著者
山本 直弥 勝平 純司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1235, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】サッカーのキック動作に関する研究は下肢三関節を中心に行われており,腰部負担が客観的数値で示された研究の報告は見当たらない。腰部負担を示す指標として,椎間板圧縮力がある。椎間板圧縮力(以下,LBC)は年齢や性別の違いで許容値が異なるとされており,20代男性は6000Nとされている。この年齢性別の違いを総合して,National Institute of Occupational Safety and Healthは性別年齢問わず,3400N以下を推奨している。本研究では,この3400Nを許容値,20代男性の6000Nを限界値と定義して行った。本研究の目的はサッカーのキック動作における腰部負担を運動力学的に明らかにすることとし,その中で,インステップとインサイドのLBCを算出し,比較検討した。また,腰部体幹に着目し,それぞれのキックのLBCの増加に影響を及ぼす因子を比較した。【方法】対象はサッカー経験のある健常若年男性12名とし,全員右利きの者とした。平均年齢21.1±1.7歳,平均身長171.8±5.7cm,平均体重64.3±5.9kgであった。三次元動作解析装置,床反力計,赤外線カメラを使用し,被験者には赤外線反射マーカーを計36個貼付した。計測条件としては固定した位置から助走を開始し,その後床反力計の上に置かれたボールをインステップ,インサイドで3回ずつ蹴る。本研究では,ボールスピードの再現性のため65~75%のボールスピードで行うこととした。65~75%の算出方法は,計測前被験者に最大努力でのキックを実施させ,そこで得たボールスピードの値を100%として65~75%を算出した。計測期間は軸足の踵接地からボールインパクトまでを測定した。その期間内でLBCが最大となった時点での腰部モーメントを抽出した。また計測期間内での体幹と骨盤の角度を抽出した。統計解析は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】LBCのピーク値はインステップで3906.28±591.40N,インサイドで2647.31±401.68Nとなった。LBCを体重で正規化した値において,インステップはインサイドよりも有意に大きな値を示した。腰部モーメントについては,右側屈モーメント,左回旋モーメントでインステップのほうが有意に大きな値を示した。骨盤は全施行左へ回旋していき,その左回旋角度量はインステップで有意に大きな値を示した。【考察・結論】LBCは,インステップでは6000Nの限界値までは達しないが,3400Nの許容値は超えており,インサイドでは許容値以下に抑えられていた。体重で正規化すると,インステップで有意に大きい値を示した。この原因として,インステップでの腕の振りが大きいことや,またインサイドでは蹴り足股関節外旋モーメント発生に備えるため,腰部左回旋モーメントを抑えていたことなどが考えられる。以上の点から,インステップでの強いシュートを目指すだけでなく,インサイドでの正確なシュートも交ぜて練習を行うと,腰痛の障害予防になるのではないかと考えた。