著者
岩田 祐輔
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

今年度は神経培養の安定化とイブプロフェンを代表とする非ステロイド系抗炎症剤(アセトアミノフェン,サリチル酸誘導体等)の脳神経培養による虚血性壊死障害モデル(NMDA刺激,Kainic acid刺激)に対するメカニズムの解明と投与量の適正化を判定,また無血清化誘導アポトーシスに対する効果判定.準備実験によりイブプロフェンに関してはNMDA刺激,Kainic acid刺激による虚血障害に対して直接脳神経細胞保護効果はないがグリア細胞を介して強力に脳保護作用があることを再度確認し,効果がある非ステロイド系抗炎症剤を選定する予定であった.グリア細胞培養生後1-3日のmouseの頭から清潔に脳を取り出し,髄膜を剥離しDulbecco's Modified Eagle's Medium : DMEM(SIGMA)内で,大脳皮質を分離する.poly-D-lisineにてcoatingしたplateでDMEM,10%FBS(GIBCO),10%HS(GIBCO)のmediumを使用して培養は順調であるが,脳神経細胞混合培養妊娠13-15日のswiss-webstar mouse胎児の頭より脳を取り出し,DMEM,5%FBS,5%HSのmediumを使用して用意したconfluentのグリア細胞培養に散布し培養するもの,ニューロン培養ニューロン培養はグリア細胞の含有量が5%未満である.poly-D-lisine, Laminin(Invitrogen)でcoatingしたplateに,同様のmediumを使用してニューロンのみを培養し,グルタミン酸刺激過剰試験等に使用する予定であったが,培養が不安定で実験に即した正確なデータが得られるレベルに到達できずにおり.引き続き細胞培養の安定化に努めている原因としてはFBS,HSが考えられ変更し,改善しつつある.
著者
坂本 貴彦 黒澤 博身 岩田 祐輔 村田 明
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

以前におこなった研究結果(Miura T, Sakamoto T, et. al. JTCVS: 133:29-36,2007)を踏まえて、軽度低体温〜常温体外循環中の脳循環生理を把握し現在汎用されている体外循環法の脳組織に及ぼす影響に関してpreliminaryな慢性実験を施行した。【対象と方法】Yorkshire pig(生後4-5週目、N=6、8.4-14.0kg)を用い、気管内挿管下に実験を開始、近赤外線分光器(NIRS: NIRO300,浜松ホトニクス)を前額面に装着した。全身麻酔下に、右開胸にて心臓に到達し、大動脈送血、右房脱血にて体外循環を確立した。脳循環生理に大きな影響を及ぼすと考えられる潅流因子の中で、臨床上汎用されている軽度低体温下でのalpha-stat strategyの脳組織に及ぼす影響を中心に実験をすすめた。軽度低体温(34℃)体外循環を90分間、Hct値30%、alpha-stat管理下に施行した。実験終了後、体外循環から離脱しカニューレを抜去し閉創をおこない、その後循環呼吸管理をおこない、人工呼吸器からの離脱をはかった。一週間経過観察をおこない、その間に毎日、実験内容を知らされていない獣医による行動評価をおこなった。行動評価にはNeurological Deficit Score(NDS)およびOverall Performance Categories(OPC)を用い、また一週間目に動物を犠牲死せしめ脳組織の顕微鏡的観察をおこなった。病理組織的診断は実験内容を知らされていない病理医がおこない、細胞レベルの虚血の有無を点数化し実験のendpointとした。【結果】NIRSは特別異常な経過を示さなかった。NDS, OPCともに一週間正常値を示し、豚は外見上異常行動を認めなかった。しかしながら脳組織Neocortex, Hippocampusを中心に虚血性変化を認めた。【考察・結論】Hct30%、軽度低体温下の小児体外循環において、現在多くの施設で汎用されているalpha-statstrategyでは組織レベルの脳障害を惹起している可能性が示された。行動評価が正常範囲内であることから、臨床上問題とならない軽微なものである可能性が高いが、脳高次機能の点では疑問が残り、良好な脳循環を確保しやすいpH-stat strategyの導入がこれを解決することが期待される。今後、血液希釈の程度との相互作用についての慢性実験の重要性が示唆された。