著者
島村 礼子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、語がもつと考えられる形態的緊密性という特徴を拠り所にしたときに、語の正確な定義がどこまで可能になるかについて考察することである。本研究で明らかになったのは主として以下の2点である。まず、語の形態的緊密性の原理は一般には、diSciullo and Williams (1987)などで言われている原理、つまり、統語規則は語の内部に直接アクセスしてはならない、という原理と考えられているが、これを、Haspelmath (1992)で示唆されている原理、つまり、語順や構成素配列に関係する統語規則は語の内部に適用することはできない、という原理に改めるべき(弱めるべき)である。二番目に、派生語の場合、その基体である動詞の項構造を統語構造へ投射するのを許す派生語と許さない派生語とがあり、その違いは主要部の接尾辞の違いに帰することができると考えられる。もしそうであるならば、形態的緊密性の原理によれば、上述の種類の統語規則は語の内部を「見ることができない」ことが予測されるのに対して、基体動詞の項構造の継承は、語内部の情報が統語構造において「見える」現象の一つの表れと見なすことができるように思われる。今後、形態的緊密性および項構造の継承を、形態論と統語論との相互作用の観点から、さらに考察することは興味深いことである。