- 著者
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岡野 安洋
- 出版者
- 学校法人 北里研究所 北里大学一般教育部
- 雑誌
- 北里大学一般教育紀要 (ISSN:13450166)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, pp.1-14, 2011-03-31 (Released:2017-09-29)
アルトゥール・シュニッツラーは17歳の1879年から、69歳で亡くなる1931年まで、およそ52年間にわたり、ほぼ毎日欠かすことなく日記をつけていた。その日記には、彼の音楽愛好家としての一面が色濃く滲み出ている。そこには、自分でピアノを弾いたり、あるいは演奏会に通ったりして、当時の音楽を愛するブルジョア知識人の典型的な姿が映し出されている。その中で、彼が最も愛した作曲家、グスタフ・マーラーに関する日記中の記述を年代順に追っていくことで、シュニッツラーがマーラーを愛した理由を、またどのようなマーラー像を描いていたかを考えてみたい。文学とは異なる、いわば趣味に属する分野への発言ではあるが、それは、シュニッツラーの作家として、あるいは人間としての一面を垣間見ることに繋がっていると思える。またそこには、真の芸術家同士が理解し合える、芸術家としての苦悩と、芸術に対する真摯な姿勢に対する深い共感が感じられ、シュニッツラーがマーラーに自分との「類似性」を見いだしていたことが理解できる。ここでは、シュニッツラーの日記中の音楽関連の記述を、まずは一番愛した作曲家マーラーから取り上げるが、今後は別な視点からそれを考察していくための第一歩としたい。