著者
遠藤 秀紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.79-83, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
9
被引用文献数
2
著者
城ヶ原 貴通 小倉 剛 佐々木 健志 嵩原 建二 川島 由次
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.29-37, 2003 (Released:2008-06-11)
参考文献数
24
被引用文献数
12

沖縄島北部やんばる地域におけるノネコ(Felis catus)および集落におけるネコの食性と在来種への影響を把握するために,糞分析による食性調査を実施した.その結果,ノネコおよびネコの餌動物は多くの分類群にわたっていた.林道においてノネコは,昆虫,哺乳類,鳥類および爬虫類を主要な餌資源としていることが推察され,集落においては,人工物および昆虫が主な餌資源となっていることが推察された.ノネコの餌動物には多くの在来の希少動物が含まれており,沖縄島固有種で国指定特別天然記念物であるノグチゲラ(Sapheopipo noguchii)をはじめ8種の希少種がノネコの糞より検出された.やんばる地域に生息するノネコおよび集落に生息しているネコは,沖縄島の生態系において陸棲動物のほとんどを捕食できる高次捕食者として位置づけられると考えられた.今後,やんばる地域の生態系を維持するためには,ノネコの排除が必要であり,さらに供給源としての飼いネコの遺棄を防ぐ県民への啓蒙普及活動が不可欠である.
著者
篠田 優香 佐伯 緑 竹内 正彦 木下 嗣基
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.179-187, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
32

タヌキのロードキル発生状況を,茨城県阿見町から千葉県成田市までの約35 km区間において32ヶ月間にわたり記録した.この間に124件のロードキルが確認され,秋に多く発生していた.また,この約半数が全体の3分の1に満たない水田優占地帯で発生した.ロードキル発生要因を景観構造の観点から解明するため,ロードキル数を目的変数,土地利用割合を説明変数とした偏最小2乗(PLS)回帰分析を行った.その結果,「水田」と「緑の多い住宅地」が,ロードキル数に対する変数重要度の大きい正の要因であることが明らかとなった.さらに,水田優占地帯においては,大区画水田が単一的に広がる景観と,樹林地や住宅地と混在した小区画水田が残存している景観では,ロードキルの発生時期と発生場所に違いが見られた.これらのことから,タヌキのロードキルは,秋季の分散に伴う行動特性に加え,周辺の土地利用割合,タヌキの生息地利用と景観構造との相互作用による影響を受けていると考えられた.
著者
伊藤 萌林 佐鹿 万里子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.103-108, 2023 (Released:2023-02-09)
参考文献数
26

北海道大学札幌キャンパス内に設置した自動撮影カメラによって,オニグルミJuglans mandshuricaの種子を地面に貯食し,それを積雪下から回収するエゾリスSciurus vulgaris orientisの行動を記録した.エゾリスは2021年12月16日に非積雪状態で貯食したオニグルミの種子を,23日後の2022年1月8日に21 cmの積雪下から回収した.本観察事例ではエゾリスは嗅覚や視覚記憶を使っておらず,エゾリスが貯食物の探索に空間的記憶を重視していることが示唆された.また,貯食行動から回収行動までの23日間にわたって,貯食場所を再確認することがなかったにも関わらず,迷うことなく貯食場所に到達したことは,エゾリスが精度の高い記憶能力を持つことを示唆する.
著者
池田 敬 児玉 大夢 松浦 友紀子 高橋 裕史 東谷 宗光 丸 智明 吉田 剛司 伊吾田 宏正
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.47-52, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
18

ニホンジカ(Cervus nippon)を効率的に捕獲する際に,給餌に醤油を用いた場合の選択効果を実証することを目的として,採食試験を実施した.調査は北海道洞爺湖中島において,4地域9地点の給餌場所で2012年11月7日~17日に行った.醤油区と牧草区,醤油を散布した牧草区(醤油牧草区)の3種類の給餌区を設定し,期間中に3回~5回給餌し,自動撮影カメラを利用して各区に対するシカの選択頻度(1時間当たりの撮影頭数)を算出した.各給餌区の選択頻度は(1)調査期間を通しての各給餌回後および全体についてと,(2)各給餌後24時間以内の時系列データに再配列したデータセットでの2時間毎の頻度の二つの区分で別々に評価した.醤油区の場合,二つの区分の両方で選択頻度が低かった.給餌後の変化を見ると(1)の区分では,牧草区と醤油牧草区の選択頻度は1回目の給餌で少なく,回を重ねるごとに増加した.醤油牧草区の選択頻度は,5回目を除いて他の2区と比べて有意に高かった.一方,(2)の区分では,醤油区の選択頻度は他の2区よりも明らかに低く,醤油牧草区の選択頻度は全体的に牧草区よりも高かった.結果的に,醤油単体を給餌した場合はニホンジカに選択されにくいものの,醤油を散布した誘引餌は通常の餌よりもニホンジカに選択されやすいことが示された.
著者
近藤 憲久 河合 久仁子 村野 紀雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.39-45, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
23

札幌市手稲区(43°07′N,141°11′E)で2007年11月9日に拾得されたコウモリは,クロオオアブラコウモリと同定され,日本において8番目,札幌においては4番目の報告となった.日本でこれまで報告されているクロオオアブラコウモリ標本と本拾得個体の頭骨を精査した結果,これまで指摘されてきたように,上顎第二前臼歯が消失傾向にあることが明確となった.また,キタクビワコウモリとクロオオアブラコウモリを比較すると,上顎犬歯咬頭後稜の向きおよび下顎犬歯の高さと第四前臼歯の高さの比率が種識別に有効であることがわかった.
著者
鈴木 真理子 大海 昌平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.241-247, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

イエネコFelis catusによる在来種の捕食は,日本においても特に島嶼部において深刻な問題である.鹿児島県奄美大島と徳之島にのみ生息する遺存固有種アマミノクロウサギPentalagus furnessiの養育行動を2017年1月から3月にかけて調査していたところ,繁殖穴で離乳間近の幼獣がイエネコに捕獲される動画を自動撮影カメラによって撮影したので報告する.繁殖穴における出産は2017年1月14日~15日の夜に行われたが,幼獣(35日齢)がイエネコに捕獲されたのは2月19日1時ごろで,この前日は繁殖穴を母獣が埋め戻さずに入り口が開いたままになった初めての日であった.この動画の撮影後,幼獣は巣穴に戻っていないことから,捕食あるいは受傷等の原因で死亡した可能性が高い.イエネコは幼獣の捕獲から約30分後,および1日後と4日後に巣穴の前に出現し,一方アマミノクロウサギの母獣は1日後に巣穴を訪問していた.幼獣の捕食は,本種の個体群動態に大きな影響を与えうる.本研究により,アマミノクロウサギに対するイエネコの脅威があらためて明らかとなった.山間部で野生化したイエネコによるアマミノクロウサギ個体群への負の影響を早急に取り除く必要がある.
著者
平城 達哉 木元 侑菜 岩本 千鶴
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.249-255, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
21
被引用文献数
1

鹿児島県奄美大島に分布するアマミノクロウサギPentalagus furnessiを対象として,2007年度~2016年度の10年間に環境省奄美野生生物保護センターにおいて把握できている本種の死亡個体と鹿児島県教育委員会大島教育事務所に集約された天然記念物滅失届の情報(n=499)を用いて,ロードキルの発生場所と発生時期を検討した.ロードキル(113件,交通事故で緊急保護された直後に死亡した3個体を含む)は全体の滅失数の22.6%を占めた.このうち,93件(82.3%)は島の中南部(奄美市住用町,大和村,宇検村,瀬戸内町)で発見されたもので,特に瀬戸内町網野子峠,奄美市住用町三太郎峠,県道612号線,県道85号線がロードキル多発区間であった.アマミノクロウサギのロードキル発生時期には季節性がみられ,発生件数は夏に少なく,秋から冬に多い傾向が示された.
著者
松浦 友紀子 伊吾田 宏正 宇野 裕之 赤坂 猛 鈴木 正嗣 東谷 宗光 ヒーリー ノーマン
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.61-69, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

野生動物管理のための個体数調整捕獲が各地で行われているが,十分な成果を上げている例は少ない.その要因の一つとして,野生動物管理者や捕獲の担い手の育成不足があげられる.そこで,野生動物管理の担い手像を考えるシンポジウムを2015年2月14日に札幌で開催したので,その内容を報告する.シンポジウムでは,イングランド森林委員会で国有林のシカ類管理を統括しているノーマン・ヒーリー(Norman Healy)氏が,英国の野生動物管理者の教育システム,シカ猟認証制度(Deer Stalking Certificate)の概要及びシカ類を資源利用して得た収入を森林管理に還元する仕組み等について基調講演を行った.北海道の取組みについては,人材育成の必要性は認識されていたものの,狩猟者の育成にとどまり十分には為されてこなかった実情について報告した.また,現状ではニホンジカ(Cervus nippon)の個体群管理の目標達成が困難であること,その要因として実行体制と人的資源の欠如があることを指摘した.さらに,今後のニホンジカ管理においては,趣味の狩猟者である「ハンター」と,個体数調整捕獲に職業として従事する「カラー」を明確に区分し,カラーを捕獲プログラムの中で活用する体制を作る必要性を指摘した.これらを踏まえて,具体的な人材育成の取り組みとして,2015年度から開始が予定される新しいシカ捕獲認証について話題提供をした.この認証制度は,イングランドのDeer Stalking Certificateをモデルとしながら日本向けに改善したものである.以上から,捕獲をコーディネートできる人材やカラーなど,日本の野生動物管理を担う人材育成の仕組みを提案した.
著者
高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.237-246, 2018 (Released:2019-01-30)
参考文献数
35
被引用文献数
3

タヌキNyctereutes procionoidesが利用する果実の特徴を理解するために,タヌキの食性に関する15編の論文を通覧したところ,タヌキの糞から103の植物種の種子が検出されていた.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹2種の種子を含む68種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシHovenia dulcisの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.また,乾果は30種あり,蒴果6種,堅果4種,穎果4種,痩果4種などであった.このほかジャノヒゲOphiopogon japonicusなどの外見が多肉果に見える種子が3種あった.果実サイズは小型(直径<10 mm)が57種(55.3%)であり,色は目立つものが70種(68.0%)で,小型で目立つ鳥類散布果実がタヌキによく食べられていることがわかった.「大型で目立つ」果実は15種あり,カキノキDiospyros kakiはとくに頻度が高かった.鳥類散布に典型的な「小型で目立つ」果実と対照的な「大型で目立たない」果実は10種あり,イチョウGinkgo bilobaは検討した15編の論文のうちの出現頻度も10と高かった.生育地にはとくに特徴はなかったが,栽培種が21種も含まれていたことは特徴的であった.こうしたことを総合すると,タヌキが利用する果実には鳥類散布の多肉果とともに,イチョウ,カキノキなどの大型の「多肉果」も多いことがわかった.テンと比較すると栽培植物が多いことと大きい果実が多いことが特徴的であった.

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出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.185-186, 2014-06-30 (Released:2014-06-30)
著者
中本 敦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.267-284, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
120
被引用文献数
2

琉球諸島におけるこれまでのクビワオオコウモリの地理的分布に関する情報を整理し,分布の変遷としてまとめた.クビワオオコウモリの生息する琉球諸島は,熱帯を中心に多様化しているオオコウモリ類においては分布の北限にあたる.このような分布の辺縁部は,時に生存が困難であり,一般に分布境界があいまいな地域になることが予想される.特に飛翔能力を有するコウモリ類においては分布境界を超える島嶼間の移動が比較的簡単に生じるだろう.本研究の結果,1)クビワオオコウモリは,自然分散と局所絶滅を繰り返しており,経時的に分布範囲がかなり変化していること,2)少なくとも沖縄諸島個体群(亜種オリイオオコウモリ)の個体数と分布は,現在増加・拡大傾向にあること,3)いくつかの島の個体群(特に基準亜種エラブオオコウモリ)は,八重山諸島からの人為的な輸送に起源する可能性があることが明らかとなった.動物の分布の変遷はこれまでに予想された以上に短期間に広い範囲で起こっており,一部は過去の人為的な輸送の影響を強く受けている可能性が示唆された.今後,少なくともクビワオオコウモリの保護に関しては,現在進行中の分布変化に加え,人為的な移入などの歴史的な背景を含めて,総合的に議論していく必要がある.
著者
浅原 正和
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.387-390, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
6

日本遺伝学会用語編集委員会が新たに遺伝学用語の和訳を策定し,2017年9月に用語集を発刊した.日本遺伝学会はこれに基づいて文科省に教科書の用語変更を求めていく方針だという.今回改訂された用語には,遺伝学以外の分野で用いられる用語も含まれる.中でも,進化学や生物多様性分野における最重要用語の一つである「variation」はこれまで「変異」と訳されてきたが,これを「(1)多様性,(2)変動」と訳すように変更し,「変異」は「mutation」の訳語として用いるように変更するという.しかし,歴史を紐解けば,variationの訳語としての「変異」は遺伝学そのものが誕生する以前から使われてきた.また,「変異」という用語は多くの派生語があり,現在も哺乳類学を含む,遺伝学以外の様々な自然史分野で広く使われている.このように広い分野で継続して使われてきた「変異」という日本語の意味する対象が突然variationからmutationに変更されてしまうと,これまで蓄積されてきた日本語文献について誤読が生じかねない.以上のように,variationの訳語変更は歴史的な正当性を欠き,学術的にも混乱を招きかねず,日本語という言語の価値を保つ上で問題がある.そのため,今後もvariationの訳語として,伝統的に用いられ,現在も広く使われている「変異」という訳語を残すことが望ましいと考えられる.
著者
小林 秀司 織田 銑一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.189-198, 2016 (Released:2017-02-07)
参考文献数
76

ヌートリアが日本に定着した原因は,太平洋戦争における毛皮の軍事利用の文脈で語られることが多く,日本軍国主義の終焉が野生化をもたらしたとのイメージが一般に広く浸透している.今回,著者らは,故近藤恭司博士の残した資料を出発点に,戦後のヌートリアブームに関する資料を収集し,第二次ヌートリア養殖ブームの再構築を試みたところ,これまでとは全く異なる事実が浮上してきた.当時,食料タンパク増産の国民的な声に押されて策定された畜産振興五ヶ年計画という一大国家プロジェクトが存在し,その一環としてヌートリアの増養殖が計画,推進されていたのである.その始まりは,1945年9月,丘 英通と高島春雄が学術研究会議非常時食糧研究特別委員会において,食糧難対策にヌートリアを用いる事を進言した事に遡る.増養殖の容易さが食用タンパク源の緊急増産に好適であるとして,未曾有の食糧危機を打開する「救荒動物」の筆頭にヌートリアが取り上げられたのである.それが畜産振興五ヶ年計画に取り込まれる過程で,食肉利用だけでなく,アメリカの食糧援助に対する「見返り物資」という目的をも付与され,輸出用毛皮増産の切り札として,1947年9月,畜産振興対策要綱に具体的な増養殖計画が盛り込まれた.つまり,日本におけるヌートリアの野生化の最大原因とされる第二次養殖ブームは,戦後の経済復興計画の一環として行われたものであり,まさに国策増殖といってよい.