著者
和泉 謙二 川上 勇一 法月 香代 冨田 昌夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2071-A3P2071, 2009

【目的】<BR> 私たちは重力を知覚し基礎的定位をし,視覚情報その他から得られる空間的定位と一致させ行為している.身体内部の非対称性は身体軸の傾きやバランス戦略等動作時の傾向性として表出される.脳血管障害者における治療用ベッド上に斜めに寝るという現象は,その一つの代表例として考えられる.<BR>今回,我々は健常人における軸の傾きやズレに対し,揺すり手技を用いた介入により修正できるか検討し,若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】<BR> 研究の趣旨を説明し同意の得られた健常成人15例(男:9,女:6),平均年齢29.5±5.0歳,視覚認知に問題なく神経疾患の既往がないものを対象とした.尚,本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.<BR>【方法】<BR> 頸部の軸を計測するために眉間,下顎中央に,体幹の軸を計測するために胸骨上切痕,臍にマーキングし,それぞれを結ぶ直線をベッド端まで延長した点の頭側および尾側の差とベッド長軸の長さから三角関数により傾き角度および頸部・体幹軸のズレを算出した.測定はそれぞれ安静臥位,視覚導入後,頸部からの揺すりによる介入後において行った.統計手法は求められた平均値より対応のないt検定(有意水準5%)にて比較検討した.<BR>【結果】<BR>1) 頚部の傾きは安静臥位3.2±1.6°,視覚導入後2.4±1.4°,揺すり介入後1.2±1.3°となった.体幹の傾きは安静臥位2.5±1.6°,視覚導入後2.5±1.6°,揺すり介入後1.4±1.2°となり,平均値の差の検定では頸部・体幹とも揺すり介入後が安静臥位ならびに視覚導入後よりも傾きが減少する傾向を認めた(p<0.05). <BR>2) 頸部・体幹の軸のズレは安静臥位3.3±2.2°,視覚導入後2.0±2.1°,揺すり介入後2.2±2.0°と安静臥位より視覚導入後および揺すり介入後において軸のズレが減少したが,優位な差を認めなかった.<BR>【考察およびまとめ】<BR> 私達は無意識下に重力を知覚し,自身の姿勢や行為を決定している.人間が重力に抗して活動するためには正中を知り,振れ幅の少ない左右均衡した中で動くことが,経済的である.<BR>しかし,実際に自分の正中がどこなのか明示するものはなく動くことによりボディイメージが形成され,視覚情報と一致するという知覚循環のもとに自分の位置,構えを知覚している.筋活動の不均衡や可動性の制限が生じると「動かせない」「知覚できない」身体部位ができ,知覚循環により空間との関係性を知ることが困難になると考える.<BR>今回の測定結果より,頸部からの揺すり介入は,過活動な表在筋群の緊張を抑制し,Parking FunctionあるいはDynamic Stabilizationの状態に近づけることで知覚しやすい身体づくりが可能となることで身体軸の修正,基礎的定位と空間的定位の一致させる上で有用な介入であることが示唆されたものと考えられる.