- 著者
-
岡 眞人
- 出版者
- 横浜市立大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
今日のオランダでは退職は健康維持や家庭生活に良い影響を及ぼすと考える人が多数を占めており「早期退職文化」が深く根付いている。60歳前後の退職・引退が社会常識化し、早期退職制度の廃止には強い抵抗がある。オランダ政府は高齢者の就業意欲を高めるため、生涯学習・訓練による就業能力の維持・開発という総合的・長期的戦略に基づく政策を推進している。高齢者雇用問題を高齢期だけの問題とみなさず、生涯にわたる労働生活の視点から捉え、全年齢層との関係で捉えるところにオランダの政策的特徴がある。イギリスではオランダとは対照的に、サッチャー政権の新自由主義路線の下で早期引退制度は導入されなかった。しかし労働不能給付制度が事実上早期引退への抜け道として機能し、高齢者雇用率の長期的低下傾向が続いた。ブレア労働党政権は雇用保障を国民福祉の基本に据え、EU諸国と歩調をそろえて高齢者雇用促進に取り組んだ。その中核は「ニューディール50プラス」である。この施策は就業不能給付受給層の多い50歳以上にきめ細かな就労支援を提供して自立を促すことを狙いとし、一定の効果を上げたと評価されている。さらに年齢差別禁止に関する法律が2006年に制定されたことも大きな一歩と思われるが、その効果について評価するのは時期尚早である。オランダとイギリスに共通する政策的特徴は、年齢差別、性差別、障害者差別、人種差別などを個別的に捉えるのではなく、包括的に人権問題として位置づけ、各分野の取り組みを関連付けて相乗効果を引き出す戦略にある。非正規社員と呼ばれる不安定雇用の渦の中に多くの高齢労働者が巻き込まれている日本の実態を見ると、英蘭両国の包括的アプローチから学ぶべき点は少なくないといえよう。