著者
山田 彬尭
出版者
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
雑誌
言語情報科学 (ISSN:13478931)
巻号頁・発行日
no.12, pp.37-53, 2014

本稿の目的は、「条件節の分析として欠落説と移動説とを比較するならば、移動説の方が高い説明能力を持っているため優れている」という主張をすることにある。Haegeman(2003, 2006, 2009, 2010a, 2010b, 2013)は、条件節に対して、これまで、二つの異なる分析を唱えてきた。一つ目は、条件節における諸現象を機能範疇の欠如として説明する欠落説であり、二つ目は、オペレーターの移動と局所性から条件節の諸現象を説明する移動説である。彼女は、前者の枠組みから後者の枠組みへ説を乗り換えてきた。しかし、彼女の説の転換とは裏腹に、両者の説明能力は、むしろ拮抗しており、先行研究で挙げられたデータからだけでは、後者が前者に対して圧倒的優位に立っているとはいいがたい。これに対し、本稿では、日本語の条件節において「もし」と疑問語が生起できないという事実に注目する。そして、欠落説では捉えられないこの現象が、移動説の下では説明できることを指摘する。この説明能力の相対的な広さを根拠に、条件節の分析として欠落説と移動説を比較するならば、移動説の方が優れている、という主張を展開する。