著者
山崎 良彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.1, pp.31-35, 2010 (Released:2010-07-09)
参考文献数
47

ニコチンは,神経細胞の興奮性やシナプス伝達を変化させる.脳内報酬系におけるニコチンの作用は多くの注目を集めているが,ある種の記憶・学習の成立に必要な構造である海馬でもニコチンが多様な効果をもたらすことがわかってきた.ニコチン受容体は抑制性介在ニューロンに多く発現しているが,そのサブタイプによって,ニコチン刺激に対し速い脱感作を示したり,あるいは持続的に反応したりする.その結果,ニコチンは複数の機序によって抑制性シナプス伝達を修飾し,主細胞である錐体細胞の興奮性を調節する.また,抑制性シナプス伝達の修飾に加え,ムスカリン受容体の活性化を含む機序によって,N-methyl-D-aspartate受容体反応を増大させ,記憶・学習の細胞レベルでの基礎過程と考えられている長期増強の誘導を促進する.ここでは,上記のような,海馬神経回路に対するニコチンの効果とその作用機序について概説し,ニコチンの作用の多様性について述べてみたい.