著者
鎌田 泰斗 坂元 愛 山田 新太郎 関島 恒夫
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.3-13, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
31

シベリアシマリスTamias sibiricus(以下,シマリスとする)には同種内に年周期的に冬眠する個体と冬眠をしない個体が存在していることから,冬眠調節メカニズムを解明する実験材料として,非常に高い潜在能力を有していると考えられる.しかしながら,実験室条件下における繁殖プロトコルは未だに確立されておらず,計画的な繁殖成功の報告もないことから,モデル動物化を進めるにあたり大きな障壁となっている.本研究では,実験室条件下における雌の発情特性を明らかにすることを目的に掲げ,はじめに,雌の発情パターンを明らかにし,冬眠タイプと非冬眠タイプ間において繁殖期の長さや,この期間に特異的に観察される鳴き声(発情鳴き)に差異があるかどうかを比較した.次に,発情鳴きが認められた期間において交配実験を実施したところ交尾行動が観察されたことから,発情鳴き状況に応じた膣スメア細胞診をすることにより,発情鳴きの発情周期上の意義を明らかにした.結果として,雌のシマリスは,実験室条件下において年1回の繁殖期を有しており,発情鳴きは約11日周期で繁殖期間中に4から5回ほど認められた.さらに,発情鳴きが膣スメア像における角化無核細胞の増加と密接に関連していたことから,発情鳴きは発情周期上における排卵日を示す重要なシグナルとなっていることが示された.冬眠タイプと非冬眠タイプ間において,繁殖期の長さや発情鳴きのパターンについては明瞭な差異は認められず,共通した発情特性を示すことが明らかとなった.さらに,本研究では,冬眠タイプと非冬眠タイプ間の異型交配を試みたところ,6例のF1世代の作出に成功した.今後,さらに異型交配を進展していくことで,冬眠の遺伝形式の解明や連鎖解析による冬眠の調節メカニズムに関与する遺伝子の同定が期待される.