- 著者
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山本 悠真
ジェンキンズ ロバート
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2016年大会
- 巻号頁・発行日
- 2016-03-10
陸上植物は,地球上での重要な炭素貯蔵庫であるが,その構成成分であるセルロースやリグニンは難分解性の有機物であり,光合成によって固定された炭素がそのまま地層中に埋没しやすい.海洋に流出した材はフナクイムシをはじめとした木材穿孔性二枚貝などの材食者によって分解されることが知られている.木材穿孔性二枚貝はヤスリ状の殻で材を小片化し,また,共生微生物を利用してセルロースを分解する.特に深海性の穿孔貝であるキクイガイ類の場合は海底で材を分解する.木材穿孔性二枚貝は木の周囲に分解産物をまき散らすため,材周囲に沈木群集と呼ばれる生態系が形成されることがある.沈木群集には有機物の分解によって生成される硫化水素をエネルギー源とした化学合成生態系が含まれることもある.木材穿孔性二枚貝は前期ジュラ紀に出現し,当時は木を住処として利用しており,ジュラ紀末に木を餌資源として利用するようになった.また,穿孔性二枚貝は白亜紀に多様化した.しかし,白亜紀の海での穿孔性二枚貝の穿孔による木の分解過程は明らかにされていない.そこで本研究では日本の北海道中川町に分布する白亜系蝦夷層群から産出する化石を用い,海での木の分解過程を復元することを目的とした.計67個の炭酸塩コンクリーションを中川町の白亜系露出域から採集し,実験室に持ち帰って表面の観察,切断研磨面および薄片の観察,X線CT撮影,含有無脊椎動物化石のクリーニングなどを実施した採集したサンプルの内約70%に材化石が含まれていた.そのうちの約34%に材への穿孔痕が認められた.穿孔痕壁面の詳細観察により穿孔痕形成者はキクイガイ類などの深海種の木材穿孔性二枚貝だと推定できた.穿孔痕内に硫酸還元菌の活動を示すフランボイド状パイライトの密集が多く見つかった.材化石中や材化石の周囲にパイライトの密集が見つかった.木の周囲にペレットが密集して存在し,その一部には小片化した材が含まれていた.以上の観察事実を総合すると,白亜紀の蝦夷海盆の深海帯においては,少なくとも3割程度の材が深海性穿孔貝と硫酸還元菌による分解を被っていたことが明らかとなった.