著者
山田 真世
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.47-57, 2014

幼児期の子どもにとって,絵は他者との重要なコミュニケーションツールの1つである。日常保育場面では,幼児が自身で描いた絵を説明することが多々あるが,その絵は技術不足から本来の描画意図とは異なって他者に解釈をされることもある。本研究はこのような絵に関するミスコミュニケーション場面を設定し,幼児期の絵の命名行為の変化から,描画意図の発達を明らかにすることを目的とした。2歳クラスから5歳クラスの子どもにおいて,事前の命名を行い,参加児に描画意図を持って絵を描くように促す条件(以下,事前命名あり条件)と,形を真似て描くだけの条件(以下,事前命名なし条件)を設定した。その後,絵を描くところを見ていない実験者が,「何の絵か」,幼児の絵の説明以外にも「他の物(例えば赤信号)にも見えるが,どちらの絵か」「最初に何を描こうとしたのか」を尋ねた。結果,2歳クラスの子どもでは事前に描く対象を定めていても,描画後には同じ絵に異なる命名を行っていた。一方で,3歳クラスから5歳クラスの子どもは描画後に他者からの異なる命名を受けても,最初の自身の描画意図を自覚した回答が可能であった。さらに5歳クラスの子どもでは,自身の絵について,他者からの見えと自身の描画意図を比較し調整する反応が見られた。