著者
塚谷 才明 小林 沙織 平岡 恵子 田中 妙子 金原 寛子 南田 菜穂 山本 美穂 酒井 尚美
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.99-105, 2017-08-31 (Released:2020-04-19)
参考文献数
8
被引用文献数
2

【目的】嚥下障害の合併症の一つに窒息があるが,これまで院内発生例に関する報告は少ない.急性期病院における窒息事例を解析検討することで,今後のリスク管理に生かせる因子を明らかにする.【対象と方法】20xx 年4 月から3 年間,当院の入院患者で医療安全部にレベル3b 以上の窒息事例として報告があった例を診療録,看護記録より後方視的に検討した.対照群は同期間の入院患者で平均年齢,入院科を窒息群と合致させ,他は無作為に抽出した130 名とした.【結果】窒息事例は5 例,入院科は整形外科2 例,内科3 例であった.年齢分布は68 歳から94 歳,平均83.4 歳であった.窒息は既往症に嚥下機能低下をきたす可能性のある疾患を有し(5 例中4 例),入院前の食事摂取が自立していた患者(全例)で起こっていた.ADL(歩行,排泄,日常生活の自立度)は自立と介助の境界レベルの患者が多かった.窒息イベントは入院早期に起こり(入院後平均9.2 日),発生時の食事形態は常食もしくは軟菜であり,嚥下調整食で窒息した例はなかった.窒息群では5例中4例(80%)で利尿薬の内服があり,対照群での内服割合130 例中31 例(23.8%)より有意に高かった.この期間の65 歳以上に限定した入院患者数は11,381 名で,65 歳以上の入院患者が院内で窒息を起こす確率は0.04%,おおよそ2,500 人に1 人の割合であった.【結論】院内発生の窒息事例は経口摂取自立者で,既往に嚥下障害リスクを有し,常食もしくはそれに近い食形態の物を食べている,入院早期の高齢者患者に起こりやすい.
著者
小山 珠美 若林 秀隆 前田 圭介 篠原 健太 平山 康一 社本 博 百崎 良
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.14-25, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
26
被引用文献数
1

【目的】当院では,チーム医療による早期経口摂取開始に取り組んできた.誤嚥性肺炎患者に対する入院後早期の経口摂取開始が,在院日数と退院時経口摂取に及ぼす影響を検討した.【対象と方法】2014 年4 月から2018 年3 月までに誤嚥性肺炎で当院に入院した65 歳以上の380 名を対象とした.死亡者を除外した.年齢,性別,要介護度,入院前生活場所,入院時肺炎重症度分類(ADROP),入院後経口摂取開始までの日数,入院後2 日以内の経口摂取開始,リハビリテーションの有無,経口摂取開始後発熱,在院日数,退院時摂食嚥下レベル(FOIS),退院時経口摂取の有無,自宅退院の有無を診断群分類包括評価(DPC)データから後方視的に調査した.また,チーム医療無群とチーム医療有群に分類し,両群を比較したうえで,早期経口摂取による在院日数,退院時経口摂取への影響を検討した.統計解析は単変量解析としてカイ2 乗検定,t 検定,Mann-Whitney のU 検定,多変量解析として重回帰分析,ロジスティック回帰分析を行い,有意水準は5% 未満とした.【結果】対象者の年齢(平均値±標準偏差)は85.9±7.0 歳,経口摂取開始日(中央値)は3 日,在院日数(中央値)は21 日,退院時経口摂取は294 名(77%)であった.チーム医療有無群で比較すると,単変量解析では,入院時A-DROP, リハビリテーション介入,退院時FOIS, 退院時経口摂取,在院日数に有意差がみられた.多変量解析では,在院日数に有意に関連した因子は,要介護度(β =-0.215),入院前生活場所(β= 0.146),チーム医療(β=-0.151),入院後2日以内経口摂取開始(β=-0.134),リハビリテーション介入(β = 0.145),経口摂取開始後発熱(β = 0.202),退院時FOIS(β =-0.280),退院先(β = -0.184)であった.退院時経口摂取に有意に関連した因子は,年齢(オッズ比= 1.039),チーム医療(オッズ比= 3.196),入院後2 日以内の経口摂取開始(オッズ比= 4.095)であった.【考察】急性期医療でのチーム医療による早期経口摂取開始は,在院日数を短縮し,退院時経口摂取率を高める可能性が示唆された.
著者
大森 政美 長神 康雄 橋木 里実 川西 美輝 神代 美里 中川 英紀 力久 真梨子 加藤 達治
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.37-45, 2018-04-30 (Released:2019-03-07)
参考文献数
15

【目的】 摂食嚥下障害は,高齢者によく認められ誤嚥性肺炎を引き起こすといわれている. VFや VEは摂食嚥下障害の診断に最もよい検査法であるが,高齢者肺炎患者においては認知症や全身状態から必ずしも実施できない. The Mann Assessment of Swallowing Ability(MASA)は, 2002年にアメリカで開発された初発の脳卒中患者の摂食嚥下機能評価法である.この研究の目的は,高齢者肺炎患者に対する MASAの摂食嚥下機能評価法としての有用性の検討である.【対象と方法】 この研究は前向き研究であり, 2014年 12月から 2015年 6月までに入院した 153例の肺炎患者(平均年齢 85.4±9.9歳)を対象に,入院 3日以内に MASAを施行した.評価項目は,経口摂取の有無と 30日以内肺炎再発とした.【結果】 経口摂取群と非経口摂取群,肺炎再発なし群と肺炎再発群の平均 MASAスコアには有意な差を認めた(p< 0.001). ROC曲線を用いて AUCを計算したところ, MASAスコアと経口摂取・肺炎再発の AUCは 0.87・ 0.76であった.経口摂取,肺炎再発のカットオフ値は 113点と 139点であった.多変量解析では, MASAスコアは肺炎再発の独立した危険因子であった.【結論】 MASAは高齢者肺炎患者の摂食嚥下機能評価法として有用であった.
著者
小山 善哉 石飛 進吾 久松 徳子 松下 新子 山口 大樹 平田 あき子 山見 由美子 大井 久美子 林 善彦
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.243-252, 2012-12-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
15

【目的】 高齢者や頸部可動域に制限がある患者でも安全に実施しやすく,実際の食物嚥下動作に近似した口腔期・咽頭期の嚥下リハビリテーション手技として,われわれは栄養カテーテルチューブを用いた「蕎麦啜り様訓練」を考案し,表面筋電図を用い,嚥下リハビリとしての有効性を評価した.【方法】健常成人16 名(20~25 歳,平均年齢22.2 歳)を被験者とし,舌骨上筋群,舌骨下筋群,胸鎖乳突筋に双極電極を貼付し,① 空嚥下,② 開閉口,③ 頸部左右回旋,④ メンデルゾーン手技,⑤ シャキア訓練,⑥ 12 フレンチ(Fr)「蕎麦啜り様」チューブ吸い,⑦ 12Fr チューブ一気吸い,⑧ 8Fr「蕎麦啜り様」チューブ吸い,⑨ 8Fr チューブ一気吸いの各手技を実施させ,表面筋電位変化を記録した.得られた原波形は,平滑化時定数100 ms で二乗平均平方根(RMS)に整流化し,各被験者から得られた%MVC の平均値を,各筋群について,一元配置分散分析し,有意差が認められた場合はボンフェローニの補正による多重比較を行った.【結果】「蕎麦啜り様」チューブ吸いは,舌骨上筋群ではシャキア訓練に匹敵する高い%MVC を示し,舌骨下筋群ではメンデルゾーン手技より有意に大きく,シャキア訓練の値の2/3 に近い高い平均%MVC を示した.一方,胸鎖乳突筋では,空嚥下やメンデルゾーン手技と有意差なく,きわめて低い%MVC を示した. 【結論】チューブ吸い「蕎麦啜り様訓練」は,舌骨上下筋群に高い筋活動を認め,胸鎖乳突筋は低い筋活動しか認めず,頸椎症や高齢者など頸部運動に制限のある患者に対しても応用可能な,安全で簡便な口腔期および咽頭期の嚥下リハビリ手技として評価できる.
著者
髙橋 摩理 内海 明美 大岡 貴史 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.175-181, 2012-08-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
18

地域療育センターを利用し,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)と診断された小児338 名とその保護者を対象にアンケートを行い,偏食の実態を調査し,偏食に影響を与える要因の検討を行った.絶対食べない食材数と発達レベルとの関連が推察されたが,年齢との関連は明らかにすることができなかった.食べない食材は,年齢や発達レベルに大きな差はなく,「イカ・タコ」など食べにくい食材や野菜が多く,摂食機能との関連を検討する必要があると思われた.食べない食材数と感覚偏倚とでは,「触覚」「視覚」との関連が強く,保護者が食べない理由としてあげていた「食感」「見た目」と重なっていた.食材を加工し提供することは,「触覚」「視覚」への配慮となり,有効な対応法と思われた.食事場面だけでなく,生活全般を通して,発達レベルの向上や感覚偏倚の軽減を行うことが必要と推察された.
著者
渡邊 英美 床井 多恵 高田 耕平 松田 梨江 太田 紗彩 八十田 あかね 窪田 沙代 佐野 千春 栢下 淳 小切間 美保
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.215-221, 2021-12-31 (Released:2022-05-11)
参考文献数
9

【目的】嚥下調整食の提供が行われている病院や高齢者施設などで物性測定装置を設置している施設は少ないため,学会分類2013(食事)では物性値は表記されていない.そのため,嚥下調整食の形態の解釈は特にコード4 において,施設により異なっていることがある.今後,嚥下調整食分類の共通化をさらに進めるためには,物性測定装置がなくてもかたさを評価できる簡易的な方法が必要である.本研究では,棒と電子秤を用いた方法(秤法)および凸型キャップとペットボトルを用いた方法(PB 法)の2種類のかたさの簡易評価方法を検討した.【方法】加工食品および生鮮食品34 種類を試料とし,縦・横20 mm,高さ10 mm に切り分けた.試料温度は20±2℃とした.クリープメータRE2-3305C(山電)のステージに試料を置き,直径5 mm のプランジャーを用いて測定速度1 mm/ 秒で押し込み測定を実施し,歪率0~90% における最大値をかたさとした.秤法では,電子天秤の上にのせた試料を直径5 mm の棒で押し込み,貫通するまでに表示された最大重量を測定値とした.PB 法では,ペットボトルに凸部の直径5 mm のキャップを装着し,キャップを下にしたときの先端の圧力が100 kPa または200 kPa になるように水を入れた.試料の中央にのせたキャップの凸部がボトルの重さで貫通した場合をかたさ100 kPa 未満または200 kPa 未満と判定した.【結果】クリープメータによる測定の結果,試料のかたさは7~564 kPa であった.秤法で得られた値をかたさに対してプロットすると,秤法=かたさの直線に近く,Spearman の相関係数は0.956~0.969 と強い正の相関が認められた.PB 法では,100 kPa 未満,100 kPa 以上200 kPa 未満,200 kPa 以上の3 段階で判定を行うことができた.ただし,7 種類の試料でクリープメータ測定の結果と一致しなかった.【結論】秤法,PB 法ともに,コード4 の嚥下調整食に含まれる食材のかたさの簡易評価方法として,活用可能であることが示唆された.
著者
渡邊 裕 新井 伸征 青柳 陽一郎 加賀谷 斉 菊谷 武 小城 明子 柴本 勇 清水 充子 中山 剛志 西脇 恵子 野本 たかと 平岡 崇 深田 順子 古屋 純一 松尾 浩一郎 山本 五弥子 山本 敏之 花山 耕三
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.77-89, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
11

【目的】摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床および研究は,依然として未知の事柄が多く,根拠が確立されていない知見も多い.今後さらに摂食嚥下リハビリテーションの分野が発展していくためには,正しい手順を踏んだ研究が行われ,それから得られた知見を公開していく必要がある.本稿の目的は臨床家が正しい知見を導くために,研究報告に関するガイドラインを紹介し,論文作成とそれに必要な情報を収集するための資料を提供することとした.【方法】日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌に投稿される論文は症例報告,ケースコントロール研究,コホート研究,横断研究が多いことから,本稿では症例報告に関するCase report(CARE)ガイドラインと,The Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology Statement(STROBE 声明)において作成された,観察研究の報告において記載すべき項目のチェックリストについて紹介した.【結果】CAREガイドラインについては,症例報告の正確性,透明性,および有用性を高めるために作成された13 項目のチェックリストを説明した.STROBE 声明については研究報告の質向上のために作成された,観察研究の報告において記載すべき22 項目のチェックリストを解説した.【結論】紹介した2 つのガイドラインで推奨されている項目をすべて記載することは理想であるが,すべてを網羅することは困難である.しかしながら,これらのガイドラインに示された項目を念頭に日々の臨床に臨むことで,診療録が充実しガイドラインに沿った学会発表や論文発表を行うことに繋がり,個々の臨床家の資質が向上するだけでなく,摂食嚥下リハビリテーションに関する研究,臨床のさらなる発展に繋がっていくと思われる.本稿によって,より質の高い論文が数多く本誌に投稿され,摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床と研究が発展する一助となることに期待する.
著者
谷口 洋 藤島 一郎 大野 友久 高橋 博達 大野 綾 黒田 百合
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.249-256, 2006-12-31 (Released:2021-01-10)
参考文献数
10

【目的】ワレンベルグ症候群(WS)による嚥下障害はしばしば左右差を認める.本研究ではWSにおける食塊の下咽頭への送り込み側と食道入口部の通過側について検討した.【対象と方法】対象は嚥下造影検査(VF)を施行したWSの24症例で,24症例はVFを平均2.0回おこなっており,各検査を独立した47施行として後方視的に検討した.頸部正中位での嚥下を正面像で観察し,下咽頭(梨状窩のレベル)への食塊の送り込みを左右差なし,患側優位,健側優位に,食道入口部の通過を左右差なし,患側優位,健側優位,不通過に分類した.下咽頭へ患側優位に送り込まれた例では,健側に食塊を誘導する目的で健側を下に側臥位をとるか(一側嚥下)患側へ頸部回旋しての嚥下(嚥下前横向き嚥下)をおこない咽頭通過の改善を評価した.【結果】下咽頭への送り込み側は左右差なし15施行(32%),患側優位24施行(51%),健側優位8施行(17%)であった.食道入口部の通過側は左右差なし6施行(13%),患側優位9施行(19%),健側優位16施行(34%),不通過16施行(34%)であった.食塊が患側優位に下咽頭へ送り込まれた15施行に一側嚥下か嚥下前横向き嚥下をおこない,12施行(80%)で食塊が健側の下咽頭へ誘導されることで咽頭通過の改善をみとめた.【考察】従来の報告と同様に食道入口部の通過は健側優位が多かったが,下咽頭への送り込みは患側優位が多く対照的な結果となった.これまでWSにおける食塊の咽頭への送り込み側の報告はない.患側の下咽頭に送り込まれやすい機序として,健側の口蓋筋群がより強く収縮して食塊が患側に偏筒して口峡を通過することや,咽頭収縮筋が健側でより強く収縮して食塊が患側に送り込まれることが推察された.WSではこれらのことを考慮して体位調節により下咽頭への送り込みをコントロールすることが時に重要であると思われた.
著者
中村 達也 北 洋輔 藤本 淳平 甲斐 智子 稲田 穣 鮎澤 浩一 小沢 浩
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.205-213, 2018-12-31 (Released:2019-04-30)
参考文献数
32

【目的】本研究では,重症心身障害児者の咽頭期嚥下の特徴を,嚥下時舌骨運動を健常成人と比較することで明らかにすることを目的とした.【対象と方法】健常成人24名(健常群)と重症心身障害児者24名(障害群)について,嚥下造影検査(VF)を用いてペースト食品3~5 mLの嚥下を撮影し,30フレーム /秒で動画記録した.第二および第四頸椎を基準線とした座標面を設定し,VF動画をフレームごとに解析することで,舌骨の挙上開始時から最大挙上時までの前方・上方・総移動距離,移動軌跡,下顎 ―舌骨間距離を測定した.さらに,舌骨移動時間を各対象者について共通の時間単位に線形変換後,舌骨運動を挙上相と前進相の段階に分けた.そして,健常群の平均値95%信頼区間下限値を基準値とし,挙上相で基準値を下回った者を挙上相後退群,前進相で下回った者を前進相停滞群と群分けし,評価結果を一元配置分散分析で群間比較した.【結果および考察】挙上相後退群は12名,前進相停滞群は7名であった.分散分析および多重比較の結果,舌骨の前方移動距離は,健常群が挙上相後退群(p<0.01)および前進相停滞群(p<0.01)に比較して有意に大きかった.舌骨の上方移動距離は,挙上相後退群が健常群に比較して有意に大きかった(p<0.01).下顎 ―舌骨間距離は,挙上相後退群が健常群(p<0.01),前進相停滞群(p<0.05)に比較して有意に大きかった.この要因として,挙上相後退群は腹側舌骨上筋群の筋の延長による筋出力低下,前進相停滞群は舌骨下筋群の伸張性低下または低緊張による筋出力低下が考えられた.【結論】重症心身障害児者には,舌骨が主に上方に移動すべき時期に後方に牽引される群と,主に前方に移動すべき時期に移動距離が不足する群が存在した.
著者
西方 浩一 田村 文誉 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.32-42, 2001-06-30 (Released:2020-07-19)
参考文献数
28

本研究は,経口摂取準備期からの乳児期の目・手・口の協調運動の発達過程を明らかにする目的で,健康な乳児2名(女児2名)を対象に,被験玩具(棒大・小の木製玩具,立方体小のプラスティック玩具,立方体中・大の木製玩具)をしゃぶる様子をA児は出生後2か月から11か月まで,B児は出生後4か月から11か月までの間,約2週間から4週間ごとにデジタルビデオカメラにて撮影した.各被亡児の動作について,1)被験玩具のつかみ方,2)把握様式,3)視線の変化,4)被験玩具の入り方,5)頸部の代償運動,6)口腔の動き,について観察評価したところ,以下の結論を得た.1)リーチ機能の発達する前段階から手と口の協調運動が,また5,6か月頃より視覚的誘導のもと,手と口の協調運動が開始されることがうかがえた.自食準備期としての玩具しゃぶりは,離乳開始以前より始まり,離乳の後期頃には行われなくなる可能性が示唆された.2)リーチ,把握機能が未熟な乳児期の児に対して,玩具の把握形態は,立方体に比べ,棒状の形態のものの方が早期より把持が可能となり,その結果口腔へ運び込まれる可能性も高くなるのではないかと推察された.
著者
若杉 葉子 戸原 玄 中根 綾子 後藤 志乃 大内 ゆかり 三串 伸哉 竹内 周平 高島 真穂 都島 千明 千葉 由美 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.109-117, 2008-08-31 (Released:2021-01-22)
参考文献数
64

現在行われている多くのスクリーニングテストは誤嚥のスクリーニングテストであり,不顕性誤嚥(SA)をスクリーニングすることは難しいとされている.今回,我々はクエン酸の吸入による咳テストを用いたSAのスクリーニングの有用性について検討を行った.対象は何らかの摂食・嚥下障害が疑われた18歳から100歳までの患者204名 (男性131名,女性73名,平均年齢69.90±11.70歳).超音波ネブライザより1.0重量%クエン酸生理食塩水溶液を経口より吸入させ,1分間での咳の回数を数える.5回以上であれば陰性 (正常),4回以下であれば陽性 (SA疑い)と判定し,VFもしくはVEの結果を基準とし,SAのスクリーニングの感度,特異度,有効度,陽性反応的中度,陰性反応的中度を計算した.咳テストによるSAのスクリーニングの結果は,感度0.87,特異度0.89,有効度0.89,陽性反応的中度0.74,陰性反応的中度0.95であった.次いで主要な原疾患別に咳テストの有用性を検討した.脳血管障害患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.76,特異度0.82,有効度0.79,陽性反応的中度0.73,陰性反応的中度0.84であった.頭頚部腫瘍患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度1.00,特異度0.97,有効度0.98,陽性反応的中度0.93,陰性反応的中度1.00であった.神経筋疾患患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.83,特異度0.84,有効度0.84,陽性反応的中度0.56,陰性反応的中度0.95であった.呼吸器疾患患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.67,特異度0.81,有効度0.76,陽性反応的中度0.67,陰性反応的中度0.81であった.気管切開のある患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.71,特異度1.00,有効度0.78,陽性反応的中度1.00,陰性反応的中度0.50であった.認知症患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度1.00,特異度1.00,有効度1.00,陽性反応的中度1.00,陰性反応的中度1.00であった.以上より,クエン酸吸入による咳テストはSAのスクリーニングに疾患によらず有用であると考えられた.
著者
渡邊 英美 床井 多恵 辻 秀治 志藤 良子 若林 悠 阿部 杏佳 石井 真帆 三原 彩 栢下 淳 小切間 美保
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.130-142, 2020-08-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
10

【目的】日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類2013)によって,病院や高齢者施設における嚥下調整食の段階の共通化が進んでいる.しかしながら,食事形態の説明が文言のみで物性値が示されていないため,特にコード3 や4 で人によって解釈が異なることがある.嚥下調整食分類をさらに発展させるためには,不均質な食品の物性測定方法の確立が必要である.本研究では,コード4 に基づいて調理された嚥下調整食のかたさを測定し,その目安を示すことを試みた.【方法】京都市内の介護老人保健施設の27 日間の昼食で提供した軟菜食(学会分類2013 コード外)の主菜および副菜中の199 食材とやわらか食(コード4 相当)の主菜および副菜中の156 食材を試料とした.施設で提供した嚥下調整食は,言語聴覚士,管理栄養士および調理師が学会分類2013 のコードに適応しているか否かを検討して提供可能と判断したものであった.やわらか食の喫食者は主に咀嚼機能が低下した利用者であった.使用食材を嚥下調整食の中から取り出してクリープメータRE2-3305C(山電)の試料台に置き,直径5 mm のプランジャーを用いて測定速度1 mm/s,試料温度20℃で破断測定を実施した.歪率0~90% における最大値をかたさとした.1 食材につき5 サンプルを測定して平均値を算出した.【結果】やわらか食では156食材のうち150食材(96%)でかたさは200 kPa 未満であったのに対して,軟菜食は199食材中81食材(40%)のかたさが200 kPa 以上であった.本研究のかたさ測定方法により,やわらか食と軟菜食のかたさの違いを評価できた.比較のために測定したユニバーサルデザインフードの歯ぐきでつぶせる(コード4 相当)に区分される商品に含まれる食材のうち,にんじんやじゃがいものかたさは200 kPa 未満であったが,しいたけや肉類は200 kPa 以上となった.【結論】この物性測定方法はコード4 に相当する嚥下調整食の新たなかたさ評価方法となる可能性が示唆された.
著者
田上 裕記 太田 清人 小久保 晃 南谷 さつき 金田 嘉清
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.207-213, 2008-12-31 (Released:2021-01-23)
参考文献数
27

姿勢の変化が嚥下機能に及ぼす影響について検討した.対象は,健常成人21名(平均年齢:30.6±9.7歳)とした.研究の説明を十分に行い,同意を得た上で検査を行った.方法は,背もたれのない坐位をとり,頚部は制限せず自由とし,4つの姿勢条件を設定した.①姿勢(a):股屈曲90度,膝屈曲90度, ②姿勢(b):股屈曲135度,膝屈曲90度,③姿勢(c):股屈曲90度,膝屈曲0度(長坐位),④姿勢(d):両下肢挙上位,以上の姿勢条件にて,嚥下造影検査(以下,VF検査)および反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)を行った.VF検査は,70%希釈バリウム液15ml を各姿勢にて,合図とともに随意嚥下させ,咽頭通過時間をLogemannの測定法に準じ測定した.同様の姿勢条件にてRSSTを施行し,触診法にて嚥下回数を測定した.尚,統計処理は,一元配置分散分析,Tukeyの多重比較検定にて検討した.結果は,VF検査,RSSTのいずれも一元配置分散分析において有意差が認められた (p<0.05).各群間の比較ではVF検査についてみると,姿勢(a)の咽頭通過時間は,姿勢(b)の咽頭通過時間と比較し有意な差はみられなかったものの,姿勢(c)(p<0.05)および姿勢(d)(p<0.01)の咽頭通過時間と比較し,それぞれ有意に低値を示した.また,姿勢(b)の咽頭通過時間は,姿勢(c)の咽頭通過時間と比較し有意な低値を示した (p<0.05).RSSTは,VF検査とほぼ同様の結果が得られた.摂食・嚥下障害に対し,下肢の肢位に関する報告は少ない.嚥下運動は,筋収縮を伴う一連の全身運動であり,頚・体幹・下肢のポジショニングによって嚥下に関与する筋の効率が変化する.以上の結果より,下肢を含めた姿勢の変化が嚥下機能に影響を及ぼしたことが推測された.頚部・体幹・四肢の相互関係を考慮した姿勢設定の重要性が示唆された.
著者
吉田 剛 内山 靖 熊谷 真由子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.143-150, 2003-12-30 (Released:2020-08-21)
参考文献数
16

目的:嚥下時の喉頭運動が片麻痺や異常姿勢による頸部周囲筋の筋緊張異常により二次的にも阻害されうることに注目し,喉頭位置と喉頭挙上筋の筋力に関する臨床的指標を開発した.本研究の目的はこれらの指標の信頼性を検証し,臨床導入の可能性を模索するために,健常人の加齢・性差による影響を含めた基礎資料の獲得と,慢性期脳血管障害 (CVD) 患者との比較から開発した指標の臨床的有用性を明らかにすることである. 方法:対象は健常者,高齢者,CVD患者の109名であった.そのうち,検者内および検者間信頼性の検証は,嚥下障害のあるCVD患者10名を対象とし,加齢変化と性差の影響の検証は,健常若年者群30名と,高齢者群17名,CVDの有無については,高齢者群17名と慢性期CVD嚥下障害なし群20名,嚥下障害の有無については,慢性期CVD嚥下障害なし群20名とあり群32名を対象として各2群間を比較した.測定項目は,相対的喉頭位置を求める指標として,頸部最大伸展位でオトガイから甲状軟骨上端間距離GT,甲状軟骨上端から胸骨上端間距離TS,この2つの指標からGT/(GT+TS)を算出することによる相対的喉頭位置 (以下,喉頭位置) とし,喉頭挙上筋の筋力は頭部最大屈曲位での保持能力を頭部落下程度で4段階に分けるGSグレードとした. 結果および考察:検者内信頼性ICC (1,1) は,GT=0.943,TS=0.837,GSグレードは100%の一致率であった.検者間信頼性ICC (2,1) は,GT=0.905,TS=0.926,GSグレード=0.943であり,測定の信頼性は高かった.健常若年者群では,GT=6.4±0.9cm,TS=12.2±1.0cm,喉頭位置=0.34±0.04,高齢者群では,GT=6.6±1.0cm,TS=9.5±1.1cm,喉頭位置=0.41±0.05であった.以上より,加齢によりTSが短縮することで喉頭位置が下降することが明らかとなった.性差については健常若年者群でGTのみ有意差がみられた.また,CVDの有無による有意差はみられなかったが,嚥下障害の有無では,慢性期CVDにおいてTS,喉頭位置,GSグレードに有意差が認められ,本指標の臨床的有用性が示唆された.
著者
大熊 るり 藤島 一郎 武原 格 水口 文 小島 千枝子 柴本 勇 北條 京子 新居 素子 前田 広士 宮野 佐年
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.21-27, 1999-12-30 (Released:2019-06-06)
参考文献数
15

【目的】梨状窩の形状に個人差があることに注目し,誤嚥との関連について,内視鏡的嚥下検査(VE)および嚥下造影(VF)所見を用いて検討した.【対象・方法】1997年4月~98年3月の1年間にVFおよびVEを行った患者82名のうち,VFにて明らかな嚥下反射の遅延または造影剤の著明な梨状窩への残留を認めた31名(球麻痺14名,仮性球麻痺17名)を対象とした.内視鏡を経鼻的に挿入して梨状窩を観察し,録画したものを計測した.咽頭後壁正中部から梨状窩の外側端までの距離が最大となる距離を長径,長径と直交する形で梨状窩の内側縁と外側縁の間隔が最大となる距離を短径とし,短径/長径の値を求めた.この値が大きいほど梨状窩の幅が広いことを示し,小さいほど幅が狭いことを示す.【結果】披裂喉頭蓋皺襞の腫脹が著明な症例が6名あり,これらは最も梨状窩の幅が狭い症例とも考えられたが,計測困難なため比較の対象からは除外した.また梨状窩の形状に左右差が認められる症例が9名あった.短径/長径の値について,VF所見上の誤嚥あり群(14名)と誤嚥なし群(11名)とで比較した.左右差のある場合は値の大きい側を用いて比較すると,誤嚥あり群では平均0.296,なし群では0.370と,誤嚥なし群で有意に値が大きかった(p<0.05).すなわち,誤嚥のない症例は誤嚥のある症例と比べて梨状窩の幅が広いと考えられた.【考察】梨状窩の幅が広いと,嚥下反射の遅れや嚥下後の咽頭残留があっても,梨状窩に食塊が貯留できるスペースがあるため,気道への流入を防ぐのに有利と思われた.梨状窩の形状に個人差がある原因として,一つには生来の個体差が挙げられるが,咽喉頭粘膜,特に披裂部の腫脹が大きく影響していると思われた.内視鏡で梨状窩の形状を観察することは,誤嚥の危険性を予測する上で有用であると考えられた.
著者
福岡 達之 杉田 由美 川阪 尚子 吉川 直子 野﨑 園子 寺山 修史 福田 能啓 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.174-182, 2011-08-31 (Released:2020-06-25)
参考文献数
35

【目的】本研究の目的は,舌骨上筋群に対する筋力強化の方法として,呼気抵抗負荷トレーニング(expiratory muscle strength training: EMST)の有用性を検討することである.【対象と方法】対象は,健常成人15 名(男性10 名,女性5 名,平均年齢29.3±4.6 歳)とした.方法は,EMST とMendelsohn 手技,頭部挙上を行ったときの舌骨上筋群筋活動を表面筋電図で測定した.EMST は,最大呼気口腔内圧(PEmax)の25% と75% の負荷圧に設定し,最大吸気位から強制呼気を行う動作とした.各トレーニング動作で得られた筋電信号について,1 秒間のroot mean square(RMS)とWavelet 周波数解析を用いてmean power frequency(MPF)を算出し,それぞれトレーニング間で比較検討した.【結果】舌骨上筋群筋活動(% RMS)は,EMST の75% PEmax が最も高く(208.5±106.0%),25% PEmax(155.4±74.3%),Mendelsohn 手技(88.8±57.4%),頭部挙上(100% として正規化)と比較し有意差を認めた.また,Wavelet 周波数解析から,EMST 時には他のトレーニング動作と比較し,高周波帯領域に持続する高いパワー成分が観察された.MPF は,EMST の75% PEmax が最も高く(127.8±20.7 Hz),25% PEmax(107.6±20.1 Hz),頭部挙上(100.4±19.3 Hz)と比較して有意差を認めた.【結論】EMST は,舌骨上筋群の運動単位動員とtype Ⅱ線維の活動量を増加させる可能性があり,筋力強化として有効なトレーニング方法になることが示唆された.
著者
武内 和弘 小澤 由嗣 長谷川 純 津田 哲也 狩野 智一 上田 麻美 豊田 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.165-174, 2012-08-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本邦初の医療機器承認を取得した「舌圧測定器(TPM-01,JMS 社,広島)」を用いて,舌機能の定量的評価法としての舌圧測定の有用性について検証した.対象は,脳血管障害または神経筋疾患に由来する嚥下障害または構音障害を有する患者(障害群)115名で,それらの障害を有しない患者29 名を対照群とした.調査は,舌圧測定と同時に,基礎疾患名,嚥下障害と構音障害の有無,反復唾液嚥下テスト(RSST),会話明瞭度などについて実施した.舌圧は,前舌による最大押し付け力(最大舌圧)を3 回測定し,その平均値を舌圧値とした.また,舌圧測定の有用性の検証を目的として,舌圧測定値の再現性と,従来の口腔・構音・嚥下機能評価項目との関連について調査した.本器によって測定した舌圧値の信頼性(安定性)は,障害群と対照群の舌圧値の標準偏差(障害群平均2.8 kPa,対照群平均2.2 kPa)が先行研究の結果(平均3.1 kPa)と同等であることから推定した.また,舌圧値と従来の手法による評価法との関連性について,以下の知見を得た.障害群は,対照群よりも有意に低い舌圧値を示した.嚥下障害グレードが中等症(Gr 4~6)および軽症(Gr 7~9)の患者は,正常群(Gr 10)および対照群の患者より舌圧値が有意に低かった.また,準備期および口腔期に嚥下障害を有する患者の舌圧値は,対照群よりも有意に低値であった.RSST 2 回以下の患者の舌圧値は,RSST 3回以上の患者および対照群の舌圧値よりも有意に低かった.以上より,開発したJMS 舌圧測定器を用いて測定した舌圧値は,① 良好な再現性を示し,本器は,② 臨床上問題なく使用できることが明らかとなった.さらに,③ 測定した舌圧値と従来の機能評価との関連性も指摘できた.すなわち,舌圧の測定が,従来の定性的評価を主体とする機能評価に,客観的で定量的な指標を与え,例えば嚥下障害等の評価において,本舌圧測定器が臨床上有用な測定ツールとなることが示唆された.
著者
杉浦 淳子 藤本 保志 安藤 篤 下田 伊津子 中島 務
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.69-74, 2008-04-30 (Released:2021-01-22)
参考文献数
13

頭頸部腫瘍術後患者で,Shaker法やMendelsohn法などの喉頭挙上訓練が実施困難であった例に対し,座位で徒手的に抵抗負荷をかける筋力増強訓練を考案し,嚥下機能の改善を得られたので報告する.症例は頸部食道癌の62歳女性および甲状腺癌の56歳女性,根治術施行後,著明な気息性嗄声,頸部筋群の筋力低下および喉頭の可動域制限があり,仰臥位での頭部挙上は不可能であった.嚥下造影検査で喉頭挙上不良,挙上期型誤嚥,クリアランス低下を認めた.嚥下機能の改善と安全かつ効率的な経口摂取を目的に,間接訓練として頸部筋群の可動域拡大訓練,椅子座位での等張性および等尺性筋力増強訓練,リクライニング位での頭部挙上訓練,pushing exercise,直接訓練として代償嚥下法指導(super-supraglottic swallow,顎引き chin-down等)を実施した.この結果,両症例ともに気息性嗄声と声の持続がわずかながらも改善,訓練開始後28~53日で全量経口摂取可能となり,訓練後の嚥下造影検査では両症例ともに舌骨変位量の増加を認め,症例1は誤嚥がなくなったが症例2は若干の誤嚥が残存した.いずれの症例も頸部の筋力低下による喉頭挙上不良に声門閉鎖不全が合併したために気道防御がより重篤に障害された例だったが,積極的な筋力増強訓練を行った結果,頸部筋群の筋力増加と喉頭の可動性に改善を得て経口摂取可能となった.このことより,頭頸部腫瘍術後の筋力低下などによってShaker法など自動的な頭部挙上訓練が実施困難な喉頭挙上不良嚥下障害例に対しては,他動的な徒手的抵抗負荷をかけた筋力増強訓練が有効と考えられた.
著者
福岡 達之 杉田 由美 川阪 尚子 吉川 直子 新井 秀宜 巨島 文子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.155-161, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
参考文献数
17

症例は41 歳女性,Foix-Chavany-Marie 症候群(FCMS)の患者である.両側顔面下部,舌,咽頭,咀嚼筋に重度の随意運動障害を認め,構音不能と嚥下障害を呈した.罹患筋の随意運動はわずかな開口以外不可能であったが,笑いや欠伸などの情動・自動運動は保持されており,automatic voluntary dissociation がみられた.嚥下造影は30 度リクライニング位,奥舌に食物を挿入する条件下で実施したが,咽頭への有効な送り込み運動はみられず重度の口腔期障害を認めた.顔面,下顎,舌に対して他動的な運動療法を実施するも,罹患筋の随意運動は改善しなかった.本例では咀嚼の随意運動も不可能であったが,非意図的な場面では下顎と舌による咀嚼運動が生じ,唾液を嚥下するのが観察されていた.そこで,この保持された咀嚼の自動運動を咽頭への送り込み方法として利用できると考え,咀嚼の感覚入力と咀嚼運動を誘発する訓練を試みた.咀嚼運動を誘発させる方法としては,食物をのせたスプーンで下顎臼歯部を圧迫する機械刺激が有効であり,刺激直後に下顎と舌のリズミカルな上下運動が生じて咽頭への送り込みが可能であった.この刺激方法を用いて直接訓練を継続した結果,咀嚼運動による送り込みと45 度リクライニング位を組み合わせることで,ペースト食の経口摂取が可能となった.本例で嚥下機能が改善した機序として,咀嚼運動を誘発させる直接訓練の継続が,咀嚼運動の入力に対する閾値低下と咀嚼のCPG 活性化につながり,咀嚼運動による送り込みの改善に寄与したものと考えた.FCMS では,発声発語器官の諸筋群に生じる重度の随意運動障害により,準備・口腔期の嚥下障害を呈するが,訓練経過の報告は少なく,訓練方法を考えるうえで貴重な症例と思われ報告した.
著者
宮上 光祐 星 達也 福岡 宏之 戸原 玄 阿部 仁子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.8-18, 2019-04-30 (Released:2019-08-31)
参考文献数
28

【目的】脳血管障害はしばしば嚥下障害を合併し誤嚥性肺炎を発生するが,その頻度については脳卒中の急性期に多く,回復期リハビリテーション病院入院中の経管栄養例の報告は少ない.誤嚥性肺炎の発症要因についても,いまだ十分解明されていない.今回,これらの発生率と発生要因を明らかにすることを目的とした.【方法】発症後1~2 カ月後に回復期リハビリテーション病院に入院した経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例を対象として,誤嚥性肺炎の発生率と発症要因を検討した.誤嚥性肺炎発症群と非発症群の2群について,発生要因として年齢,性別,発生部位,嚥下障害の重症度,栄養状態のalbumin (Alb),total protein (TP),body mass index (BMI),入院時のFIM, VF・VE 施行との関連性について検討した.【結果】経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例中22 例(13.9%)に誤嚥性肺炎を認めた.肺炎発症群と非発症群の群間比較では,重症の嚥下障害,発生部位 (脳幹・小脳),男性,認知FIM 利得で有意差を認めた (p<0.05).栄養状態 (BMI, TP, Alb),意識障害,回復期入院前の肺炎や合併症,入院時FIM では両群間に有意差を認めなかった.肺炎発症の有無を目的変数,各発生要因を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った結果では,肺炎発症の要因として,重症の嚥下障害のdysphagia severity scale (DSS) 1 (OR [odds ratio] 8.747, p=0.001),発生部位の脳幹・小脳 (OR 4.859, p=0.01),男性 (OR 5.681,p=0.006),年齢 (OR 0.941, p=0.043) が要因として抽出された.【結論】回復期脳血管障害経管栄養例の13.9%に誤嚥性肺炎を発症した.肺炎発症の要因として,脳幹・小脳病変,重症の嚥下障害,男性,高齢者が重要であった.