著者
嶋村 清志
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.590, 2008-07-15

甲賀市甲南町竜法師には今も現存する「忍者屋敷」があり,私も研修医と訪れることがあります.忍術の極意書「万川集海(ばんせんしゅうかい)」には忍者が薬草を育て,加工し,様々な生薬を創っていたと記されています.地元の山伏や修験者,のちに忍びと言われる者は,町人や商人になって常備薬や護身薬を創り,旅先での生計にあてていました.また,忍薬として飢渇丸,水渇丸,敵を眠らせる薬,眠気をさます薬などの他,様々な救急薬も創られていました. その後,県内各地で「和中散」,「赤玉神教丸」,「万病感応丸」などの薬も創られ,大勢の近江商人たちが道中薬として持ち歩き,その効能が話題を呼び,全国に広まりました.現在も滋賀の家庭薬工業は富山,奈良,佐賀と並んで4大配置用家庭薬生産県として有名です.昭和になって薬業界や配置薬業の発展と製薬技術の発展を目的に,滋賀県薬事指導所(現:薬業技術振興センター)が甲賀市に設置されました.甲賀保健所の研修医には,こういった薬業の歴史を知ってほしいし,薬の安全性を監視している薬業技術振興センターの役割を学ぶというねらいから,薬事研修を積極的にメニューに取り入れています.そしてこの研修の一環として,当保健所管内の製薬会社工場を訪問し,その製造過程を見学することにより,徹底した品質管理の現状を学んでもらっています.臨床の現場で何気なく処方している薬の一錠一錠が,厳格な検査を経て製造されていることを知ってほしいのです.