著者
岸 邦和
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.199-203, 1985-06-30 (Released:2017-02-13)

フッ化ナトリウム(NaF)はむし歯予防を目的として, 水道水への添加剤あるいは歯への塗布剤などとして使用されることがある。従来NaFは, 実際に使用される濃度範囲(0.024-476mM)において, 副作用の少ない物質であると考えられていたが, 近年ヒト由来の培養細胞に染色体異常を誘発することが報告され, NaFに突然変異原性が認められるに到った。しかし, この検定で用いられた処理時間は12-24時間であり, フッ素塗布の現状を反映していないとの疑いもあった。そこで, NaFが, 短時間処理の際も染色体異常を誘発するか否かを検討する必要があると考え, 細胞周期各相に対するNaF短時間処理後の染色体異常頻度を検討した。その結果, NaFは細胞周期G_1期およびG_2期には染色体異常を誘発しないが, S期の細胞に対しては, 10mMでの1時間処理によっても異常を誘発することを認めた。