著者
島田 由紀子
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.71-78, 2018-03-31

本研究は、幼児の自由画にみられる性差の特徴を把握するために、自由画を構成する要素として考えられる技術面として「色彩」「描写力」「技法」「構成」、創造性として「着想」「自由さ」、そして「主題」という7つの項目を設定し、幼児の造形教育専門家の4名(男性2名、女性2名)によって評定を行った。この調査の対象は4歳児、5歳児クラスの302名の幼児(男児154名、女児148名)による自由画である。自由画の描画材は、16色のクレヨンと画用紙を用いた。 評定の結果、7つの評価項目のうち5項目の「色彩」「描写力」「技法」「着想」「主題」については、女児の方が男児よりも評定の数値が高いことが確認された。「色彩」についてはこれまで指摘されてきたように女児の関心の高さがうかがえる結果であった。「技法」については女児の自由画にはクレヨンの筆致やぬり方の工夫がみられ、それはぬりえ遊びとの関連も示唆された。「着想」は「色彩」「描写力」「技法」の評定項目より平均点の性差が小さいものの男児よりも女児の平均点が高く、女児の方が創造性の高い自由画であると評定される傾向がみられた。「主題」では女児の方が描きたいことが明確であり、発想が新鮮で個性的な表現をしていると評定される傾向にあることが明らかとなった。技術面で平均点の性差が大きく、女児の方が描画発達の早さが反映された結果となった。有意差が認められなかった「構成」と「自由さ」の平均点は性差が小さいことから、これらの項目では性差の特徴が小さいと考えられた。 「色彩」「描写力」「技法」「着想」「主題」において、男児よりも女児の平均点が高いということが明らかとなったことから、描画発達のより具体的な女児の早い発達を確認することができたと同時に、男児と女児それぞれの自由画の相違がどの構成要素に現れているのか具体的に示すことになった。
著者
島田 由紀子 Yukiko SHIMADA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.97-108, 2014-03

幼児に18個の図形(三角・丸・四角、青とピンクの線画)を提示し、何かに見立てた描画の初発反応について取り上げた。初発反応に焦点をあてることで、幼児が見立てやイメージがしやすい図形の形と色について把握することができ、描画のモチーフからは、図形からイメージして描く内容を知ることができる。形や色を提示するという条件のもと、年齢差や性差にどのような差や共通性がみられるのか明らかにすることで、幼児の造形活動や指導への手がかりにすることが期待できる。 調査対象者は4歳児クラス(男児14名、女児14名)、5歳児クラス(男児14名、女児10名)の52名で、調査員との個別調査で行った。その結果、取組み数は年齢や性別を問わず約80%以上であったことから、幼児は「見立てよう、描こう」という意欲が高いことがわかった。初発反応の図形は、図形丸と図形三角が多く、幼児にとって図形三角や丸は親しみやすい形だと考えられる。線画の色はピンクよりも青の方が多く、性別による嗜好色の影響はなかった。4歳児クラスでは見立ての描画として成立するには、見立ての理解とイメージしたものを描くことの難しさがうかがえた。しかし、女児は4歳児クラスでは低い成立数が5歳児クラスでは90%と高いことから、この時期の女児の見立てや描画への興味関心の高さやイメージする力、描写力の伸びがうかがえた。色からの見立ての描画の成立数は形に比べて低く、見立ては色よりも形が優先されることが明らかになった。モチーフに着目すると、見立ての不成立の描画には年齢性別問わず、提示された図形への2重描きや塗りつぶし、図形の中や外への自由な描画などがみられた。見立てが成立した描画は、4歳児クラスの男児では「車」「メロンパン」、女児では「星」「ドア」、5歳児クラスの男児では、「家」「ドラゴンボールの玉」「おにぎり」、女児では「雪だるま」「ロールケーキ」などであった。男児の「車」や女児の擬人化された「雪だるま」などには自由画にみられる性差との共通性が、食べ物を見立てて描画することは図形からの連想語調査との共通性がみられた。 幼児が図形から何かをイメージして描画表現するには描写力が必要となるため、5歳児クラス以前では難しいことが推測された。しかし、5歳児クラスの見立ての描画では形からの成立数をみると、それまでの間にいろいろな経験をしてイメージを広げることや造形活動や生活経験を重ねることで、見立てるイメージ力も描写力も備わることがわかった。この時期の幼児が考えたり思い浮かべたりすることや、形や色やさまざまな素材を使った造形活動を重ねることが、その後の創造的な造形表現につながることが考えられた。
著者
島田 由紀子
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:24326925)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.87-96, 2017-03-31

幼稚園の造形活動や小学校の図画工作は、美術を専門に学んだ保育者や教師が担当するとは限らない。したがって、造形活動や図画工作の指導や援助に戸惑う者も少なくない。その戸惑いの影響は、幼児や児童の表現にも表れることが予想され、幼児や児童自身の苦手意識にもつながることが考えられる。造形活動や図画工作を苦手に感じている保育者や教師が多いことから、活動や授業にすぐに結びつく実践的な書籍がこれまでも多く出版され、また講習会や研修会も数多く行われている。特に、描画活動は幼稚園でも小学校でも行われていることから、保育者や教師のさらなる描画指導に対する苦手意識と困難さは先行研究からも読み取ることができる。描画指導に対する苦手意識や困難さを感じている保育者や教師にとって、具体的なメソッドを教授する講習会の影響は大きく、絵画コンクールに出品される作品からもその影響がみられる。しかし、メソッドによる描画指導法については、これまで、造形教育や美術科教育の研究対象としてはほとんど取り上げられてこなかった。その理由に、メソッドに沿った描画では幼児や児童の思いや個性が表現されず、画一的な表現に陥ることが挙げられている。一方、メソッドによる描画指導の講習会は毎年行われていることから、支持している、あるいは頼りにしている保育者や教師が多いことが推測される。描画指導法のメソッドが確立、普及していった背景からは、絵が描けない幼児や児童の存在と、自身の描画に対する苦手意識と指導や援助に困惑している保育者や教師の姿が見えてくる。そして、メソッドを習得した後、活動や授業の中で実践し、幼児や児童が予想していたように描けることに達成感や手応えを感じ、さらにメソッドを取り入れた指導法を推し進めているという実態が考えられる。 幼稚園教育要領や小学校学習指導要領にメソッドによる描画指導法を照らし合わせて考えると、必ずしも沿ったものではないことがわかる。幼稚園教育要領や小学校学習指導要領は「上手に絵を描くこと」をねらいや目標としていないからである。メソッドでは、学力の三要素にもある知識や技能の習得は可能であっても、思考力・判断力・表現力、主体的に学習に取り組む態度には結びつきにくい側面があることも推測される。また、学校教育ならではの集団での遊びや学びがメソッドでは想定されておらず、友達や保育者、教師とのかかわりは重視されていない。今後、幼児や児童自身がメソッドによる描画指導法についてどのように感じ考えているのか把握する必要がある。
著者
島田 由紀子 Yukiko SHIMADA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.97-108, 2014-03

幼児に18個の図形(三角・丸・四角、青とピンクの線画)を提示し、何かに見立てた描画の初発反応について取り上げた。初発反応に焦点をあてることで、幼児が見立てやイメージがしやすい図形の形と色について把握することができ、描画のモチーフからは、図形からイメージして描く内容を知ることができる。形や色を提示するという条件のもと、年齢差や性差にどのような差や共通性がみられるのか明らかにすることで、幼児の造形活動や指導への手がかりにすることが期待できる。 調査対象者は4歳児クラス(男児14名、女児14名)、5歳児クラス(男児14名、女児10名)の52名で、調査員との個別調査で行った。その結果、取組み数は年齢や性別を問わず約80%以上であったことから、幼児は「見立てよう、描こう」という意欲が高いことがわかった。初発反応の図形は、図形丸と図形三角が多く、幼児にとって図形三角や丸は親しみやすい形だと考えられる。線画の色はピンクよりも青の方が多く、性別による嗜好色の影響はなかった。4歳児クラスでは見立ての描画として成立するには、見立ての理解とイメージしたものを描くことの難しさがうかがえた。しかし、女児は4歳児クラスでは低い成立数が5歳児クラスでは90%と高いことから、この時期の女児の見立てや描画への興味関心の高さやイメージする力、描写力の伸びがうかがえた。色からの見立ての描画の成立数は形に比べて低く、見立ては色よりも形が優先されることが明らかになった。モチーフに着目すると、見立ての不成立の描画には年齢性別問わず、提示された図形への2重描きや塗りつぶし、図形の中や外への自由な描画などがみられた。見立てが成立した描画は、4歳児クラスの男児では「車」「メロンパン」、女児では「星」「ドア」、5歳児クラスの男児では、「家」「ドラゴンボールの玉」「おにぎり」、女児では「雪だるま」「ロールケーキ」などであった。男児の「車」や女児の擬人化された「雪だるま」などには自由画にみられる性差との共通性が、食べ物を見立てて描画することは図形からの連想語調査との共通性がみられた。 幼児が図形から何かをイメージして描画表現するには描写力が必要となるため、5歳児クラス以前では難しいことが推測された。しかし、5歳児クラスの見立ての描画では形からの成立数をみると、それまでの間にいろいろな経験をしてイメージを広げることや造形活動や生活経験を重ねることで、見立てるイメージ力も描写力も備わることがわかった。この時期の幼児が考えたり思い浮かべたりすることや、形や色やさまざまな素材を使った造形活動を重ねることが、その後の創造的な造形表現につながることが考えられた。