著者
岡本 半次郎
出版者
社団法人日本動物学会
雑誌
動物学雑誌 (ISSN:00445118)
巻号頁・発行日
vol.38, no.453, pp.173-181, 1926-07-15
被引用文献数
1

名勝地として其名高き朝鮮の金剛山は孤立したる一の山でなく、所謂萬二千衆峯より成る。金剛山は、馬山蔚山の間に起り東海岸に偏して縱走し、元山の西を走り鮮滿國境の白頭山に達する、朝鮮半島の脊梁の中央部江原道と咸鏡南道の道界に在る一群の峻峰の様である。此附近の山脈は三連の併走せる連峰より成り、中央及東方連峰は直に日本海に沒し、西方連峰のみ獨り遠く北方に連亘す。金剛衆峰の區域は江原道高城、金化、淮陽郡及咸鏡南道通川郡の四郡に跨り、其廣袤大約十餘方里、通俗に之を區分して中央連峰の西側を内金剛、中央連峰と東方連峰との間を外金剛、更に東方連峰の海に沒する高城附近を海金剛と稱ふ。毘盧峰は中央連峰の最高峰にして高距1786米あり、之より北方に温井嶺(815)、萬物相(1240)、南に内霧在嶺(1303)、望軍臺(1529)、白馬峰(1497)及外霧在嶺(1385)等の峻峰がある。大正十三年七月下旬より八月中旬に亘り、二十餘日を費して予は友人栗末只雄、越智昌雄兩氏と此處に昆蟲採集旅行を試みた、其道順の大略は、元山より海路長箭に至り直に温井里(數泊、其間に九龍淵往復、萬物相往復)温井里より開殘嶺を登りて揄岾寺(數泊)、揄岾寺を出で隱仙臺を上下し、内霧在嶺を越へ摩訶衍(數泊)、摩訶衍より船庵、表訓寺、正陽寺等を經て長安寺泊(數泊、此間望軍臺往復)、更に長安寺より温井嶺を越へ温井里に歸つた、以上でざつと内外兩金剛を一週したことになる(海金剛にも行きしが昆蟲の採集ではない)。