著者
岡野 武志
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.4, pp.145-149, 2011

生活者は,身近な事例に強い影響を受けて不安を感じ,将来を悲観的に予想しやすい.業績や財務基盤に不安を抱える企業にも,悲観的な傾向がみられる.業況を相対的に強気に見てきた大企業にも,金融危機以降の判断に変化がみられる.大企業の判断にも,身近な事例に基づく不安が投影されれば,人件費の削減や投資の抑制につながりやすい.収入が減少すれば生活者は支出を抑え,需要の減少がさらに企業業績を悪化させて,スパイラル的な経済規模の縮小が進みかねない.政府支出の増加分が,企業や家計に蓄積されれば,主体間・世代間に資金の偏在を生む結果につながる.偏在の是正には,生産と支出の増加による経済活性化が必要であり,国民の努力も重要になる.経済合理性のみを追求する社会の危うさは周知されつつあり,「貢献」という効用を得る機会の増加が望まれる.人を対象とする行動経済学は,さらに活躍の場を広げていくべきであろう.