著者
佐藤 勢紀子 大島 弥生 二通 信子 山本 富美子 因 京子 山路 奈保子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.85-99, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12

人文科学,社会科学,工学の3領域9分野14学会誌合計270編の日本語学術論文を対象に,15の構成要素を設定して中間章の構造分析を行った。その結果,《実験/調査型》,《資料分析型》,《理論型》,《複合型》の4つの基本類型とその下位分類としての11の構造型が抽出された。これらの構造型の分野別の分布状況を調べたところ,工学領域では典型的なIMRAD形式を持つ《実験/調査型》が圧倒的であり,一部に《理論型》が存在することが確認された。一方,人文科学・社会科学の領域では,多様な構造型が混在する傾向が見られた。これらの領域では《資料分析型》が共通して認められたが,その出現率には分野によって大きな差があり,一部の分野では《実験/調査型》が優勢であった。論文の構造型は分野によって決まる場合もあるが,むしろ研究主題や研究方法に応じて選定されるものであり,留学生の論文作成・論文読解の支援を行う際にその点に留意する必要がある。
著者
野田 尚史
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.4-18, 2014 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12
被引用文献数
2

この論文では,現実のコミュニケーションという観点から「やさしい日本語」をとらえ直し,(a)と(b)のような主張を行う。 (a)「やさしい日本語」は,非母語話者にどのような日本語を教えるのがよいかという日本語教育の問題ではない。母語話者が非母語話者にどのような日本語で話したり書いたりするのがよいかという「国語教育」の問題である。 (b)母語話者が非母語話者に日本語で話したり書いたりするとき,文法や語彙など,言語的な面だけを考える傾向が強い「やさしい日本語」を意識するだけでは十分ではない。図表やイラストの使用,伝える情報の取捨選択など,情報伝達の面も考える「ユニバーサルな日本語コミュニケーション」を意識しなければならない。
著者
米澤 陽子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.64-78, 2016 (Released:2018-04-26)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本調査では,二人称代名詞「あなた」に関する日本語母語話者の使用意識を調べた。調査結果から,聞き手の社会的立場が上の場合は「あなた」はほとんど使用されず,対下位者・対同等者の場合でも,「まったく使わない」という回答の方が多いことがわかった。また,「あなた」の使用は,相手との社会的関係によってよりも,状況や場面によるところが大きいということが確認された。調査では「あなた」不使用の理由,またもし使用するなら,どのような場面でどのような相手に使用しうるのかも調べた。調査結果をもとに,現代日本語における「あなた」という言葉の本質的な機能,それが社会文化と切り離せないコンテクストとの関わりにおいて,どのような役割を持ち,どのように認識されるかというメカニズムを考察した。

21 0 0 0 OA 「日本語」分野

著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.25-39, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
16

本稿では,学会誌『日本語教育』にこれまで発表された論文のうち,「日本語」分野(「日本語」のみ,または,「日本語+教育」のみ)に属する論文798本をいくつかの観点から分析した。その結果,最も多い分野は「文法」であり,「習得」がそれに続くこと,研究分野によっては過去に盛んに発表されたものの,近年論文の数が大きく減っているものがあることなどがわかった。さらに,この分析結果を踏まえ,投稿者,査読者の双方に向けて,今後の本誌の発展のために必要だと考えられるいくつかの点についての私見を述べた。
著者
武内 博子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.166, pp.1-14, 2017 (Released:2019-04-26)
参考文献数
20

本稿では,EPAに基づく介護福祉士候補者(以下候補者)が現状をふまえ,よりよく介護福祉士国家試験対策(以下国家試験対策)が進められるよう学習支援者は何ができるかその提言を行うことを目的に,候補者に具体的にどのように国家試験対策を進めたのか,またその過程で思ったことなどを構造構成的質的研究法に基づきインタビューを行った。インタビューデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した結果,国家試験対策過程は大きく停滞から促進へと移行することが明らかになった。この結果を受け,①長丁場である国家試験対策期間のモチベーション維持への働きかけ②学習支援担当者が国家試験対策の全体像を見せる③候補者を孤立させないといった3点を学習支援者が意識して進めていくことが必要であろう。また候補者と施設職員の双方にとって,関係性を築いていく力や態度を育成する場が必要ではないかと考える。

13 0 0 0 OA 「教育」分野

著者
西口 光一
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.8-24, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
25

『日本語教育』の1号から最新号までを概観すると,大きく3つの時期に分けることができる。第1期(1号から70号まで)の前期は日本語教育学の草創・確立期で,伝統的な日本語教育の方法の確立と確認に貢献する論文が多数を占めている。後期には第2期の教育方法の変化の予兆となる研究が発表されている。そして,第2期(71号から125号)初期の73号(1991)ではコミュニケーション中心の教育方法が採り上げられ,伝統的アプローチとの対比で熱気を帯びた議論が展開された。しかしながら,それ以降は,そうした日本語の習得と指導の原理に関わる議論は続かなかった。また,第2期は日本語教育に関連した日本語学や第二言語習得研究の論文が隆盛を極めた時期であった。第3期(126号から151号)に入ると,2つの特集で日本語教育研究の今後の方向が提案された。最後に,日本語教育研究が実りあるものとなるためには,日本語の習得と指導の原理を追求し洗練していく姿勢が重要であることを指摘した。
著者
山本 冴里
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.1-15, 2011

<p> 本稿は,主に計量テキスト分析の手法によって,戦後国会の「日本語教育」言及会議における論点を調査し,また,そこで「日本語教育」に言及した人々(アクター)が誰であったのかを調べた結果を記したものである。調査の結果,アクターが文部省関係者を中心としていたことや,時期によって「日本語教育」言及会議数には大きな増減があったこと,また全時期の議論にほぼ通底する使用語彙と,各時期を特徴づける独特の語彙の存在が明らかになった。さらに「日本語教育」言及会議数急増期については,該当時期に特徴的な語を析出し,その特徴的な語と語の関係についてまとめた。</p>
著者
中川 健司
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.67-81, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
16
被引用文献数
4

EPAに基づく介護福祉士候補者が国家試験を受ける上で漢字が大きな障壁となると予想されており,国家試験を見据えた漢字学習支援が急務となっている。本研究では,国家試験受験の上で必要な漢字知識を検証するために,過去8回の国家試験中に出現する漢字の頻度と傾向を調査し,介護分野の漢字教材で扱われている漢字と比較対照した。その結果,8回の国家試験中の出現頻度が29回以上の漢字497字で,全13科目においても,その中の介護関連3科目においても,出現漢字(延べ)の約90%がカバーされる一方で,教材で扱われている漢字でカバーできるのは50%未満にとどまることが明らかになった。この調査結果は,介護分野の教材で扱われている漢字では,国家試験に出現する漢字をカバーしきれていないことを意味し,国家試験に対応するためには,漢字教材で扱われている漢字以外にも試験に頻出する漢字を相当数学ぶ必要があることを示唆している。
著者
山内 美穂
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.82-96, 2015 (Released:2017-12-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2

本稿は,一般に並列で用いられる「たり」を,「単独使用」することで生じる新たな用法に着目した研究である。具体的には「結婚しないと言ってた人が,結婚したりする」というような,会話文によく見られ,「可能性」の意味合いなどが生じる「たり」の用法について調査・考察した。調査にあたっては,20代~70代の日本語母語話者による2人1組の自然会話データ100人分を用い,会話で使用される頻度,形式のパタン,会話の流れなどを丹念に観察した。その結果,会話において,「たり」の「単独使用」形式は(a)「~たり」形式,(b)「~たりとか」形式,(c)「~たりして」形式の3つに分類され,「1つだけを例示し,一方でそれ以外のあらゆる事態や側面を暗示する用法」から「可能性」の意味合いなどが生じたり,話者の「意外」な気持ちが表せることなどを,実際の会話データを示しながら明らかにした。
著者
山本 冴里
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.1-15, 2011

<p> 本稿は,主に計量テキスト分析の手法によって,戦後国会の「日本語教育」言及会議における論点を調査し,また,そこで「日本語教育」に言及した人々(アクター)が誰であったのかを調べた結果を記したものである。調査の結果,アクターが文部省関係者を中心としていたことや,時期によって「日本語教育」言及会議数には大きな増減があったこと,また全時期の議論にほぼ通底する使用語彙と,各時期を特徴づける独特の語彙の存在が明らかになった。さらに「日本語教育」言及会議数急増期については,該当時期に特徴的な語を析出し,その特徴的な語と語の関係についてまとめた。</p>
著者
縫部 義憲
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.4-14, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
11

本論では,日本語教育の多様化に対応して日本語教師の多様化が求められていることを踏まえて,そもそも日本語教師は基本的に,あるいは共通して,どのような力量や専門性(リーダーシップ)を備えているべきかを考えるために,学習者と教師を対象とした日本語教師の行動特性に関する一連の国際調査を紹介した。その分析結果,目標達成機能(言語知識・言語技能・運用能力,文化・世界に関する知識,授業の実践能力)と集団維持機能(教室経営,人間関係,フィードバック行動,カウンセリング・マインド)を総合的に身につけることが必要だと分かった。 これを受けて,カウンセリング・マインドを備えた日本語教師の育成が今後の課題であることを指摘し,その新しい傾向を教師の成長という概念で表現した。どのような日本語教育を行うために,どのような教師が必要なのか,を常に自問することも大切である。
著者
山田 泉
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.4-18, 2020-04-25 (Released:2022-04-26)
参考文献数
10

人は一生を通じて自己実現の過程を歩むと言えよう。自己実現とは完全に自分らしく生きていると自らが実感できる状態のことである。そのために「自分とは何か」を追求し,今,現在の自己認識から,目指すべき生き方形成 (キャリア形成) の方向性を得,それに向かって人生の設計 (キャリアデザイン) を行う必要がある。自己認識とは,過去から現在の自分,未来へと続く身近な人々の人生とのかかわり及び同時代に生きる身近な人々とのかかわり,関係性から「他者の他者としての自分」 (鷲田 1996:105-25) として反転的に得られるものである。タイトルを「多言語・多文化背景の年少者のキャリア形成」としているが,外国につながる子どもたちの多くが十全に「多言語・多文化背景」があるかどうかは疑わしい。彼・彼女らのキャリア形成において,「多言語・多文化」であることは,社会参加のためのスキルとしてのエンプロイアビリティ (労働市場においてプラスに評価されうる就業能力) だけでなく,自己実現の過程を歩む上で必要な自己認識にとっても重要なものである。外国につながる子どもたちに母語・母文化 (継承語・継承文化) を保障することは日本社会の責務である。
著者
室伏 広治
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.44-49, 2016 (Released:2018-12-26)

アスリートにとってのコミュニケーションの重要性を,自分の経験をもとに示し,コミュニケーション能力と競技力との関連について述べた。また,ハンマー投の競技者としての私のアイデンティティや,日本的身体感覚とことばとの関わりについて記した。さらに,オリンピック・アスリートの存在の意味を自問し,社会に貢献できることについて示した。
著者
光元 聰江
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.19-35, 2014 (Released:2017-02-17)
参考文献数
19

本稿は,日本語指導が必要な児童生徒(以下:「子ども」)の学校現場での「やさしい日本語」使用に関して,日本語教室とその「子ども」が在籍する学級(以下:在籍学級)との関係性の中で考えた。この両者を結ぶ教材として,「やさしい日本語」に書き換えた国語の「教科書と共に使えるリライト教材」(以下:「リライト教材」)の活用について提案した。まず,「子ども」の教科教育についてのこれまでの動向について述べた。次にリライト教材について,作成の理念,基本的な作成法等を記述した。そして,「リライト教材」を活用した授業―取り出し授業と在籍学級の授業―において,「子ども」がどのように授業に取り組んだかを紹介した。「リライト教材」の活用は,「子ども」に在籍学級での対等な「参加」を促し,自らの学びを自らの言葉で「語り直す」という質の高い学びをもたらした。今後,「特別の教育課程」実施にあたり,日本語での教科学習参加に資する一方法として,「リライト教材」の活用による授業を提案した。
著者
宇佐美 まゆみ
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.34-49, 2015 (Released:2017-12-26)
参考文献数
20

本稿では,複合領域である「日本語教育学」の課題,従来の談話研究の動向に触れた後,「総合的会話分析」(宇佐美2008)という会話を分析する一つの方法論について,その趣旨と目的,方法について紹介する。また,この方法に適するように開発された文字化のルールである「基本的な文字化の原則(Basic Transcription System for Japanese: BTSJ)」,及び,『BTSJ文字化入力支援・自動集計・複数ファイル自動集計システムセット』についても簡単に紹介する。また,会話の分析を行う際にも,目的や対象によっては,量的分析と質的分析の双方が必要であり,その有機的な融合は,不可能ではないことを論じる。その上で,「総合的会話分析」の方法が,「日本語教育研究」にいかに貢献できるかについても論じる。また,多機能「共同構築型データベース」である「自然会話リソースバンク(NCRB:Natural Conversation Resource Bank)」についても,簡単に紹介する。
著者
山本 冴里
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.149, pp.1-15, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12
被引用文献数
4

本稿は,主に計量テキスト分析の手法によって,戦後国会の「日本語教育」言及会議における論点を調査し,また,そこで「日本語教育」に言及した人々(アクター)が誰であったのかを調べた結果を記したものである。調査の結果,アクターが文部省関係者を中心としていたことや,時期によって「日本語教育」言及会議数には大きな増減があったこと,また全時期の議論にほぼ通底する使用語彙と,各時期を特徴づける独特の語彙の存在が明らかになった。さらに「日本語教育」言及会議数急増期については,該当時期に特徴的な語を析出し,その特徴的な語と語の関係についてまとめた。
著者
古川 智樹 手塚 まゆ子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.164, pp.126-141, 2016 (Released:2018-08-26)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本稿では,大学・大学院進学を目的とする上級日本語学習者を対象に,日本語科目の文法教育においてTraditional Flip(2014年9月~1月:実践①)と実践①に練習問題等の課題を追加し,より学習者主体の授業に近づけた反転授業(2015年4月~7月:実践②)を行った実践結果を報告する。分析は,視聴(アクセス)ログ分析,学習成果分析,アンケート調査及び半構造化インタビュー調査の3つを行った。以上の調査及び分析を行った結果,視聴ログ分析,学習成果分析,いずれにおいても実践②において反転授業の効果が確認された。また,アンケート,インタビュー調査においても,学習者は講義動画を高く評価しており,それらによって文法の理解度が高まり,授業にも入りやすくなったという意見が多数を占め,本実践で行われた反転授業が有効に機能していたことがわかった。
著者
中島 和子 佐野 愛子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.164, pp.17-33, 2016 (Released:2018-08-26)
参考文献数
29

多言語環境で育つ年少者の作文力の分析には,モノリンガル児とは異なり,4大要因(年齢,滞在年数,入国年齢,母語力)を踏まえる必要がある。本研究は,英語圏で収集した日・英バイリンガル作文(「補習校データ(2010)」)336名から選出した小学校6年生から中学校3年生(82名)を滞在年数と入国年齢によって短期・中期・長期の学習者グループに細分化し,各グループの特徴を把握すると同時に,日本語指導のあり方について考察した。分析の対象は,作文の構想を練る段階であるプレライティングと本文の文章構成力である。文章構成力の指標としたのは導入部分とまとめの部分,単文を使用する割合である。またバイリンガル児特有のトランスランゲージングと2言語の関係にも留意した。これら4大要因による学習者の細分化は,国を越えて移動する国内外の年少者一般の言語能力を把握する上で,また実態に即した指導への示唆を得る上で,極めて有用である。
著者
川口 良
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.121-132, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
13

動詞否定丁寧形の「ません」と「ないです」の2形式の併存を「言語変化」の視点から捉え,規範形の「ません」形が「ないです」形へシフトする要因を探った。発話行為に着目して自然談話を分析した結果,「ないです」形へのシフトは,「情報要求(疑問文)」より「情報提供(平叙文)」において大きいことが分かった。情報提供の「ないです」形は,相手の示した「肯否」の対立について,「否定」の判断を伝達するのに使われる傾向が窺えた。これは「聞き手の理解しやすい形式を作り出す」という言語変化の要因と考えられる。情報要求における「ないです」形へのシフトは,やはり「否定」の意味が顕在化する命題否定疑問文において確認されたが,発話行為が「質問」→「確認要求」→「勧誘・依頼」へと話し手の意図の実現要求へ向かうにつれて消滅していった。これは,聞き手への配慮を示す必要性に伴い,丁寧辞が先行する「ません」形がシフトしにくくなるためと思われる。
著者
金田 智子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.13-27, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
16

「生活のための日本語」を身に付けることは,就労や結婚を目的に来日した人,つまり生活自体が滞在目的である人にとって,日本社会で十全な生活を営んでいくために必要不可欠である。この前提に立てば,生活のための日本語能力を測定するテストは,ライフステージに応じた日本語学習の指針となり,動機付けをもたらすものとして,また,日本語能力を適切に説明するものとして機能する必要がある。しかし,現行の公的テストは,留学やビジネスなどを目的とした学習者を対象としたものであり,生活のための日本語能力を測定しうるものではない。オランダの市民統合テストは大規模テストでありながら,パフォーマンス評価によって運用能力を測定し,ポートフォリオ評価によって,実生活でのオランダ語使用を評価の対象とすると同時に,社会の中でオランダ語を用いることの促進をねらっている。市民統合テストの方法やシステムから,生活を目的とする外国人の日本語能力を測定することの可能性と課題を考える。