著者
森 貴治 山村 剛士
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.107-118, 2005 (Released:2005-12-28)
参考文献数
54
被引用文献数
1

ポルフィリン集積系の実測吸収(UV-vis.)スペクトルと円二色性(CD)スペクトルから励起子理論に基づいてポルフィリン同士の相互配置を求めるプログラムを開発した。これは、1)与えられたポルフィリンの配置から、各ポルフィリンの遷移ダイポールベクトルを求め、2)遷移ダイポールの相互作用による励起状態のエネルギー分裂と波動関数を励起子理論によって計算し、3)これらの結果を用いて計算スペクトル(UV-vis. スペクトルとCDスペクトル)を求め、ついで4)計算スペクトルと実測スペクトルの差の二乗和Sを最小化するようにポルフィリン相互の配置を最適化していくものである。最適化の手法として、ポルフィリンの相対配置をランダムに発生させ、スペクトルの差の二乗和Sを準ニュートン法を用いて最小化する最も単純な方法を選んだ。プログラムの妥当性を検証するため、Crossleyらにより合成されたTröger's base型ポルフィリンダイマーと大須賀らにより合成されたメソ-メソ結合ポルフィリンダイマーについて計算を行った。これらの化合物は2個のポルフィリン同士がキラルな配置を保って結合しており、配向が堅固でUV-vis. スペクトルと共にCDスペクトルとX線結晶構造解析の結果が報告されている。計算の結果、Crossleyらのダイマーの推定構造(ポルフィリンには平面構造を仮定)はX線結晶構造解析によるものとほぼ一致した(ポルフィリンの中心金属・窒素原子のRMSD = 0.21 Å)。また、大須賀らのダイマーでは、推定構造はポルフィリンのvan der Waals雲同士が大きく衝突していたものの、X線結晶構造と似ていた(RMSD = 0.95 Å)。ポルフィリン同士が直接結合し、電荷移動を起こすような系には本プログラムは向かないが、非共有的に結合した系には適用できることが示唆された。