著者
崗本 晋澤
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.g83-g84, 1996

Face bow headgearは, 上顎大臼歯の遠心移動, 上顎骨の成長抑制および加強固定などに用いられる顎外固定装置で, その作用を解明するための研究が数多く行われている. しかしながら, 顔面頭蓋形態的差異による効果と, 顔面頭蓋の主たる成長発育の場である縫合部で実際に歪計測を行った報告はない. そこで, 骨格形態の差異が上顎顎外固定装置の作用に及ぼす影響と上顎顎外固定装置が上顎骨周囲の縫合部に及ぼす影響について検討した. 研究方法 Hellmanのdevelopmental stage VAに属し, 健全な永久歯列を有する乾燥頭蓋骨2体を使用した. 1体は, SNA 83.5゜, SNB 78゜, ANB 5.5゜, FMA 25゜, Occlusal to FH 11゜および Palatal plane to FH 5゜で, 口蓋平面が前下方に傾斜していた. 他の1体は, SNA 87゜, SNB 81.5゜, ANB 5.5゜, FMA 23゜, Occlusal to FH 0゜および Palatal plane to FH -7゜で口蓋平面が前上方に傾斜しており, 上顎第一大臼歯が前者に比べて前方に位置していた. 乾燥頭蓋骨を前処理したのち, 頭蓋全縫合部にセメダイン1565, 歯根膜空隙にはデンタルシアノンを注入した. 上顎中切歯から第二大臼歯に edgewise appliance, 左右上顎第一大臼歯間に palatal barを装着し, 矯正線を結架して上顎歯列を一塊にした. おのおのの頭蓋骨に三軸型ロゼットゲージを19か所接着した. Long typeの face bow headgearを上顎第一大臼歯に装着し, outerbowの第一大臼歯相当部を mediumとし, 前方20mmを short, 後方20mmを longの3か所の位置で牽引した. 牽引方向は FH planeを基準平面として上方75, 60, 45, 30, 15, 0, -15および-30゜の8方向とした. 荷重量は, 骨がクリープ現象を起こさず反復荷重-歪曲線において完全に Hookeの法則が成立する3kgを用いた. 歪測定には, デジタルメーターとスキャナーを使用した. 結果および考察 口蓋平面前下方傾斜頭蓋骨において, short 75, 60゜および medium 75゜牽引では, 上顎骨には反時計回りの回転を伴う後上方への変位, short45゜, medium 60゜および long 75゜より下方の牽引では, 上顎骨には時計回りの回転を伴う後上方への変位が生じていた. 口蓋平面前上方傾斜頭蓋骨において, short 45゜, medium 60゜ および long 75゜より上方の牽引では, 上顎骨には反時計回りの回転を伴う後上方への変位, short 30゜, medium 45゜および long 60゜より下方の牽引では, 上顎骨には時計回りの回転を伴う後上方への変位が生じていた. 前頭上顎縫合部, 頬骨上顎縫合前面, 側頭頬骨縫合外側縁, 蝶前頭縫合上および蝶鱗縫合の側頭面部の歪は, それぞれ牽引部に近い上顎骨前頭突起上, 上顎骨頬骨突起, 頬骨骨体部および蝶形骨大翼と比較して最大20倍前後であった. また, 横口蓋縫合部, 蝶鱗縫合の下顎高前方部および蝶後頭軟骨結合部では, 他の骨体部と比較して上記の縫合上と同様に大きな値を示した. これらの結果から, 顔面頭蓋において縫合部は主たる成長発育の場であり, face bow headgearによる orthopedic effect が主として縫合部と蝶後頭軟骨結合部に生じているのではないかと考えられる. 矯正歯科臨床において face bow headgearを用いる場合, 使用目的と患者の顎顔面形態の特徴を把握したうえで, 牽引部位と牽引方向を十分に検討することの重要性が示唆された.