著者
堤之 達也 岸本 一宏 船見 孝博 浅井 以和夫
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-23, 2007

<p>咀嚼・嚥下困難者の水分あるいは栄養補給の目的で,多くのゲル状食品が販売されている.これらの食品には,適度な硬さで付着性が少なく,口腔内での食塊形成性に優れ,更に離水が少ないことが求められる.これらの要件を部分的に満たすゲル化剤としてゼラチンを挙げることができる.しかし,ゼラチンゲルの調製には長時間の冷蔵が必要であり,またできたゲルは25℃付近で融解するなど,介護者にとっての利便性は必ずしもよくない.</p><p>本研究では,ゼラチン類似の力学特性(物性)を有し,かつ広い温度域,長期保存においてその変化が少なく,更には保水性の高いゲル状食品の開発を目的とした.</p><p>ゲル化剤として,寒天,脱アシル型ジェランガム,サイリウムシードガム,およびゼラチンを用いた.ゲルの力学特性は動的粘弾性試験および貫入試験により評価した.また,ゲルの保水性を離水量から評価した.</p><p>寒天あるいは脱アシル型ジェランガムと,サイリウムシードガムの併用ゲルはゼラチン類似の力学特性を示し,更にゼラチンに比べて温度依存性が小さかった.また,これら併用ゲルは,保存により力学特性がほとんど変化せず,離水もほとんど発生しなかった.</p><p>一般的に寒天および脱アシル型ジェランガムのゲルは脆く,食塊形成能が低い.一方,サイリウムシードガムのゲルは弾力・付着性が強く,いずれも単独では咀噛・嚥下困難者にあまり好ましくない.本研究から,複数の素材の併用が,咀嚼・嚥下困難者に適した食感を創製する重要なアプローチであることが示された.</p>