著者
堀口 繁昌 小幡 喜一
出版者
埼玉県立自然の博物館
雑誌
埼玉県立自然の博物館研究報告 (ISSN:18818528)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-10, 2022 (Released:2022-11-17)

埼玉県秩父盆地の中新統から初めて発見されたゴカクウミユリ類化石を報告する.本化石標本は秩父盆地南縁部の秩父市上影森,荒川右岸に露出した秩父盆地層群秩父町層上部の角礫質泥岩から産出し,茎部と茎部の一部及び腕の分岐軸の合計14点で,茎部は結合した巻枝を持っているものもある.茎部の直径は大きいものでほぼ10 mm,間節面は星形,花弁は披針形,節板(節間節)の巻枝ソケットはすべて5個,節間板は7枚(ときに8,9枚)等が観察できるが,種同定の決め手となる萼や腕部を欠くため,本標本すべてを ‟Isocrinus ?” sp. として報告する.‟Isocrinus ?” sp. の化石記録は,国内の広島県・北陸・群馬県の前期~中期中新世の外部浅海帯~中部漸深海帯から報告され,秩父町層の堆積環境も同様の深度であったと示唆される.
著者
岩田 泰幸 冨樫 和孝 岩田 朋文
出版者
埼玉県立自然の博物館
雑誌
埼玉県立自然の博物館研究報告 (ISSN:18818528)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.17-24, 2020 (Released:2020-06-07)

ミズスマシGyrinus japonicusは,環境省版レッドデータブック2014では絶滅危惧II類に,埼玉県レッドデータブック動物編2018(第4版)では絶滅危惧IA類に,2018山梨県レッドデータブックでは準絶滅危惧にそれぞれ選定されており,近年急激に減少している.本種について,埼玉県と山梨県の低山帯から山地帯で調査を行った.今回の調査により,ミズスマシの生息環境は以下の特徴を有することが明らかになった:1)河川の滞留域に形成されたD型およびR型の淵を主な生息地とすること,2)淵は主に周囲を樹林に囲まれた場所にあること,3)淵の水面は枝や水草でほとんど覆われないこと,4)水質は透明度が高く,貧栄養であること,5)同所では流水域に生息する種(例えば,オナガミズスマシOrectochilus regimbarti,モンキマメゲンゴロウPlatambus pictipennis,マルガムシHydrocassis lacustris,シマアメンボMetrocoris histrio),あるいは林に囲まれたような日当たりのよくない水域に生息する種(例えば,コセアカアメンボGerris gracilicornis,ヤスマツアメンボG. insularis,オオアメンボAquarius elongatus)がみられること.また,埼玉県のミズスマシの地域個体群は,2000~2010年頃には低山帯にある前述の特徴をもつ河川の淵などに孤立していたことが示唆された.これらの個体群は水量の減少といった河川環境の変化により絶滅したと考えられる.
著者
須田 大樹
出版者
埼玉県立自然の博物館
雑誌
埼玉県立自然の博物館研究報告 (ISSN:18818528)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.17-24, 2018 (Released:2019-06-14)

関東各地の博物館に所蔵されているナラガシワ標本の再検討を行うとともに,その主な自生地において生育立地・生育状況の調査を行い,関東地方のナラガシワの分布について改めて整理した.その結果,ナラガシワとされてきた標本の多くが他種あるいは他種間の雑種の誤同定であり,関東地方におけるナラガシワの分布は極めて少ないこと,また,ナラガシワの自生地は,沖積低地の河畔林や山地下部の沢沿いが中心であることが明らかとなった.縄文時代には関東平野に広く分布していたナラガシワであるが,現在は極めて隔離的な分布,残存林的な生育状況を示していることから,河川沿いに分布の中心をもつナラガシワが撹乱頻度の低下や開発の影響などにより減少し,現在は遺存的な分布となっていると考えられた.