ月齢にわたって縦断的に観察した。伏臥位でリーチングを行う時,乳児は上肢で対象物に対する頭部の視覚的定位を維持するために上体を支持することと,対象物に接触することの2つの機能を達成しなければならない。乳児はこれらの機能を同時にどのように達成しているのか,またその達成方法はどのように発達的に推移するのかを明らかにするため,観察されたリーチングを機能的観点から「上体支持有り],「一時上体支持有り],「上体支持無し」の3種に分類し,その出現推移を量的に分析した。その結果,上体を支持しながらリーチングするパターンから,上体を支持することなくリーチングするパターンへの移行が見られたが,リーチング成功率とリーチング時に上肢が担う機能変化との関係は示されなかった。量的分析で明らかにならなかった複雑な様相を,全身の協調の質的記述によって検討した。得られた結果は,乳児が対象物への到達を可能にするために身体各部位を機能的に協調させていることを示すとともに,リーチング発達が身体を不安定にすることによって新しい姿勢調整を獲得する過程であることを示唆する。