著者
山手 千里
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.69, 2006

【はじめに】<BR> 整形疾患において,患側への免荷を余儀なくされることにより,全荷重時期となっても患側下肢への荷重困難となるケースは少なくない.今回,左大腿骨頚部骨折患者において患側荷重を促すため,恐怖心を排除した環境下での課題を導入し,結果が得られたので報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 60代,女性.平成17年10月18日,左大腿骨頚部骨折受傷.同年10月20日,手術(CHS)施行された.術後リハは翌日より開始し,患側荷重は術後7日より1/2PWB,術後14日より全荷重可となった.荷重開始時の下肢筋力はMMT4level,足底感覚の左右差はないが,荷重時には「体重をかけるのが恐い。」との訴えがみられていた.全荷重可となった術後14日時の左側下肢荷重量は,安静立位において体重59kg中,15kgと右側へ偏位していた.<BR>【方法】<BR> 1/2PWB開始後より荷重訓練開始し,平行棒にて両下肢へ体重計を設置し,視覚的フィードバックと口頭指示による荷重訓練を行った.術後14日で全荷重可となったが,1週間後も恐怖心の影響があり,患側荷重量の向上が得られなかった.そこで,より患側下肢への荷重を促すため,平行棒にて両下肢へ体重計を設置した状態で,weight shiftを目的としたペグ移動の課題(以下ペグ課題)を施行し,患者には荷重に注意を向けさせず,ペグ課題に集中させた.<BR>【結果】<BR> 荷重訓練開始時,左下肢荷重量15kg,視覚的フィードバックと口頭指示による荷重訓練の左下肢荷重量は20kgであった.ペグ課題開始時の左下肢荷重量は25kgであった.またペグ課題開始時の遂行時間は右から左への移動(以下右→左)で49.61秒,左から右への移動(左→右)で44.83秒であり,課題開始から1週間後,右→左41.94秒,左→右38.74秒であった.課題遂行時の左下肢荷重量は30kg,左下肢への最大荷重量は45kgであった.歩行はT字杖での自立歩行が可能となった.<BR>【考察】<BR> 従来,整形疾患に対する荷重訓練では,視覚的フィードバックによる自己修正を促すか,セラピストの口頭指示による荷重の修正を行うケースが多く見られる.しかし,恐怖心が阻害因子となり,歩行場面では患側への荷重が不十分となり,歩行時のweight shiftが困難となっている.これらの事を考えると,荷重訓練時に恐怖心を取り除いた環境下でweight shiftを必要とする課題を与え,姿勢制御や歩行の安定化へと結びつける事が重要である.今回,weight shiftを目的としたペグ課題により患側下肢への荷重が可能となり,静止立位及び歩行能力が向上したことが示唆された.