- 著者
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川井 陽一
- 出版者
- 学校法人 北里研究所 北里大学一般教育部
- 雑誌
- 北里大学一般教育紀要 (ISSN:13450166)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, pp.151-166, 2012-03-31 (Released:2017-09-09)
ヨーロッパにおいては、歴史的に、言葉 ( 言語 ) に高い価値を置く考え方があり、教育においても重視されてきた。それは古典による教養が人間性を高めるということにつながる考え方でもあった。 ギリシア・ローマの古典を重視し、それを根底に据えながら人間形成を図る教育のあり方をヒューマニズム教育と呼び、ルネサンス期イタリアにおいて確立された。確立者としてのヴィットリーノ・ダ・フェルトレの名はよく知られている。 ルネサンス期に確立されたヒューマニズム教育は、ギリシア・ローマの古典、篤い宗教心、ギリシア的理想である健やかな体、いわゆる知・徳・体の調和的発達をねらいとしたが、その根本はあくまで古典をとおしての人間形成であった。古典をとおしての人間形成という手法は、わが国の素読もこの系譜につながるとみることができ、その意味では、国家や地域また時代を越えた普遍性を有している。それは人格の陶冶そのものと関わるという点においては、教育原理に深く結びついているとも言えよう。 ヒューマニズム教育は教育階梯においては、高等教育の準備段階である中等教育として位置づけられ、職業人の育成ではなく人格の陶冶を目的とした。その影響は、たとえば、ドイツのギムナジウム、イギリスのパブリック・スクール等、ヨーロッパの中等教育に及んでいる。 ところで、わが国においては、新しい学習指導要領において言語活動の充実が打ち出された。改正された教育基本法第 2 条の考え方や、さらには学校教育法第 30 条の考え方を踏まえながら、子どもたちの思考力、判断力、表現力等をはぐくむためには、言語能力を高める必要があるとされている。また、中教審答申において、言語は知的活動 ( 論理や思考 ) の基盤であるとともに、コミュニケーションや感性、情緒の基盤であることが述べられている。 今後の国際化社会を展望するとき、古典を学ぶことによる教養の形成や、言葉 ( 言語 ) を磨くことによるコミュニケーション力の向上及び論理的思考力の向上等はさらにその意義を増すと思われる。そのような観点に立てば、言葉 ( 言語 ) さらには古典を重視するヒューマニズム教育は、今日的意義を有し、わが国の今後の教育においても大いに価値をもつと考えることができるのである。