- 著者
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岡芹 愛子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.54, pp.94-94, 2011
<BR>【目的】<BR> 日本において「赤ずきん」は特に親しまれている絵本の一つで、一般に1812年が初版のグリム兄弟の原作として知られている。しかし実際はそれ以前の1695年にフランス人のペローが執筆し2年後に出版した童話をもとに、ドイツでグリム兄弟が発表した作品とされている。ペローが童話を著した目的の一つは、子どもをしつけ望ましい発達を促すという教育的効果を意図したことであるといわれ、最後に大人・子ども向けの教訓が記されている。またフランス国内ではペロー原作の再話が多様なバリエーションの形で出版されている。<BR>「赤ずきん」は有名且つ単純明快な内容であるため、中学校・高等学校の家庭科における保育領域用教材として活用できると考えられる。そこで、初版以来300年以上の時代を経た現在、ペローのメッセージからどのような示唆を得られるか、時代の変遷につれ変化する社会背景、価値観、文化等を反映しながら再話に込められている教育的メッセージは何かを検討し、家庭教育の在り方を取り上げるための教材としての可能性について考えることを目的とする。<BR>【方法】<BR>ペローによる原文の童話及び2009年8月と2011年3月にパリ市内の書店で収集した絵本「赤ずきん」を検討した。計35冊中8冊は原作者がグリムとなっており、その他の8冊は原作者不詳であった。そのため残る19冊と原作の計20冊を対象とした。<BR>【結果・考察】<BR> 原作では、母親が主人公に森の先にある村に住む病気の祖母にパイとバターを一人で届けるという使いをさせる。途中で狼に出会い話しかけられるが、主人公は狼に気をつけなければいけないことを知らなかったため、言われた通りにしてしまう。その結果祖母とともに狼に食べられたところで本文は終了し、見知らぬ人間や狼とは口をきいてはいけない旨の教訓が続く。原作と同文の絵本は計10冊あったが、そのうち2冊は教訓がなく本文のみだった。<BR>再話は計9冊で、いずれも教訓は記載されていなかった。①結末に関し、祖母は全冊において狼に食べられるが、8冊は猟師または樵に助けられた。主人公は7冊において食べられるが、やはり全ての場合猟師または樵に助けられた。2冊では食べられずに済んだが、内1冊は祖母が食べられ助けられなかったことが強い衝撃となり、後に高齢者となった主人公は自分の孫に教訓として語り聞かせた。②主人公が祖母の家に行く事情は6冊が原作と同様で2冊は不明だが、内1冊は主人公が自らの意志で行くことになった。他の1冊は祖母が病気で孫に会いたがっているとウサギに知らされ、母親の反対を振り切り祖母の家へ向かう内容だった。③道草をしてはいけないと言われたものは2冊だった。狼に用心するよう躾を受けている内容は皆無で、1冊は主人公の方から狼に話しかけた。森には狼がいることを母親は知らないという内容が1冊あった。帰宅しない主人公を心配した両親が森へ捜しに行くという内容が1冊あった。主人公は二度と狼とは会話をしないと約束したもの、二度と道草はしないと約束したもの、その後一度も狼とは口を聞かなかったというもの、助けられた後再び森で狼に会ったが無視したというものがそれぞれ1冊ずつあった。このように再話では原作より子どもに恐怖を与えにくい結末になっており、教訓を削除し本文に暗示した分かりやすい内容構成にしている。<BR>子どもは大人の予期せぬ行動をとることが当然であり、幼児一人を誰の意志かを問わず人気の少ない場所を通り遠いところまで行かせるような使いに出すこと、通り道にどのような危険が潜んでいるかを確認せずに幼児を使いに出すこと、見知らぬ人間と話をしたり道草をしたりするような軽率な行動を禁じる躾の必要性等について生徒に考えさせる教材として適していると言える。幼児との触れ合い体験学習や子ども文化の授業で製作する教材の参考としても活用できると思われる。<BR>