著者
岡崎 まりえ OKAZAKI Marie
出版者
岩手大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
岩手大学大学院人文社会科学研究科研究紀要
巻号頁・発行日
vol.17, pp.127-147, 2008-07-01

ドイツには,目に見える「壁」と目に見えない「壁」がある。前者は,ドイツがまだ東西に分断されていた頃の国境のことであり,後者は,心の中に存在する「壁」である。17年前,ニュースはベルリンの壁の開放と長年わけ隔てられた同胞との再会に歓喜する人々の姿を,逮日放送した。だが,人々はあれほど喜んでいたことを忘れ,今心の中に,再び東西ドイツを隔てる壁を,以前の何倍もの高さで築いていると感じずにはいられない。 去年,日本に交流事業でやってきたドイツ・ハンブルクの青年たちは,「汚い」,「貧しい」,「(経済的に)遅れている」といった否定的な形容詞で東ドイツのイメージを語り,「親がそう言っていた」とか「学校でそう習った」と答えた。統一して17年も経つとはいえ,東西ドイツ人の間には,親から子に受け継がれるような根強い偏見があって,どうやらそれが「心の壁」の主要因となっているようだと,私は思ったのである。 今回の研究の目的は,この「心の壁」という問題を紹介し,そうした問題がなぜ,どのように生じているのか,そのメカニズムを考えることである。そして単なる制度的な統一ではなく,「心の壁」を解決しての真の統一を実現するために何ができるか,考えてみたいと思う。