著者
岩田 泰幸 冨樫 和孝 岩田 朋文
出版者
埼玉県立自然の博物館
雑誌
埼玉県立自然の博物館研究報告 (ISSN:18818528)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.17-24, 2020 (Released:2020-06-07)

ミズスマシGyrinus japonicusは,環境省版レッドデータブック2014では絶滅危惧II類に,埼玉県レッドデータブック動物編2018(第4版)では絶滅危惧IA類に,2018山梨県レッドデータブックでは準絶滅危惧にそれぞれ選定されており,近年急激に減少している.本種について,埼玉県と山梨県の低山帯から山地帯で調査を行った.今回の調査により,ミズスマシの生息環境は以下の特徴を有することが明らかになった:1)河川の滞留域に形成されたD型およびR型の淵を主な生息地とすること,2)淵は主に周囲を樹林に囲まれた場所にあること,3)淵の水面は枝や水草でほとんど覆われないこと,4)水質は透明度が高く,貧栄養であること,5)同所では流水域に生息する種(例えば,オナガミズスマシOrectochilus regimbarti,モンキマメゲンゴロウPlatambus pictipennis,マルガムシHydrocassis lacustris,シマアメンボMetrocoris histrio),あるいは林に囲まれたような日当たりのよくない水域に生息する種(例えば,コセアカアメンボGerris gracilicornis,ヤスマツアメンボG. insularis,オオアメンボAquarius elongatus)がみられること.また,埼玉県のミズスマシの地域個体群は,2000~2010年頃には低山帯にある前述の特徴をもつ河川の淵などに孤立していたことが示唆された.これらの個体群は水量の減少といった河川環境の変化により絶滅したと考えられる.
著者
岩田 泰幸 岩田 朋文
出版者
埼玉県立自然の博物館
雑誌
埼玉県立自然の博物館研究報告 (ISSN:18818528)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.39-46, 2019 (Released:2019-06-14)

ヤマガタトビイロトビケラ幼虫について,埼玉県内の荒川水系(上流から中流)で調査を実施した.本種は本州中部の山地帯においては普通種であり,その幼虫は晩秋から初夏にかけて河川の淵で多数見つかることが知られる.本報告では,埼玉県内における本種の追加記録を公表し,県内の本種の生息環境を主に河川形態に基づいて記載した.本種の生息環境と多くの個体が見つかった場所の特徴は,次の4つとなる:1)河川形態は一蛇行区間に複数の瀬と淵をもつAa型である,2)階段状の淵(S型の淵)を有する,3)淵には落ち葉など枯死植物体が多く積もる,4)特に淵の縁部に多くの個体が見られる.その一方で,ヤマガタトビイロトビケラに近縁なNothopsyche sp. NAの幼虫は,前者とは異なり,中流域の主に河川形態がBb型のところにおいて,R型あるいはM型の淵に繁茂する抽水植物(ヨシなど)の流水で洗われた根際から多くの個体が得られた.