著者
川上 尚恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.144-158, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22

本稿では,北京近代科学図書館で編纂発行された日本語教科書『初級日文模範教科書』と『日本語入門篇』の分析を行い,編纂背景をふまえ,占領初期の華北における日本語教育の一側面を明らかにした。『初級日文模範教科書』は,国定国語教科書と内容が重なる部分と例文・会話文の部分からなっていた。教科書に付された「教授参考」では,対訳的ではない中国語を利用した教授が提唱されており,日本語の学習過程をふまえた学習者への配慮が見られた。しかし,それを入門用教科書として再編纂した『日本語入門篇』では,中国語での説明が増加し,「読書的な対訳法」に近づいた教科書となった。両者の編纂には日本人図書館職員・中国人日本語講師が関わっていたが,特に『日本語入門篇』には中国人の伝統的日本語学習法が強く反映していた。今後の中国人の日本語学習・教育史をふまえた研究の必要性を指摘した。