著者
山田 庄太郎
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.637-659, 2010-12-30 (Released:2017-07-14)

本稿は、四世紀末から五世紀初頭のマニ教教師ファウストゥスの思想の一端を明らかにすることを目的とする。マニ教はアウグスティヌス当時の属州アフリカで隆盛を誇ったが、五世紀以後急速にその教勢を減じていった。須永はその原因をマニ教の折衷主義に求め、過度なキリスト教化がマニ教の教団としての独自性の喪失を招いたのではないかと見ている。我々はこの須永の指摘を念頭に、ファウストゥスのセクト論の内にその萌芽が既に見出せることを論じた。第一に我々はファウストゥスの思想の大枠を概観し、その根底にある彼の特徴的な律法理解を明らかにする。第二に我々はその律法解釈から生じる彼のセクト論について考察を加える。最後に上述二つの議論を基に、ファウストゥスのマニ教理解について論じる。そこから彼のセクト論がキリスト教とマニ教との連続性を強化する一方で、創始者マニの役割を縮小し、マニの地位を後退させていることを明らかにする。