著者
山根 朋巳 鈴木 桂子
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

幸屋火砕流(宇井, 1973)は、約7300年前(福沢, 1995)の鬼界カルデラ形成に伴った鬼界アカホヤ噴火の際に発生した大規模な火砕流である。鬼界アカホヤ噴火はプリニー式噴火に始まり降下軽石とイントラプリニアン火砕流を発生させ、続く幸屋火砕流の噴出で終了した(町田・新井, 2003; Maeno and Taniguchi, 2007; 藤原・鈴木, 2013)。幸屋火砕流堆積物は、給源近傍の薩摩硫黄島・竹島のほか、周辺の陸地(薩摩半島・大隅半島・種子島・屋久島・口永良部島)で分布が確認されている(宇井, 1973; 町田・新井, 1978; 小野ほか, 1982; Maeno and Taniguchi, 2007; 下司, 2009; 藤原・鈴木, 2013)。噴火当時の海水準は現在とほとんど変わらない(例えばTanigawa et al., 2013)ことや堆積物の分布から海上を流走したことは明らかであるが、海の存在が幸屋火砕流に与えた影響は検討されてこなかった。 鬼界アカホヤ噴火噴出物中には、SiO2 wt.% = 75前後の“高SiO2ガラス”とSiO2 wt.% = 65前後の“低SiO2ガラス”の2種類の火山ガラスが含まれ、幸屋火砕流堆積物中で両ガラスの量比が垂直方向で変化を見せる(藤原・鈴木, 2013)。このことから、藤原・鈴木(2013)は、火砕流噴火初期には高SiO2ガラスのみからなる火砕流が発生し、噴火が継続していく中で低SiO2マグマが噴出し始めたとした。 本研究では、露頭記載、火山ガラス化学組成分析、層厚・軽石最大粒径測定という手法を用いて、これまで議論に含まれてこなかった種子島の堆積物に基づき幸屋火砕流の流動・堆積機構を議論し、また、海の存在が幸屋火砕流に与えた影響を検討することを目的とした。 火山ガラス組成分析には、種子島の4地点で幸屋火砕流堆積物の基底部から上位へ一定間隔で採取したマトリックス試料を用いた。分析結果から、基底部からは高SiO2ガラスのみ、上位層準からは低SiO2ガラスが少量混ざるという垂直変化が得られた。これは給源近傍や薩摩半島・大隅半島(藤原・鈴木, 2013)と同じ垂直変化であり、火砕流噴火初期に発生した高SiO2ガラスのみを含む火砕流は薩摩半島・大隅半島・種子島に到達・堆積したことが明らかになった。また、最も低SiO2ガラスの含有量比が大きくなると考えられる最上位層準で検出される低SiO2ガラスの量比を見ると、大隅半島に比べて小さいことが分かった。これは、継続する火砕流噴火のより後期に発生した低SiO2ガラスを多く含む火砕流が大隅半島には到達したが種子島には到達しなかったことを示していると考えられ、種子島では大隅半島より層厚が薄いことと整合的である。 軽石最大粒径は一般的な大規模な火砕流堆積物とは異なり、給源からの距離に伴って小さくなる傾向を示さない。しかし、海上流走距離との関係を見ると、海上流走距離が大きくなると軽石最大粒径が小さくなるという比例関係が明らかになった。これより、幸屋火砕流が運搬できる軽石粒径の上限は海上流走距離によって決定されたとみなせる。また、この比例関係から海上を流走する幸屋火砕流の到達限界は約70 kmと推定され、種子島は火砕流の到達限界に近いことが分かった。 以上の議論より、幸屋火砕流は海上流走中に多くの火砕物を落としたことは容易に想像でき、鬼界カルデラを取り巻く海底には広範囲に火砕流堆積物が堆積していると考えられる。