著者
塚谷 才明 小林 沙織 平岡 恵子 田中 妙子 金原 寛子 南田 菜穂 山本 美穂 酒井 尚美
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.99-105, 2017-08-31 (Released:2020-04-19)
参考文献数
8
被引用文献数
2

【目的】嚥下障害の合併症の一つに窒息があるが,これまで院内発生例に関する報告は少ない.急性期病院における窒息事例を解析検討することで,今後のリスク管理に生かせる因子を明らかにする.【対象と方法】20xx 年4 月から3 年間,当院の入院患者で医療安全部にレベル3b 以上の窒息事例として報告があった例を診療録,看護記録より後方視的に検討した.対照群は同期間の入院患者で平均年齢,入院科を窒息群と合致させ,他は無作為に抽出した130 名とした.【結果】窒息事例は5 例,入院科は整形外科2 例,内科3 例であった.年齢分布は68 歳から94 歳,平均83.4 歳であった.窒息は既往症に嚥下機能低下をきたす可能性のある疾患を有し(5 例中4 例),入院前の食事摂取が自立していた患者(全例)で起こっていた.ADL(歩行,排泄,日常生活の自立度)は自立と介助の境界レベルの患者が多かった.窒息イベントは入院早期に起こり(入院後平均9.2 日),発生時の食事形態は常食もしくは軟菜であり,嚥下調整食で窒息した例はなかった.窒息群では5例中4例(80%)で利尿薬の内服があり,対照群での内服割合130 例中31 例(23.8%)より有意に高かった.この期間の65 歳以上に限定した入院患者数は11,381 名で,65 歳以上の入院患者が院内で窒息を起こす確率は0.04%,おおよそ2,500 人に1 人の割合であった.【結論】院内発生の窒息事例は経口摂取自立者で,既往に嚥下障害リスクを有し,常食もしくはそれに近い食形態の物を食べている,入院早期の高齢者患者に起こりやすい.
著者
小山 珠美 若林 秀隆 前田 圭介 篠原 健太 平山 康一 社本 博 百崎 良
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.14-25, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
26
被引用文献数
1

【目的】当院では,チーム医療による早期経口摂取開始に取り組んできた.誤嚥性肺炎患者に対する入院後早期の経口摂取開始が,在院日数と退院時経口摂取に及ぼす影響を検討した.【対象と方法】2014 年4 月から2018 年3 月までに誤嚥性肺炎で当院に入院した65 歳以上の380 名を対象とした.死亡者を除外した.年齢,性別,要介護度,入院前生活場所,入院時肺炎重症度分類(ADROP),入院後経口摂取開始までの日数,入院後2 日以内の経口摂取開始,リハビリテーションの有無,経口摂取開始後発熱,在院日数,退院時摂食嚥下レベル(FOIS),退院時経口摂取の有無,自宅退院の有無を診断群分類包括評価(DPC)データから後方視的に調査した.また,チーム医療無群とチーム医療有群に分類し,両群を比較したうえで,早期経口摂取による在院日数,退院時経口摂取への影響を検討した.統計解析は単変量解析としてカイ2 乗検定,t 検定,Mann-Whitney のU 検定,多変量解析として重回帰分析,ロジスティック回帰分析を行い,有意水準は5% 未満とした.【結果】対象者の年齢(平均値±標準偏差)は85.9±7.0 歳,経口摂取開始日(中央値)は3 日,在院日数(中央値)は21 日,退院時経口摂取は294 名(77%)であった.チーム医療有無群で比較すると,単変量解析では,入院時A-DROP, リハビリテーション介入,退院時FOIS, 退院時経口摂取,在院日数に有意差がみられた.多変量解析では,在院日数に有意に関連した因子は,要介護度(β =-0.215),入院前生活場所(β= 0.146),チーム医療(β=-0.151),入院後2日以内経口摂取開始(β=-0.134),リハビリテーション介入(β = 0.145),経口摂取開始後発熱(β = 0.202),退院時FOIS(β =-0.280),退院先(β = -0.184)であった.退院時経口摂取に有意に関連した因子は,年齢(オッズ比= 1.039),チーム医療(オッズ比= 3.196),入院後2 日以内の経口摂取開始(オッズ比= 4.095)であった.【考察】急性期医療でのチーム医療による早期経口摂取開始は,在院日数を短縮し,退院時経口摂取率を高める可能性が示唆された.
著者
大森 政美 長神 康雄 橋木 里実 川西 美輝 神代 美里 中川 英紀 力久 真梨子 加藤 達治
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.37-45, 2018-04-30 (Released:2019-03-07)
参考文献数
15

【目的】 摂食嚥下障害は,高齢者によく認められ誤嚥性肺炎を引き起こすといわれている. VFや VEは摂食嚥下障害の診断に最もよい検査法であるが,高齢者肺炎患者においては認知症や全身状態から必ずしも実施できない. The Mann Assessment of Swallowing Ability(MASA)は, 2002年にアメリカで開発された初発の脳卒中患者の摂食嚥下機能評価法である.この研究の目的は,高齢者肺炎患者に対する MASAの摂食嚥下機能評価法としての有用性の検討である.【対象と方法】 この研究は前向き研究であり, 2014年 12月から 2015年 6月までに入院した 153例の肺炎患者(平均年齢 85.4±9.9歳)を対象に,入院 3日以内に MASAを施行した.評価項目は,経口摂取の有無と 30日以内肺炎再発とした.【結果】 経口摂取群と非経口摂取群,肺炎再発なし群と肺炎再発群の平均 MASAスコアには有意な差を認めた(p< 0.001). ROC曲線を用いて AUCを計算したところ, MASAスコアと経口摂取・肺炎再発の AUCは 0.87・ 0.76であった.経口摂取,肺炎再発のカットオフ値は 113点と 139点であった.多変量解析では, MASAスコアは肺炎再発の独立した危険因子であった.【結論】 MASAは高齢者肺炎患者の摂食嚥下機能評価法として有用であった.
著者
松原 慶吾 水本 豪 古賀 和美 池嵜 寛人 平江 満充帆 兒玉 成博 畑添 涼 小薗 真知子 元田 真一
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.53-60, 2023-04-30 (Released:2023-09-10)
参考文献数
25

【目的】健常高齢者における摂食嚥下機能のフレイルは老人性嚥下機能低下(以下,老嚥)と呼ばれる.摂食嚥下器官の加齢変化には性差があることから,老嚥の特徴は男女間で異なることが予想される.本研究では,地域在住高齢者を対象に,老嚥が疑われる高齢者と嚥下機能が良好な高齢者の症状およびサルコペニア・嚥下関連筋のサルコペニア・口腔機能・栄養状態の比較を行い,老嚥の特徴を男女別に検討した. 【方法】地域に在住する高齢者64 例を対象とした.摂食嚥下機能の評価にはEating Assessment Tool-10(以下,EAT-10)を用い,嚥下機能良好群と老嚥が疑われた老嚥群に分けた.サルコペニアの評価には,骨格筋指数,握力,最大歩行速度を測定し,嚥下関連筋のサルコペニアの評価には,オトガイ舌骨筋の筋量,最大舌圧を測定した.さらに,口腔機能は基本チェックリストを用い,栄養状態はMNA®-SF を用いて調査した.男女別に2 群間のサルコペニア,嚥下関連筋のサルコペニア,口腔機能,栄養状態について比較検討した. 【結果】解析対象は,61 例(78.6±7.3 歳,男性16 例,女性45 例)とし,高齢者の23.0% に老嚥が疑われた.男性老嚥群は嚥下機能良好群と比べて,EAT-10の「食べる時に咳が出る」で有意差を認め,低骨格筋量と低舌圧の有無の割合,最大歩行速度,オトガイ舌骨筋の筋量に有意差を認めた.女性老嚥群は嚥下機能良好群と比べて,EAT-10の「飲み込みの問題が原因で体重が減少した」,「食べる時に咳が出る」の2 つの質問項目で有意差を認めた.また,口腔機能,口腔乾燥,MNA®-SF の体重減少で有意差を認めた. 【結論】高齢者の23.0%に老嚥が疑われた.老嚥の疑われる高齢者にみられる症状は男女ともに「食事中の咳の増加」であった.しかし,それを引き起こしている摂食嚥下機能の低下の機序は男女間で異なる可能性が示唆された.
著者
小山 善哉 石飛 進吾 久松 徳子 松下 新子 山口 大樹 平田 あき子 山見 由美子 大井 久美子 林 善彦
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.243-252, 2012-12-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
15

【目的】 高齢者や頸部可動域に制限がある患者でも安全に実施しやすく,実際の食物嚥下動作に近似した口腔期・咽頭期の嚥下リハビリテーション手技として,われわれは栄養カテーテルチューブを用いた「蕎麦啜り様訓練」を考案し,表面筋電図を用い,嚥下リハビリとしての有効性を評価した.【方法】健常成人16 名(20~25 歳,平均年齢22.2 歳)を被験者とし,舌骨上筋群,舌骨下筋群,胸鎖乳突筋に双極電極を貼付し,① 空嚥下,② 開閉口,③ 頸部左右回旋,④ メンデルゾーン手技,⑤ シャキア訓練,⑥ 12 フレンチ(Fr)「蕎麦啜り様」チューブ吸い,⑦ 12Fr チューブ一気吸い,⑧ 8Fr「蕎麦啜り様」チューブ吸い,⑨ 8Fr チューブ一気吸いの各手技を実施させ,表面筋電位変化を記録した.得られた原波形は,平滑化時定数100 ms で二乗平均平方根(RMS)に整流化し,各被験者から得られた%MVC の平均値を,各筋群について,一元配置分散分析し,有意差が認められた場合はボンフェローニの補正による多重比較を行った.【結果】「蕎麦啜り様」チューブ吸いは,舌骨上筋群ではシャキア訓練に匹敵する高い%MVC を示し,舌骨下筋群ではメンデルゾーン手技より有意に大きく,シャキア訓練の値の2/3 に近い高い平均%MVC を示した.一方,胸鎖乳突筋では,空嚥下やメンデルゾーン手技と有意差なく,きわめて低い%MVC を示した. 【結論】チューブ吸い「蕎麦啜り様訓練」は,舌骨上下筋群に高い筋活動を認め,胸鎖乳突筋は低い筋活動しか認めず,頸椎症や高齢者など頸部運動に制限のある患者に対しても応用可能な,安全で簡便な口腔期および咽頭期の嚥下リハビリ手技として評価できる.
著者
脇本 仁奈 松尾 浩一郎 河瀬 聡一朗 岡田 尚則 安東 信行 植松 紳一郎 藤井 航 馬場 尊 小笠原 正
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-16, 2010-04-30 (Released:2020-06-26)
参考文献数
12

【目的】頸部回旋法は,頭を麻痺側に回旋して嚥下することで,嚥下後の咽頭残留を軽減させる摂食・嚥下代償法のひとつである.しかし,頸部を回旋した状態で長い時間食事をとるという姿勢は,身体へ負担がかかる可能性がある.そのため,頸部回旋の有効性を残したままで,できる限り摂食しやすい姿勢が望まれる.今回われわれは,若年健常者において,どの程度の頸部回旋角度から咽頭嚥下時の食物通過側に変化があるか検討した.【対象と方法】摂食・嚥下障害のない健常若年成人30 名(平均26 歳)を対象とした.被験者がバリウムを嚥下するときの頸部回旋角度を,正面位と左右各15 度,30 度,45 度および最大回旋位の合計9 角度に設定した.被験者が3 ml の液体バリウムを嚥下するところをVF 正面像にて撮影,記録した.デジタル化されたVF 映像上で,下咽頭での回旋側のバリウム通過の有無を同定した.各頸部回旋角度で,回旋側下咽頭をバリウムが通過した人の割合を比較検討した.【結果】正面位では,全例で両側をバリウムが通過していたが,頸部回旋角度が増すと,回旋側通過の割合が減少した.30度頸部回旋でのバリウムの回旋側下咽頭通過の割合は,右側回旋23%(7名/ 30名),左側回旋40%(12 名/ 30 名)と有意な減少を認めた(p<0.01).最大まで頸部を回旋すると,右側回旋1 名,左側回旋4 名のみで,バリウムが回旋側を通過していた.【結論】今回の検討より,頸部回旋が30 度以上になると,バリウムが回旋側下咽頭を通過した人の割合が有意に減少することが明らかになった.摂食・嚥下障害者への姿勢代償法は,必要十分な安全性をもち,かつできるだけ楽な摂食姿勢が望ましい.頸部回旋法の有用性は,通常VF や経鼻内視鏡を用いて決定される.今回の検討より,頸部回旋の有用性を確認するときには,30 度程度の回旋からその有効性を確かめてみる価値があることが示唆された.
著者
渡邊 裕 新井 伸征 青柳 陽一郎 加賀谷 斉 菊谷 武 小城 明子 柴本 勇 清水 充子 中山 剛志 西脇 恵子 野本 たかと 平岡 崇 深田 順子 古屋 純一 松尾 浩一郎 山本 五弥子 山本 敏之 花山 耕三
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.77-89, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
11

【目的】摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床および研究は,依然として未知の事柄が多く,根拠が確立されていない知見も多い.今後さらに摂食嚥下リハビリテーションの分野が発展していくためには,正しい手順を踏んだ研究が行われ,それから得られた知見を公開していく必要がある.本稿の目的は臨床家が正しい知見を導くために,研究報告に関するガイドラインを紹介し,論文作成とそれに必要な情報を収集するための資料を提供することとした.【方法】日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌に投稿される論文は症例報告,ケースコントロール研究,コホート研究,横断研究が多いことから,本稿では症例報告に関するCase report(CARE)ガイドラインと,The Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology Statement(STROBE 声明)において作成された,観察研究の報告において記載すべき項目のチェックリストについて紹介した.【結果】CAREガイドラインについては,症例報告の正確性,透明性,および有用性を高めるために作成された13 項目のチェックリストを説明した.STROBE 声明については研究報告の質向上のために作成された,観察研究の報告において記載すべき22 項目のチェックリストを解説した.【結論】紹介した2 つのガイドラインで推奨されている項目をすべて記載することは理想であるが,すべてを網羅することは困難である.しかしながら,これらのガイドラインに示された項目を念頭に日々の臨床に臨むことで,診療録が充実しガイドラインに沿った学会発表や論文発表を行うことに繋がり,個々の臨床家の資質が向上するだけでなく,摂食嚥下リハビリテーションに関する研究,臨床のさらなる発展に繋がっていくと思われる.本稿によって,より質の高い論文が数多く本誌に投稿され,摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床と研究が発展する一助となることに期待する.
著者
髙橋 摩理 内海 明美 大岡 貴史 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.175-181, 2012-08-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
18

地域療育センターを利用し,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)と診断された小児338 名とその保護者を対象にアンケートを行い,偏食の実態を調査し,偏食に影響を与える要因の検討を行った.絶対食べない食材数と発達レベルとの関連が推察されたが,年齢との関連は明らかにすることができなかった.食べない食材は,年齢や発達レベルに大きな差はなく,「イカ・タコ」など食べにくい食材や野菜が多く,摂食機能との関連を検討する必要があると思われた.食べない食材数と感覚偏倚とでは,「触覚」「視覚」との関連が強く,保護者が食べない理由としてあげていた「食感」「見た目」と重なっていた.食材を加工し提供することは,「触覚」「視覚」への配慮となり,有効な対応法と思われた.食事場面だけでなく,生活全般を通して,発達レベルの向上や感覚偏倚の軽減を行うことが必要と推察された.
著者
髙橋 摩理 内海 明美 大岡 貴史 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.175-181, 2012
被引用文献数
1

<p>地域療育センターを利用し,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)と診断された小児338 名とその保護者を対象にアンケートを行い,偏食の実態を調査し,偏食に影響を与える要因の検討を行った.</p><p>絶対食べない食材数と発達レベルとの関連が推察されたが,年齢との関連は明らかにすることができなかった.食べない食材は,年齢や発達レベルに大きな差はなく,「イカ・タコ」など食べにくい食材や野菜が多く,摂食機能との関連を検討する必要があると思われた.</p><p>食べない食材数と感覚偏倚とでは,「触覚」「視覚」との関連が強く,保護者が食べない理由としてあげていた「食感」「見た目」と重なっていた.食材を加工し提供することは,「触覚」「視覚」への配慮となり,有効な対応法と思われた.食事場面だけでなく,生活全般を通して,発達レベルの向上や感覚偏倚の軽減を行うことが必要と推察された.</p>
著者
金原 寛子 塚谷 才明 小林 沙織 山本 美穂 酒井 尚美 長東 菜穂 小森 岳 岡部 克彦 赤田 巧子 高塚 茂行
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.184-193, 2020-08-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
36
被引用文献数
1

【目的】嚥下機能を低下させる可能性がある薬剤は数多く存在する.一方で,必要とされる薬剤が嚥下障害により服用できず,本来期待される薬効が十分に得られないこともある.本研究では,当院嚥下サポートチームで症例検討を行った患者への薬剤に関する提案内容を解析し,嚥下サポートチームにおける薬剤師の役割について報告する.【方法】20XX年4月から20XX+3年3月の期間,嚥下サポートチームにて症例検討を行った患者において,薬剤の使用状況,薬剤に関する提案内容と介入の有無,介入前後での嚥下障害の重症度について後方視的に検討した.【結果】対象患者51 名(年齢の中央値82 歳)のうち42 名(82%)が,嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤を使用していた.嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤では睡眠薬,抗精神病薬が,嚥下機能に良い影響を与える可能性のある薬剤ではACE阻害薬が多かった.薬剤に関する提案を29 名に行い25 名に介入した.提案は嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤の中止や減量を10 名に,服薬方法の変更を9名に,嚥下機能に良い影響を与える可能性のある薬剤の追加を7 名に行った.薬学的介入ができた25 名の摂食状況のレベルの平均値は介入前4.5,退院時5.9 であり,1.4 の改善であった.薬学的介入を行っていない26 名の摂食状況レベルの平均値は,介入前5.1,退院時6.3 と1.2 の改善で薬学的介入群と有意差を認めなかった.【結論】嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤を使用している患者の割合は非常に高く,薬剤に関する提案を半数以上の患者に行った.薬剤師は薬の専門家として嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤の抽出,代替薬の提案,安全で確実な服薬を支援することが望まれる.
著者
谷口 洋 藤島 一郎 大野 友久 高橋 博達 大野 綾 黒田 百合
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.249-256, 2006-12-31 (Released:2021-01-10)
参考文献数
10

【目的】ワレンベルグ症候群(WS)による嚥下障害はしばしば左右差を認める.本研究ではWSにおける食塊の下咽頭への送り込み側と食道入口部の通過側について検討した.【対象と方法】対象は嚥下造影検査(VF)を施行したWSの24症例で,24症例はVFを平均2.0回おこなっており,各検査を独立した47施行として後方視的に検討した.頸部正中位での嚥下を正面像で観察し,下咽頭(梨状窩のレベル)への食塊の送り込みを左右差なし,患側優位,健側優位に,食道入口部の通過を左右差なし,患側優位,健側優位,不通過に分類した.下咽頭へ患側優位に送り込まれた例では,健側に食塊を誘導する目的で健側を下に側臥位をとるか(一側嚥下)患側へ頸部回旋しての嚥下(嚥下前横向き嚥下)をおこない咽頭通過の改善を評価した.【結果】下咽頭への送り込み側は左右差なし15施行(32%),患側優位24施行(51%),健側優位8施行(17%)であった.食道入口部の通過側は左右差なし6施行(13%),患側優位9施行(19%),健側優位16施行(34%),不通過16施行(34%)であった.食塊が患側優位に下咽頭へ送り込まれた15施行に一側嚥下か嚥下前横向き嚥下をおこない,12施行(80%)で食塊が健側の下咽頭へ誘導されることで咽頭通過の改善をみとめた.【考察】従来の報告と同様に食道入口部の通過は健側優位が多かったが,下咽頭への送り込みは患側優位が多く対照的な結果となった.これまでWSにおける食塊の咽頭への送り込み側の報告はない.患側の下咽頭に送り込まれやすい機序として,健側の口蓋筋群がより強く収縮して食塊が患側に偏筒して口峡を通過することや,咽頭収縮筋が健側でより強く収縮して食塊が患側に送り込まれることが推察された.WSではこれらのことを考慮して体位調節により下咽頭への送り込みをコントロールすることが時に重要であると思われた.
著者
渡邊 英美 床井 多恵 高田 耕平 松田 梨江 太田 紗彩 八十田 あかね 窪田 沙代 佐野 千春 栢下 淳 小切間 美保
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.215-221, 2021-12-31 (Released:2022-05-11)
参考文献数
9

【目的】嚥下調整食の提供が行われている病院や高齢者施設などで物性測定装置を設置している施設は少ないため,学会分類2013(食事)では物性値は表記されていない.そのため,嚥下調整食の形態の解釈は特にコード4 において,施設により異なっていることがある.今後,嚥下調整食分類の共通化をさらに進めるためには,物性測定装置がなくてもかたさを評価できる簡易的な方法が必要である.本研究では,棒と電子秤を用いた方法(秤法)および凸型キャップとペットボトルを用いた方法(PB 法)の2種類のかたさの簡易評価方法を検討した.【方法】加工食品および生鮮食品34 種類を試料とし,縦・横20 mm,高さ10 mm に切り分けた.試料温度は20±2℃とした.クリープメータRE2-3305C(山電)のステージに試料を置き,直径5 mm のプランジャーを用いて測定速度1 mm/ 秒で押し込み測定を実施し,歪率0~90% における最大値をかたさとした.秤法では,電子天秤の上にのせた試料を直径5 mm の棒で押し込み,貫通するまでに表示された最大重量を測定値とした.PB 法では,ペットボトルに凸部の直径5 mm のキャップを装着し,キャップを下にしたときの先端の圧力が100 kPa または200 kPa になるように水を入れた.試料の中央にのせたキャップの凸部がボトルの重さで貫通した場合をかたさ100 kPa 未満または200 kPa 未満と判定した.【結果】クリープメータによる測定の結果,試料のかたさは7~564 kPa であった.秤法で得られた値をかたさに対してプロットすると,秤法=かたさの直線に近く,Spearman の相関係数は0.956~0.969 と強い正の相関が認められた.PB 法では,100 kPa 未満,100 kPa 以上200 kPa 未満,200 kPa 以上の3 段階で判定を行うことができた.ただし,7 種類の試料でクリープメータ測定の結果と一致しなかった.【結論】秤法,PB 法ともに,コード4 の嚥下調整食に含まれる食材のかたさの簡易評価方法として,活用可能であることが示唆された.
著者
西方 浩一 田村 文誉 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.32-42, 2001-06-30 (Released:2020-07-19)
参考文献数
28

本研究は,経口摂取準備期からの乳児期の目・手・口の協調運動の発達過程を明らかにする目的で,健康な乳児2名(女児2名)を対象に,被験玩具(棒大・小の木製玩具,立方体小のプラスティック玩具,立方体中・大の木製玩具)をしゃぶる様子をA児は出生後2か月から11か月まで,B児は出生後4か月から11か月までの間,約2週間から4週間ごとにデジタルビデオカメラにて撮影した.各被亡児の動作について,1)被験玩具のつかみ方,2)把握様式,3)視線の変化,4)被験玩具の入り方,5)頸部の代償運動,6)口腔の動き,について観察評価したところ,以下の結論を得た.1)リーチ機能の発達する前段階から手と口の協調運動が,また5,6か月頃より視覚的誘導のもと,手と口の協調運動が開始されることがうかがえた.自食準備期としての玩具しゃぶりは,離乳開始以前より始まり,離乳の後期頃には行われなくなる可能性が示唆された.2)リーチ,把握機能が未熟な乳児期の児に対して,玩具の把握形態は,立方体に比べ,棒状の形態のものの方が早期より把持が可能となり,その結果口腔へ運び込まれる可能性も高くなるのではないかと推察された.
著者
中村 達也 北 洋輔 藤本 淳平 甲斐 智子 稲田 穣 鮎澤 浩一 小沢 浩
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.205-213, 2018-12-31 (Released:2019-04-30)
参考文献数
32

【目的】本研究では,重症心身障害児者の咽頭期嚥下の特徴を,嚥下時舌骨運動を健常成人と比較することで明らかにすることを目的とした.【対象と方法】健常成人24名(健常群)と重症心身障害児者24名(障害群)について,嚥下造影検査(VF)を用いてペースト食品3~5 mLの嚥下を撮影し,30フレーム /秒で動画記録した.第二および第四頸椎を基準線とした座標面を設定し,VF動画をフレームごとに解析することで,舌骨の挙上開始時から最大挙上時までの前方・上方・総移動距離,移動軌跡,下顎 ―舌骨間距離を測定した.さらに,舌骨移動時間を各対象者について共通の時間単位に線形変換後,舌骨運動を挙上相と前進相の段階に分けた.そして,健常群の平均値95%信頼区間下限値を基準値とし,挙上相で基準値を下回った者を挙上相後退群,前進相で下回った者を前進相停滞群と群分けし,評価結果を一元配置分散分析で群間比較した.【結果および考察】挙上相後退群は12名,前進相停滞群は7名であった.分散分析および多重比較の結果,舌骨の前方移動距離は,健常群が挙上相後退群(p<0.01)および前進相停滞群(p<0.01)に比較して有意に大きかった.舌骨の上方移動距離は,挙上相後退群が健常群に比較して有意に大きかった(p<0.01).下顎 ―舌骨間距離は,挙上相後退群が健常群(p<0.01),前進相停滞群(p<0.05)に比較して有意に大きかった.この要因として,挙上相後退群は腹側舌骨上筋群の筋の延長による筋出力低下,前進相停滞群は舌骨下筋群の伸張性低下または低緊張による筋出力低下が考えられた.【結論】重症心身障害児者には,舌骨が主に上方に移動すべき時期に後方に牽引される群と,主に前方に移動すべき時期に移動距離が不足する群が存在した.
著者
後藤 拓朗 村田 尚道 前川 享子 神田 ゆう子 小林 幸生 森 貴幸 宮脇 卓也 江草 正彦
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.209-216, 2013-12-31 (Released:2020-05-28)
参考文献数
29

【目的】カプサイシンは赤唐辛子に多く含まれる成分で,嚥下反射の促進効果が認められている.咽頭の知覚神経からサブスタンスP(以下SP)を粘膜中に放出させ,SP濃度が上昇することによって反射が惹起されやすくなるとされている.現在,嚥下障害のある患者が容易に摂取できるように,フィルム形状のオブラートにカプサイシンを含有させたカプサイシン含有フィルムが市販されている.しかし,摂取後の嚥下反射促進効果については,十分検討されていない.そこで,本研究では,カプサイシン含有フィルム摂取後の嚥下反射と咳嗽反射への効果,および唾液中SP 濃度への影響について検討した.【方法】対象は,20 歳から40 歳までの成人男性(17 名)とした.カプサイシン含有フィルム(カプサイシン含有量1.5 μg/枚)とプラセボフィルムを用い,クロスオーバー二重盲検法にて行った.フィルムを摂取する10 分前の安静時の値を基準として,摂取後10 分ごとに6 回の嚥下反射および咳嗽反射を評価した.嚥下反射の評価として,簡易嚥下誘発試験による嚥下潜時を測定した.咳嗽反射の評価は,1% クエン酸生理食塩水を用いて咳テストを行った.さらに,摂取前10 分,摂取後10,20 分に唾液を採取し,ELISAキットにて唾液中SP 濃度を測定した.プラセボフィルム摂取時の値をコントロール群,カプサイシン含有フィルム摂取時の値をカプサイシン群として,両群を比較した.統計学的分析はFriedman test およびWilcoxon の符号順位和検定を用いて行った.【結果】カプサイシン群では,摂取前と比較して摂取後40 分で嚥下潜時の短縮を認め,コントロール群では差は認められなかった.また,コントロール群と比較して,カプサイシン群は嚥下潜時が摂取後20,40 分で有意に低値を示していた.その他の時間および他の評価項目では,有意差を認めなかった.【結論】カプサイシン含有フィルム摂取により,嚥下反射の促進効果が,摂取後40 分に認められた.
著者
若杉 葉子 戸原 玄 中根 綾子 後藤 志乃 大内 ゆかり 三串 伸哉 竹内 周平 高島 真穂 都島 千明 千葉 由美 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.109-117, 2008-08-31 (Released:2021-01-22)
参考文献数
64

現在行われている多くのスクリーニングテストは誤嚥のスクリーニングテストであり,不顕性誤嚥(SA)をスクリーニングすることは難しいとされている.今回,我々はクエン酸の吸入による咳テストを用いたSAのスクリーニングの有用性について検討を行った.対象は何らかの摂食・嚥下障害が疑われた18歳から100歳までの患者204名 (男性131名,女性73名,平均年齢69.90±11.70歳).超音波ネブライザより1.0重量%クエン酸生理食塩水溶液を経口より吸入させ,1分間での咳の回数を数える.5回以上であれば陰性 (正常),4回以下であれば陽性 (SA疑い)と判定し,VFもしくはVEの結果を基準とし,SAのスクリーニングの感度,特異度,有効度,陽性反応的中度,陰性反応的中度を計算した.咳テストによるSAのスクリーニングの結果は,感度0.87,特異度0.89,有効度0.89,陽性反応的中度0.74,陰性反応的中度0.95であった.次いで主要な原疾患別に咳テストの有用性を検討した.脳血管障害患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.76,特異度0.82,有効度0.79,陽性反応的中度0.73,陰性反応的中度0.84であった.頭頚部腫瘍患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度1.00,特異度0.97,有効度0.98,陽性反応的中度0.93,陰性反応的中度1.00であった.神経筋疾患患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.83,特異度0.84,有効度0.84,陽性反応的中度0.56,陰性反応的中度0.95であった.呼吸器疾患患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.67,特異度0.81,有効度0.76,陽性反応的中度0.67,陰性反応的中度0.81であった.気管切開のある患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度0.71,特異度1.00,有効度0.78,陽性反応的中度1.00,陰性反応的中度0.50であった.認知症患者におけるSAのスクリーニングの結果は,感度1.00,特異度1.00,有効度1.00,陽性反応的中度1.00,陰性反応的中度1.00であった.以上より,クエン酸吸入による咳テストはSAのスクリーニングに疾患によらず有用であると考えられた.
著者
安井 由香 大塚 佳代子 田中 順子 覺道 昌樹 田中 昌博
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.52-59, 2021-04-30 (Released:2021-08-31)
参考文献数
40
被引用文献数
1

【目的】ミキサー食のような外形の悪い食形態は,嗜好に影響を及ぼし,食欲減退の原因となることが危惧されている.認知症患者において,食品の嗜好の客観的な判定に視線計測が有効である.本研究では,認知症患者におけるアイトラッキングシステムを用いた無意識下の食品の嗜好と視線との関係を検討した.【対象と方法】対象者は,75歳男性,要介護度2,長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)9点であった.原疾患は小脳出血であり,認知症を合併していた.被験食品はぶりの照焼き78 g(あいーと®,イーエヌ大塚製薬株式会社)とした.食形態はやわらか普通食およびミキサー食とした.視線計測には,アイトラッカー(Tobii pro/glasses 2,Tobii 製)を用いてアイトラッキングを行った.アイトラッカー装着後,食品を10 秒間自由に見るよう指示した.各10 秒間計3 回測定を行った.測定終了後,最大10 分として自由に食事をするよう指示した.視線測定は,食事提供時から食べ始める前の10 秒間を測定した.記録ユニットに保存された視線データの解析には,解析ソフトウェア(Tobii Studio Version 4.9,Tobii 製)を用いた.食事終了後,摂取量を測定した.食事摂取量が多いほうを嗜好レベル「高」,食事摂取量が少ないほうを嗜好レベル「低」と設定した.【結果】視線計測の結果,患者はより多く摂取した食品に対して注視点の停留回数が多く,注視点の停留時間も長くなった.そして,やわらか普通食がより多く摂取された.これは,健常成人と同様の傾向であった.【結論】本研究から,認知症高齢者において,嗜好レベルが高い食品に視線が停留していたことが示唆された.
著者
山本 敏之 濱田 康平 清水 加奈子 小林 庸子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.207-214, 2009-12-31 (Released:2020-06-28)
参考文献数
13

【目的】入院中の統合失調症患者の窒息リスクを評価するために,摂食・嚥下状況を調査し,窒息の既往がある患者に有意な内容を同定した.統合失調症患者の窒息リスクのスクリーニング法を考案した.【対象と方法】統合失調症患者の摂食・嚥下状況に関する13 の質問で構成された摂食・嚥下評価表を作成した.看護師が評価表を使って入院中の統合失調症患者98 人を評価した.診療録から対象の窒息の既往を調査し,窒息の既往の有無で2 群に分類した.評価表で得られた回答を2 群で比較した.判別分析によって,統合失調症患者の窒息の既往の判定に寄与する質問を同定した.統合失調症患者の窒息リスクのスクリーニング法を作成した.【結果】窒息の既往がある患者は4 人,窒息の既往がない患者は94 人であった.窒息の既往がある統合失調症患者に有意に多かった回答は,「義歯が必要であるが使用していない」 (p=0.03),「ほとんど丸飲みする」(p<0.01),「今までに盗食や隠れ食べがある」 (p<0.01),「飲み込みが改善した」 (p=0.03) であった.窒息の既往がある患者に有意に少なかったのは,「口に食物をためたままなかなか飲み込まない」 (p<0.01) であった.判別分析から作成したスクリーニング法は,「ほとんど丸飲みする:+ 1 点」「今までに盗食や隠れ食べがある:+ 1 点」「飲み込みが改善した:+ 2 点」で構成され,3 つの項目の合計が2 点以上のとき窒息のリスクが高いと判定した.このスクリーニング法は判別率92.9%,敏感度100%,特異度92.6% であった.【結論】統合失調症患者の窒息の背景には,摂食動作の異常や精神疾患による異常行動があり,飲み込みが改善した患者で発生しやすいことが示唆された.統合失調症患者の窒息のリスクマネージメントに有用なスクリーニング法と摂食・嚥下評価表を提案した.
著者
吉田 剛 内山 靖 熊谷 真由子
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.143-150, 2003-12-30 (Released:2020-08-21)
参考文献数
16
被引用文献数
1

目的:嚥下時の喉頭運動が片麻痺や異常姿勢による頸部周囲筋の筋緊張異常により二次的にも阻害されうることに注目し,喉頭位置と喉頭挙上筋の筋力に関する臨床的指標を開発した.本研究の目的はこれらの指標の信頼性を検証し,臨床導入の可能性を模索するために,健常人の加齢・性差による影響を含めた基礎資料の獲得と,慢性期脳血管障害 (CVD) 患者との比較から開発した指標の臨床的有用性を明らかにすることである. 方法:対象は健常者,高齢者,CVD患者の109名であった.そのうち,検者内および検者間信頼性の検証は,嚥下障害のあるCVD患者10名を対象とし,加齢変化と性差の影響の検証は,健常若年者群30名と,高齢者群17名,CVDの有無については,高齢者群17名と慢性期CVD嚥下障害なし群20名,嚥下障害の有無については,慢性期CVD嚥下障害なし群20名とあり群32名を対象として各2群間を比較した.測定項目は,相対的喉頭位置を求める指標として,頸部最大伸展位でオトガイから甲状軟骨上端間距離GT,甲状軟骨上端から胸骨上端間距離TS,この2つの指標からGT/(GT+TS)を算出することによる相対的喉頭位置 (以下,喉頭位置) とし,喉頭挙上筋の筋力は頭部最大屈曲位での保持能力を頭部落下程度で4段階に分けるGSグレードとした. 結果および考察:検者内信頼性ICC (1,1) は,GT=0.943,TS=0.837,GSグレードは100%の一致率であった.検者間信頼性ICC (2,1) は,GT=0.905,TS=0.926,GSグレード=0.943であり,測定の信頼性は高かった.健常若年者群では,GT=6.4±0.9cm,TS=12.2±1.0cm,喉頭位置=0.34±0.04,高齢者群では,GT=6.6±1.0cm,TS=9.5±1.1cm,喉頭位置=0.41±0.05であった.以上より,加齢によりTSが短縮することで喉頭位置が下降することが明らかとなった.性差については健常若年者群でGTのみ有意差がみられた.また,CVDの有無による有意差はみられなかったが,嚥下障害の有無では,慢性期CVDにおいてTS,喉頭位置,GSグレードに有意差が認められ,本指標の臨床的有用性が示唆された.
著者
淺見 貞晴 高瀬 麻以 工藤 正美 田中 美江子 ザーリッチ 陽子 徳丸 剛 伊藤 敬市 土屋 輝幸 飯島 勝矢 菊谷 武 丸山 道生
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.17-23, 2022-04-30 (Released:2022-08-31)
参考文献数
19

【目的】インフォグラフィックの手法を用いた資料を製作することで,嚥下調整食学会分類を西東京市内の在宅ケアスタッフに普及する.【方法】インフォグラフィックの製作は,東京大学高齢社会総合研究機構(以下,IOG)の「多職種協働による食支援プロジェクト」の一環として,西東京市で2019 年4 月に開始された.プロジェクトチームは,市内の医療系専門職,市役所職員,IOG 特任研究員により構成された.制作にあたっては,ステークホルダーである在宅ケアスタッフに嚥下調整食学会分類普及のためのニーズや課題をヒアリングし,それをもとに,インフォグラフィックの内容を決定した.インフォグラフィックを印刷する媒体は,移動の多い在宅ケアスタッフがいつでも手に取って見られるよう,クリアファイルを選択した.クリアファイルの使い方を伝えるため,西東京市のYouTube チャンネルに解説動画をアップロードした.その後,西東京市内6 施設104 名の在宅ケアスタッフに,クリアファイルの有用性についてアンケート調査を行った.【結果】インフォグラフィックには,1)問題提起と背景,2)嚥下調整食学会分類の使用が推奨される理由,3)嚥下調整食学会分類の説明を内容として含めた.アンケートでは,86 名の食支援に携わる在宅ケアスタッフのうち,85.5% が当資料を今の業務で使う機会があると回答し,92.8% が今後の業務の中で使いたいと回答した.【結論】インフォグラフィックを用いた資料は,在宅ケアスタッフへの嚥下調整食学会分類普及に有用である可能性が示唆された.