著者
岩佐 奈々子
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
2019-03-25

2007年9月に国連で採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言 (The United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples) 」(以下UNDRIP)は、世界の先住民族の人々に、人権や権利の享受、生活の向上、慣習、文化、伝統、教育などに関する国際的な指針をもたらした。しかし、先住民族の多くが、先住民族社会の一員でありながら、同時に国民でもあるために、帰属する主流社会の歴史的、政治的、社会的な影響を受け続け、様々な困難な状況の中に置かれている。また、先住民族の人々が住む社会は、先住民族社会と主流社会という二つの社会が重なる二重性が存在し、不可視化されている。そのために、その関係性から生じる社会的な課題にも二重性が内包されており、たとえ課題解決が試みられたとしても、その解決方法は社会の制度下で模索されるために、その解決策や結果に主流社会の世界観や価値観が反映されてしまい、先住民族の世界観や価値観が置き去りにされ、根本的な解決につながらないことが多い。日本の先住民族であるアイヌ民族の人々の場合、海外の先住民族の人々と同様に社会的な二重性が存在し、その二重性が不可視化されている。本研究では、この社会的二重性から生じるアイヌの人々の心理的二重性の形成過程を考察し、アイヌの人々の心理的二重性からの解放につながる学習を、フレイレが示す課題提起教育の「意識化」を用いて新しい課題提起学習として考えることにする。その学習活動をシミュレーション&ゲーミングというゲーム学習で開発し、その学習実践から、新しい課題提起学習における学習機能とその意義についての検討を行う。