著者
山本 直三
出版者
日本情報経営学会
雑誌
情報系 : OA学会論集
巻号頁・発行日
no.2, pp.93-105, 1992-03-25

地球の資源は無限であって,人間が掃き出す汚濁が自然と浄化されるという考えは,もはや通用しない.52億(国連統計90年7月)もの人口を抱えるようになったいま,資源は有限であり,環境破壊は人類を滅亡するとされるようになった.とくにペーパーの大量消費が森林資源を食い潰し,その廃棄物が環境を破壊することは,由々しき問題となっている.こんなときOAシステムがかえってペーパー洪水を引き起こす元凶とさえ報道されている.1991年9月には,東京都庁は,都内企業に対して,それぞれ30%のOA用紙節約を要請したという.OAがむしろこのような問題を解決する有力な手段となるようでなければならないときが来ている.この論文では,OAの推進において,電子メディアを適用して,すぐれたオフィスシステムを編成することが基本的課題となっており,その結果として必然的にペーパーレスが実現されていくことを論ずるとともに,ペーパーレスの推進の阻害となる要因を論じることにした.OAの推進において,OA機器およびOAシステムを取り入れること自体は,あくまで手段にすぎなく,効率的かつ効果的なオフィスシステムを創造することが主目的であることはもちろんである.この主目的を果たすためには,すぐれた機能を持つ電子メディアを活用して,ペーパーの束縛から逃れ,電子メディアの大海に出ることである.しかし,ペーパーは数千年にわたり長く使われていて,人々の生活に浸透して,我々はそこはかとなく親しみを感じ,人間的な手応えを感じている.これは紙のよさであり,いま直ぐには捨て切れないものがあろう.この現実を考えて,電子メディアを含めた中で,ペーパーのすぐれた特性をシステムの中にうまく組み入れていくという考え方も大切なのであるが,ペーパーとしての新しい効用を見直すことも必要となる.ペーパーは全廃するのではなく,それなりにその機能を巧みに活用することが大切だという考え方となれば,ペーパーレスというよりもペーパーセービングという言い方のほうが適切かもしれない.OAシステム設計では,コンピューターネットワーク,ワークステーション,電子ファイルなどの装置を利用してシステムを構成する.そこでは電子メディアが多用されるが,ペーパーメディアも構成要素として組み込むことになる.OAの推進のためには一段とOA機器が発達し,ネットワークなど,インフラストラクチャーの整備が進む必要がある.これと合わせて,キータッチメソッドやディスプレイの使用など,個人のOAリテラシィの学習が進まないといけない.これは個人の問題意識や学習意欲が必要であるから,なかなか浸透しないであろう.これらの未熟な状態が,OAの推進およびペーパーレスの隘路ともなっている.ペーパーとまったく同じように電子メディアに親しみを感じるようになるには,人間の学習も大切だが,ヒューマンインターフェースが一段と進むことが望まれる.社会制度の問題もある.ペーパーにどっぷりと漬かっているような教育制度も検討を要する.現在の制度をそのまま踏襲すれば,新しいリテラシィが育つには,かなりの年月を要するだろう.